見出し画像

フランス駐在の診断士が語る『フランスの中小企業と支援政策』

起業支援に取り組む中小企業診断士の集まり『スタラボ

今月の座談会は、この3月までパリに駐在していた中小企業診断士 戸島 仁嗣さまにご登壇いただきました。

テーマは「フランスの中小企業と支援政策

現地で生活して、働いていたからこそ感じられる、フランスのリアルが詰め込まれた講演でした。
フランス語が堪能な戸島さんのおかげで、現地の資料も紹介いただき、日本で働く診断士にとって、遠いフランスの中小企業との距離感が縮まった感じがしました。(当方、英語もしどろもどろなので・・ただただリスペクト)

 戸島 仁嗣 様
中小企業診断士


ODA(政府開発援助)を担う政府系機関(JICA・国際協力機構)に勤務。フランス、象牙海岸、タイ、モロッコに駐在。
東京都中小企業診断士協会 中央支部、板橋診断士会所属
証券アナリスト、ITストラテジスト等

以下、戸島さんの座談会の概要です。
(掲載許可をいただいています)

フランスの中小企業とは

フランスにも日本と同じように中小企業の定義があり「零細企業」と「中小企業」に分けられる。日本の定義との違いは「売上高」が基準に入っていること。
(日本の中小企業の定義は、製造業であれば、資本金(出資の総額)3億円以下、常時使用する従業員数300人以下)

零細企業(microentreprise/TPE)
:従業員数10名未満、かつ年間売上高2百万ユーロ(約2.8億円)未満

中小企業(PME)
:従業員数250名未満、かつ年間売上高5千万ユーロ(約70億円)未満(又は総資産43百万ユーロ未満)

フランスの中小企業を「企業数」「売上高」「雇用」の切り口からみると、フランスの企業のなかで、大きな存在であることがわかる。

企業数から見た姿
●仏企業のうち、99.9%が零細・中小企業。
●零細・中小企業のうち、大半は零細企業(約3百万社)であり、このうち半数以上は 従業員のいない個人事業主。中小企業は約14万社

売上高から見た姿
●仏全体の企業売上のうち約1/3、1.3兆ユーロ(約180兆円)が零細・中小企業
●零細企業はGNIの9%(主に建設、飲食、宿泊業)

雇用から見た姿
●仏全体の労働者の半数近く(49%)、約14百万人を零細・中小企業が雇用(うち、零細企業が全体の2割を雇用)

フランスの中小企業支援

フランス政府の中小企業支援の大目的は次の3つ。特に起業支援は、欧州のなかでも力を入れている分野。

①起業、企業の成長・発展や承継
(起業支援の取組みは後述)

② 企業の近代化促進
 新製品の製造・販売、新市場開拓を可能とするような革新的創造を促進

③ 企業の法的・行政面・財務面環境の改善
 行政手続きや税・社会保障制度の簡素化、起業・成長段階の財務リスクを適切にシェア

中小企業支援は、日本の財務省と経済産業省が合体したような「経済財政省」を中心に、多数の関連省庁が携わる。さらに地方自治体、EUのほか、金融面からは公的投資銀行BPIフランス等が関わっている。

コロナ禍では、2020年3月以降、補正予算等により、ロックダウンで休業となる企業を様々に支援。
・休職する従業員に支払う手当てを国が100%補填(後に8割へ減額)
・営業禁止となった飲食・小売り・ 観光関連業への給付金
・政府直接貸付(政府保証融資)の支援拡大
・中小・中堅企業向けの輸出支援措置の拡大

これらの取組みにより、2021年になって企業の業績が堅調に回復。人手不足の状態になり、かつてない低失業率の状態になっている(一方でフランス政府の財政赤字は拡大)。

フランスのスタートアップ支援

フランスでは、高い成長が期待される『ユニコーン』と呼ばれる企業が増えている。

公的投資銀行BPIフランスによるスタートアップ企業の定義は、
①高い成長の見通し
②新しいテクノロジーの開発・活用
③大規模な資金調達の必要性
とされ、「成長」「イノベーション」「資金調達」がキーワードとなっている。

スタートアップへの企業への支援は手厚く、French Tech(フレンチテック)の取組みなど、欧州でのスタートアップ支援をリードしている。
・政府による産業育成・雇用対策パッケージ「French Tech」
・BPIフランスによる各種金融・ハンズオン支援
・世界最大級の官民インキュベーター施設「ステーションF」


最後に

ネットで世界中の情報がタイムリーに取れる時代。
とは言いながらも、なかなか海外の中小企業の実態や政策を学ぶこともなく、今回の座談会はフランスの中小企業を知る貴重な機会になりました。

フランスの開業率が日本よりも高い理由は
という参加者からの質問に対し、戸島さんの見解として

フランス人は日本と同じように人見知りなところもあったりする。でも石橋をたたいて渡ろうとする日本人よりもリスクをとる。フランスの国是の一つが『連帯』。失敗しても社会が支えていくようなカルチャーがある
という回答が印象的でした。

先進的なスタートアップ支援の仕組みだけでなく、失敗を許容する、国のカルチャーが支援の土台を支えていること、を感じます。

「欧米や中東からの観光客はすでに戻ってきている」「パリのレストランはお客でいっぱい」「コロナと共生して経済を回している」など、リアルな現地情報を交えた内容の濃い1時間でした。

戸島さま、帰国早々にご講演、ありがとうございました!