波のカナタ 高2_12 夏実

 晶 夏実
終礼が終わってジャージをロッカーに取りに行く晶。ザワザワしている廊下。部活に行ったり、予備校に行く生徒達。晶も荷物を持って部室に向かおうとする。
北宮 夏実がくる。
「桑ノ葉くん」
「何」
「劇__すっごくよかったよ」
「ありがと」あちこちで声を掛けられた。
晶、部室に行こうとする。夏実も付いてくる。
「あのね」
「ん」夏実は、躊躇して晶を見た。
「……つきあってもらえナイ?」晶、夏実を見る。

「__いいよ」ニコッとして夏実を見た。
「一緒に帰ってもイイ?」晶に近付く夏実。
「イヤ。俺、部活ある。そっちは?」
「私も。待ってる」
「何部」
「剣道部」
「うーん。けど友達と帰りたいしな」
「じゃあ、いつなら会える?」
「分かんない。そっちヒマなとき連絡して。行けたら行くよ」晶が、携帯を出す。
「……うん」夏実も慌てて携帯を出す。

晶は、夜布団の中でゴロゴロとしながら少し考えた。
夏ちゃんて……。功くんが呼んでたから。一学期に功くんと夏ちゃんが、一緒に体育委員をしていて二人の距離が近くてジリジリした。功くん。夏ちゃんのこと、好きなの? 聞きたくない。知りたくない。だから。
夏ちゃんに言われてオッケーしてしまった。
うん。__最低だね。
ごめんな。功くん。どうしても今はまだ離してやれない。美少女とはどうなってんの。セカンドでもいい。もう少しそばにいて。DTなって約束した。夏ちゃんに手は出さないから。だけど功に渡すわけにいかない。いや。功を渡すわけにいかない。
ね。功くん。そばにいて__
好きになってごめん。気持ちとか返してくれなくてもいい。だけど、まだ誰のものにもならないで

北宮 夏実(きたみや なつみ) 波の高校二年生 女子 162cm、BMI やや細身、一重でボーイッシュな顔立ち、ポニーテール、剣道部副部長、一学期に佐々木 功と同じく体育委員、素直で真面目なタイプ

©️石川 直生 2021.

晶 夏実 2

 土曜日の部活終わりの晶。他校で練習試合だったのでジャージにラケットバッグを背負っている。ターミナル駅で夏実と待ち合わせる。夏実は流行りの私服。白のレースのブラウスにフンワリしたロングスカート。ピンクのパーカーも可愛い。晶にはキラキラと輝いてみえた。少し申し訳ない気がした。自分なんかのどこがいいんだろうか。

 北宮 夏実が晶に気付いて笑顔になった。晶もニコッとする。

「どこ行く?」練習試合をして、コンビニのお握りを食べてから来た晶。もう、疲れている。

「服買うの、付き合ってもらってもいい?」

「うん」二人でショップの集まるビルに入る。夏実が、キラキラしたショップで服を見る。晶も眺める。女子が多くて気後れする。入り口近くでボーッとする晶。夏実が服を2、3着持ってやって来る。

「コレとこれ。どっちがいい?」晶は、ファッションに興味がない。困惑する。

「うーん。どうでもイイw」苦笑いする晶。

「えー? ヒドーイ!!」スタンダードな夏実ちゃん。明るく拗ねる。素直な夏実に好感を持つ晶。

「うーん。じゃあ、こっち? 俺、ファッションセンスに自信ない」晶はそばにあった着心地の良さそうなシンプルなトレーナーを手に取る。夏実の持ってきた服とは全然違うテイストである。

「もう! 何それ??」夏実はしばらく迷ってから晶が手に取っていない可愛い服をレジに持って行った。袋を下げて雑貨屋に入る。夏実が、スクールバックにつけるチャームをみる。晶のジャージの袖を引っ張る。

「ねえね。お揃いで何か買わない?」

「えー。何それ。リア充アピール?」晶は思わず余計なことを言う。

「もう! 晶くん、ヒドい! カワイくない!!」そういう夏ちゃんはカワイイとボンヤリ考えた。功くんと仲が良いからモヤ(嫉妬? 自分ではよくわからない) としたけど、ここに功くんもいればなと自分勝手な考えが浮かんでは消える。

「いつも言われる」晶は夏実を笑って見た。夏実は、晶の笑顔がカワイイと思った。

「誰に」

「功くん__とか」

「へえー。仲良いよね」

「そお? アイツ、美少女と連んでるし。付き合ってんのかね」

「5組の玲ちゃんでしょ」

「どんな子?」今日一番の興味を引く話題。

「んー。可愛くて、しっかり者。ハキハキしてる感じ。あ、女優のなになにさんに似てるよね」

「フーン。アイツさ。夏実とも仲いいよな」夏実は、始めて晶に呼び捨てにされてドキッとする。夏実も晶くんと呼んでみたのだが。呼び捨ては、ハードル高いな。そこには触れずに何気なく話し続ける。

「え。そおかな」夏実、ハリネズミのチャームを二つ手に取る。かわいー! これにしよう! とハリネズミを二匹レジに持って行く。晶は、言いそびれた言葉を一人呟く。

__アイツ(功) と夏ちゃんとが仲良くされんの我慢できなくてさ。絶対邪魔してやろうって。そう思ったんだ。

 青いリボンをつけてプレゼントしてもらったハリネズミを眺めて思った。……言わなくてよかった。夏ちゃん。キミはステキな女の子だね。柚子のことがなきゃこのままキミといるのもいいかもしれない。だけど、キミを傷つける。

夏実がラケットバックにハリネズミを付けてくれる。晶が、払うよと言うが夏実はいいの、喫茶店でケーキ食べよーと歩き出す。ケーキを食べながら、うとうとする晶をみて、帰ろうと言う夏実。また、連絡するねと言うと雑踏の中に消えていく。晶は、電車内で吊り革を持ち目を閉じた。夏ちゃんと功くん。お似合い過ぎる。自分は夏実といても、ただボーッとしていた。でも、一緒にいてヤな感じとかは全然なくて、誰もいなければ、夏ちゃんのこと好きになってたと思う。だけど。柚子。功くん。これ以上はやっぱ……。小説ではハーレム展開とか男の夢? なのかな。だけど、自分はそんなに何人も付き合えるような器用さを持ち合わせていない。流とかどうしてんだ!?

 どうして自分は、人とつきあうなんて面倒だって思ってるくせして、誰かが欲しいなんて考える?   夏ちゃんとつきあってみて気付く。自分には、恋愛はマストじゃない。あればあったでいいんだろうけど。デザート的な。贅沢品。受験とか部活だけで精一杯で、人に割く時間がない。別れる? キラいでもないのに? じゃあ、このまま付き合い続ける。__柚子と夏ちゃんを傷つけて? そんなの楽しくない。柚子、キミに会いたい。むぎゅーと抱きしめて。ボクがどこにも行かないように。その胸でボクを繋ぎとめて。功くん。ごめんな。これ以上彼女とか(知らんけど) 作んないで。ボクが抱きしめてあげるから。だから、どこにも行かないで。愛とか恋とかワからない。だけど、二人を失いたくない。その衝動だけが駆け巡る。こんな自分を柚子は、功くんはどう思うかな?__自分が嫌いだ。だけど、柚子。功くん。二人にだけは嫌われたくない。晶は、どうしたらいいのかわからなくなる。ハリネズミを掴む。触り心地がよく、握り続ける。そうか。ハリネズミん。キミはこんなに心地いいから、ハリで身を守ってるんだね。いろんなものに触られないように。壊されないように。キミはボクだよ。晶はハリネズミん(晶が、勝手にネーミングした) をぎゅうぎゅうと握り続けた。晶、ハリネズミんに睨まれる。晶は、変形したハリネズミんを元に戻して撫ぜた。空が暗くなる。

 ©️ 石川 直生 2021.

晶 夏実 3

 月曜日に登校する晶。教室に入り、サッカー部の友達に挨拶をすると、男子に取り囲まれる。晶は、何ナニなに? コワイと、後退る。

「アキちゃん。北宮と付き合ってんの?」晶は、思わず夏実を見る。夏実は、女子に囲まれて冷やかされている。晶は、諦めて答える。

「あー。うん。__友達から。だけど」語尾はもにょもにょしていて、誰も聞いていない。一軍、二軍男子が、ちくしょー!! 騙された!(なにを?) とか、おっしゃ! ライバル減った!! とか、好き勝手に騒いでプリントを投げる。

 晶、無言になる。……。そんな騒ぐようなコト?? __どっちかというと秘密でつきあいたかったんだけど……。まあ、あんなとこでデートしてたら誰かに見られるよな。ハー。失敗した。恋愛。それは探り合い、牽制、奪い合い、独占が絡み合う。トラブルの種。お近付きになりたくはない。一軍のトップの人なら、表だってウワサされたりしないんだろうか。いや、それだってリア充で羨ましいってことになるんだろうか。

 晶は、佐々木 功をみる。机に突っ伏して週間少年マンガ雑誌をパラパラめくっている。晶は、功の机に行って声を掛ける。

「功くん。おはよ」功は、何も答えない。晶は、屈んで功に顔を近付ける。他の生徒に聞こえないようにそっと告げる。

「功くん。試験前の部活ないときにさ。一緒に映画観にいかない?」佐々木 功は、顔を上げて晶を睨む。ガルルルと猛モンチュウが歯を剥き出しにして唸る。

 ……めっちゃ怒っとる。__そりゃそっか。夏ちゃんと寝てはナイけど、取られたとか思ってる?? やっぱ夏ちゃんのこと__。イヤだ。どこにも行かないで。

 功くん。__俺は、君を夏ちゃんに取られたくなくて。ごめん。BLなんて迷惑? ごめんな。

 昼休みに皆とサッカーに行こうとすると、女子に呼び止められる。人気(ひとけ) のないところへ連れていかれ、夏実と二人きりにされる。晶が呟く。

「なんか凄いことになっちゃったね」負担なんですけど。 

「私じゃないよ! __若葉ちゃんに話したら、今日教室に来たら、こうなってて。__なんか、恥ずかしいね」……いや。オメーだろ。__まァ、皆暇だもんな。しょーがないけど。リア充ってマジ凄えな。こんな鬱陶しいこと、なんかある度笑って流してかなきゃか。__メンドクサイ

「気まずい。あと、夏実のこと好きなヤツの反感買いたくない」功くんには、唸られるし。しゅん

「居ないよ。そんなの」夏実が晶の隣に来てピタリとくっつく。

「ワかんないじゃん」晶は、離れた方がいいのかどうすればいいのかわからずされるがままでいる。

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佐々木 功です。え。ありがとう。晶ー!なんか挨拶だって。晶です。え? えっと。え。柚子です。お金は大事だよ〜♪お気持ちだけで。