シアター・ホームステイinアトリエ銘苅べ―ス⑥
滞在五日目のことをすこしと、六日目について。
沖縄での「内地」という言葉をなかなか使い慣れずに、沖縄の方のことをさして「内地の方」と言ってしまうという、痛恨の誤用をしていたことに気が付いて悶々としていたりします。
五日目。
この日は割合ゆっくりと過ごすことができ、国道58号を北上して、ずっと行ってみたかったシーサイドドライブインへ行ったりしました。
栄町市場で迷子になるなど。
つづいて滞在六日目。
この日はわが街の小劇場さんを見学させていただきました。
私自身、2018年に利賀の演劇人コンクールにスカラシップとして滞在していた折、わが街の小劇場・初代代表の福永武史さん演出の『弱法師』を拝見したことがありました。
そのときたまたま一緒に滞在していた綾門優季さんをして「マジで怖かった…」と言わしめた、福永さん演じる俊徳のラストシーンの異様な存在感は、今も強く印象に残っています。
福永さんはこの年の演劇人コンクールで優秀演出家賞を受賞されました。
もう一組の優秀演出家賞が野村眞人さん(劇団速度(当時、現レトロニム)) の『冒した者』 で、いわゆるドラマとポスト・ドラマといってよいだろう、それぞれに異なる作風のお二人が並んで受賞されたのもまた印象的だったりしました。
そんな福永さんが上京されることとなり、その後を継ぐ形で現在わが街の小劇場の代表を務められるのが鳥井由美子さんです。
わが街の小劇場という場所は国際通りちかくの商業地帯の中にあり、近隣には住宅もありオフィスもありといった環境で、いわゆる劇場のように使える場所ではないため、そのつど近隣の方々とコミュニケーションを取り、互いに理解し関係をつくりながら運営されている場所とのことでした。
その名の通り街の中にある劇場空間で、目の前の道路には人や車が通り、生活音もあり、窓からは光も差し込みます。
そうした環境の中で、たとえば”演劇至上主義”的に奢るのではなくて、周りの生活との兼ね合いのなかでいかに演劇の上演が可能かを考え、この空間を味わいながら作品を立ち上げてもらうことを大切にされているというお話が印象的でした。
そうして民間の劇場として、ただの貸し小屋としてではなくほんとうの意味での文化施設として、短期的な成果に囚われることなく、10年・20年・50年という長い目でみて真に作品やアーティストを育てられるような場所にしていきたい、というこころざしも伺うことができました。
そのあと桜坂劇場へ移動し、シネマ組踊『孝行の巻』のワールドプレミアを拝見しました。(↑のリンクからはすこしのダイジェスト映像が見られます。)
はじめてみる組踊(くみうどぅい)は、ぞっとするほどきれいで、きれいであればあるほどに、すこし怖かったです。
中国から琉球王国の新しい国王を任命するためにやって来る中国皇帝の使者である冊封使を歓待するために創始された組踊のなかには「孝行もの」と呼ばれるジャンルがあり、琉球王国と中国との関係を親子に見立て、子は親に忠義を尽くし、自らを犠牲にしてでも孝行する、という筋立てのものが多いのだそうです。
伝統の8・8・8・6(サンパチロクと呼ばれる)で唱えられる台詞は琉球音階の旋律もうつくしく、その中にさまざまな対句表現などがおり込まれ、映像のカメラでクロースアップされる立方の皆さんのこまやかな表情や立ち姿も、どの瞬間をとっても一部の隙もないほどに洗練されていました。
映画館の周りは桜坂という地名なのですが、今は桜がありません。
というのも、沖縄の人たちがかつてこの地に「戦争で焼け野原となり殺風景な場所になってしまったから、桜でも植えよう」と植えた桜を、占領下で闊歩していた米兵たちが「おお、きれいな花だな!!」といって片っ端から枝を切って持って帰ってしまったのだそうです。
「そんな、そんなのただの山賊じゃないですか…!!」と驚くと、「本当にむちゃくちゃだったんです。向こうは占領軍ですから、沖縄の人間は同じ人間だと思われていなかった。だから暴行や強姦だって、ほんとうに日常茶飯事だったんです。」と当山さん。
たしかに文献やドキュメンタリーなどでは聞いたり読んだりしたことのあるお話を、しかし沖縄の地であらためて直にお聞きして、絶句してしまいました。
『9人の迷える沖縄人』の中にも、「昔、沖縄には人権そのものがなかったような時代だってあった」といった台詞があるのですが、ほんとうにその言葉の重みをどう受け止めたらいいのか、そもそも本土の人間である私にその想像が十分にできるものなのだろうか、(紋切り型みたいでとてもくるしいのですが、)わからなくなりました。
夜には銘苅ベースへ移動して、「INDEPENDENT:NHA 22」を観劇しました。
珠玉の一人芝居が並ぶ中にあって、個人的には戯曲デジタルアーカイブでお手伝いをさせて頂いたときにご縁のあった大迫旭洋さん(不思議少年)の『そのころ』を、まさかのアトリエ銘苅ベースで、その上演を初めて拝見することができ、感無量でした。
そのあとわが街の小劇場、鳥井さんのお宅へすこしお邪魔してアサード(神里さん!!)をごちそうになり、充実した一日を終えました。