わが家はレッドベアに逆らえない。
レッドベアとは、貨物列車である。
出会いは3年前。息子は電車が大好きだ。その中でもレッドベアがいつも彼の中で一番だ。
散歩していても、車のチャイルドシートに乗っていても、レッドベアが通れば彼はごきげんだ。
息子が笑うと、私も笑うし夫も笑う。だからついつい、線路の見える道を選ぶし、電車を眺めるのにも付き合う。
彼に弟ができた。弟はいつだって兄の真似をする。今は2人してレッドベアが好きだ。
私たちは、前にも増して線路を見つめる。レッドベアが通ることを願いながら。
レッドベアとは、貨物列車である。
車両に乗れるのは運転手1人だけ。
いつも高速で走り去る。
乗れないし、最寄り駅にも止まらないレッドベア。
私たちも見逃すまいと、必死だ。子どもたちが見逃さないように、なるべく早く気づいて「ほら、レッドベアだよ」と教えてあげる。
そんな生活を続けていたら、変化が起きる。
1人で車を運転しているのに、まちなかでレッドベアを見かけたら、誰かに教えたくなってしまう。
長いコンテナの列を嬉々と見つめてしまう。
線路沿いの公園で一緒に遊んでいたら、踏切の音が聞こえれば、一切の作業を中断し、汽笛の音に耳を傾ける。
レッドベアが通ればまた遊びに戻る。
まるで、大名行列か国王陛下のお出ましである。
うちの家族はレッドベアに背中を向けられない。
レッドベア陛下は我らに喜びをお与えになった。
息子は言う。「ぼく、おおきくなったら、レッドベアのうんてんしゅになる!」
「じゃ、運転手になったらお母さんも乗せてね」
「レッドベアは貨物列車だから、乗れないよ」
通過するレッドベアを眺めるのはまだ終わりそうにない。
息子たちよ、どんどんすすめ。線路沿いで見てるから。