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悟空はいったい何のためにドラゴンボールを欲しがるのか?
マクガフィンものと、西遊記ものをいっしょに作劇していくのは、天才トリヤマにとっては苦行だったようです。
彼はお話作りについてはそれほど秀でていないと、ドクターマシリトも後にはっきり言いきっているぐらいだから。
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それでその後いろいろ試行錯誤を経て、ジャンプ王道のトーナメント・バトルものに落ち着きました。
西遊記的な股旅ものは完全に捨てて、ドラゴンボールというマクガフィンを追って右往左往というのも捨てて…
地球侵略を諮る悪漢がいて、その計画実行のためにドラゴンボールを手に入れようとしている、ラララよゐこの悟空はそんな悪漢は許せない、阻止するにはドラゴンボールを先に手に入れるしかないと、そういう段取りで彼にドラゴンボールを追わせる風に、物語の構造が変更されたのだと想像します。
彼自身は無欲だから。亡き祖父の遺品としてドラゴンボール(のひとつ)に執着するものの、七つ揃えて何か野望を果たしたいとは欠片も思っていない。
そういう子だからこそ筋斗雲に乗れる。よゐこでないと乗れない飛行雲と設定したのは巧いですわ!
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そういう無垢無欲(大食漢ではある)のスーパーボーイを主人公にすると、自分からは動き出さない。そこで「おらもっと強くなりてえ」と「よいひとたちに悪いことする奴はゆるさねえ」の二本柱で、ドラゴンボールを巧みにマクガフィン化しているのです。
明先生がそう計算したとは思えません。マシリトもそこまでは企んでいなかったと思います。ジャンプ男子の反応に振りまわされながら、ふたりが自然にたどり着いていったものだと思われます。
ここ、とても重要な点なので、後日続きを思索するぞい。
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[追記です] 西遊記は、天竺まで行ってお経を貰うのが旅の目的でした。すなわち天竺にたどり着くことが目的化しています。しかしよく考えたら、お経が手に入れば天竺でなくても別にいいんですよねあれって。コスモクリーナーDが手に入るならばイスカンダル星まで出向くまでもないのと同じで。そこのパラドクスが実際西遊記終盤では露呈します。天竺に着いたはいいもののお経をくれない話があるのです。そこ、子どもの頃に読んで仏さまは意地悪だなーと思ったのを覚えています。その後ちゃんとくれるんですけどね。
最初期ドラゴンボールは西遊記準拠の股旅物でした。ただ天竺にあたるものは設定されていなかったと思います。お経ならぬドラゴンボールを七つ集めるための旅だったから。天竺なりイスカンダルなり、目的地は設定されていないと西遊記的股旅物は成り立ちません。そこを鳥鳥コンビは読み違えたのです。宮崎アニメ的ラブコメ冒険連続譚をアキラさに期待してしまったマシリト博士の失態でした。
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ドクタースランプは連載決定までに500頁ぶんのボツ原稿を経ています。ドラゴンボールもやはり事前にいろいろボツ出しされてはいますが、むしろ連載開始後によゐこのジャンプっ子たちからボツ出しされ続けて育っていった連載だったといえそうです。回を追うごとに人気投票順位が下がっていって、およそ二十のうち十何位にまで下降していました。亀仙人のもとで盟友クリリンとともに修行の日々だったのは、鳥コンビにとってまさに苦難の毎週だったのとパラレルですわねの。
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後日につづくぞドラゴンボール分析