ゲーム音楽をむさぼる少年フクイチ #音楽の履歴書
ささいな笹さんのハッシュタグ #音楽の履歴書 に寄せて投稿します。書こう書こうと思いつつ、かなり遅くなりました。
マニアックに語る人、ピンポイントに好きな曲を語る人、いろいろいらっしゃっていいと思う!
なんという懐の広さ。ありがたいですね。
では、私は学生時代にハマっていた「ゲーム音楽」について書きます。
ゲーム音楽を好きになる
弟がゲーマーなんです。
マリオカートとか桃鉄とか、みんなでワイワイやるやつは自分もコントローラーを握ってたんですが、RPGはもっぱら弟のプレイを見てるだけでした。
今で言うと、YouTubeを見てる感覚に近いかも。
小学生の頃(1990年代半ば)は、スーパーファミコンのRPG全盛期でした。
・聖剣伝説シリーズ
・クロノ・トリガー
・ライブ・ア・ライブ
・スーパーマリオRPG
あとはドラクエですね。これも忘れちゃいけない。
ちなみに、ファイナルファンタジーはウチにはありませんでした。なぜか。
最初に「ゲーム音楽って、いいな」と思ったのは、ライブ・ア・ライブだったと思います。
「日本の幕末」や「アメリカ西部開拓時代」など、場所も年代もバラバラな8つの物語で構成されたRPGです。
物語ごとにBGMの雰囲気が全く違うんですね。和風だったりウエスタンだったり。しかもそれぞれに、落ち着いた曲調のフィールド曲、緊迫感を呼び起こす戦闘曲などが揃っている。どれも楽しい。
ゲーム音楽うんぬんと言うより、音楽に心を揺さぶられた初めての経験でした。
聖剣伝説のBGMは、どこまでも幻想的に広がり、ファンタジーの世界に厚みを与える。あたかも目の前にある実物かのように思わせる。
クロノ・トリガーのBGMは、ストーリーの起伏、哀しみや希望を克明に映し出す。
と、書き連ねたからには、ぜひここで皆さんにも聴いてもらいたい。
しかし。
昔のゲーム音楽って、合法的に、かつ無料で聴く手段がほとんど無いんですね。Spotifyとかで配信もされてないし。
数少ない例外を紹介しましょう。
名曲ぞろいのクロノ・トリガー、中でも特に有名な「時の回廊」です。
主に、古代の魔法都市で流れます。
再生と同時に身体を包みこむ、やわらかな音色。
別世界の扉を開く高揚感と、あるべき場所に戻って来れたような安心感を共存させる、奇跡の曲だと思います。
中学生になった私は、ゲームのサウンドトラックを買い求めました。
とはいっても財力はない。
ライブ・ア・ライブ。スーパーマリオRPG。ドラゴンクエストⅥ。
わずかに手に入れたCDを繰り返し、ずっと聴いていました。勉強するときのBGMもこれでした。
世はJ-POP全盛期であり、GLAY、SPEEDが大ブレイク。("ブレイク"って言い方も昔の感じだな)
モーニング娘。や宇多田ヒカルも出現。
だけど私は「歌がある曲」のCDは一切買わず、当時からしてもレトロなゲーム音楽ばっかり聴いてました。
流行への疎さは良く言えば仙人、悪く言えば引きこもりです。
クラスメートに「普通のCD買わへんの?」と聞かれました。私がなんて答えたと思いますか。
「お金出してまで人の声聞きたくない。」
うわー、歪んでる。
好きなものを語ればいいんだわ。そうじゃないものをディスる必要ないのにね。
たぶん、そういう態度がかっこいいとでも思ってたんでしょう。
少年フクイチよ。
歌を聴きたくないのは別にいいんだけどさ、将来「あの頃○○が流行ったよね」トークに加われなくなるぞ。
その覚悟はあるのか。
まあいいや、覚悟があったものとして進めます。
耳コピmidiをあさる
少し時がたって、家にパソコンが導入されました。2001年ぐらいの話です。
日本のインターネット最初期かもしれません。テキストサイト「侍魂」の開設がその年ですからね。
いまだゲーム音楽に憑りつかれていた私は、当時唯一と言ってもいい検索手段だったYahoo!に、好きなタイトルを打ち込みました。
たくさんヒットしました。
ゲーム音楽を耳コピして公開してるサイトが。
「耳コピ」とは、音楽を耳でコピーすること。
原曲を各パートごとに聴き分けて、音程を読み取る。
そして作曲ソフトに音符を打ち込み、楽器を割り当て、元の音楽と遜色ないクオリティに仕上げる。
そんな「耳コピ」の職人が、何人も見つかりました。
すごい。こんなことできる人がいるのか。
どんな耳をしているんだ。
公開されている楽曲データを片っ端からダウンロード。
覚えたてのWindowsのフォルダ操作で、ファイルをタイトルごとに分類しました。
クロノ・トリガー、ライブ・ア・ライブ、聖剣伝説、ロックマン、がんばれゴエモン、星のカービィ、ゼルダの伝説、スーパードンキーコング、ポケモン、ボンバーマン、ストリートファイターⅡ、大貝獣物語、パロディウス、など。
気づけば700曲ぐらい集めてました。
【クロノ・トリガーの耳コピBGM】
さらに、ただ聴くだけでは終わらず。
耳コピデータは「midi」という、いわば楽譜の形式になっていました。
編集ソフトでファイルを開けば、ギターやベース、ドラムなどの各パートごとにメロディがわかるんですね。
midiを編集できるソフトを入手し、手に入れた耳コピデータを開く。
主旋律、ベース、ドラムをそれぞれソロで聴いてみる。
「ベース、めちゃくちゃかっこいい」
ゲーム音楽の魅力って、ベースが大きいと思います。
スーファミやゲームボーイの特性なのか、ベースの音が主旋律と同じぐらいはっきり主張してるんです。
それまで「ベースって何?」状態だった私が、低くうなる音をむさぼるように聴き入りました。
ストリートファイターⅡ・リュウのBGMで、格闘家の静かな信念を語るかのように響くベース。
ロックマン7のオープニングステージで、物語が開幕する緊迫感を伝えるチョッパーベース。
ライブ・ア・ライブ「MEGALOMANIA」の激しいメロディの裏で、地を這うようにうねるベース。
言葉でしか説明できないのがもどかしい。
ついに私は、曲を改造して遊び始めました。
テンポをめちゃくちゃ速くしてみよう。全部和楽器に変えてみよう。突然犬の鳴き声を入れてみよう。
個人サイトなど持っていなかったし、改造したデータをWebに上げたりはしませんが、弟に聴かせて笑ったりしてました。
2021年、サイトは生きているのか
さて、思い出にふけっているうちに2021年。
耳コピの職人たちは今、どうしているんだろう。
収集したmidiデータは全て手元にあります。サイトのURLも記録してます。
しかし、20年前の個人サイトで、今も生き残っているものなんてあるんでしょうか。
ハードディスクに残るURLを集めてみました。合計108件。なぜか煩悩の数と同じです。
ひとつひとつクリックしていきます。
閉鎖。
閉鎖。
閉鎖。
全然残ってない。立て続けに遭遇する404 Not Foundの小悪魔。
無理もありません。サイトを維持するのは難しいし、サービス側の事情もありますから。
とりわけ影響が大きいのは、2019年3月の「Yahoo!ジオシティーズ」終了です。
耳コピ音源のサイトには、URLが「http://www.geocities.co.jp/~」のサイトがかなりありました。もちろん全滅です。
ネットではさまざまな変化があった20年間。
SNSが生まれ、動画が隆盛を極め、発信者が渋滞するインターネット。
2000年代初頭の個人サイトなど、時代の超特急に根こそぎ振り落とされたのかもしれない…
と思っていたら、見つけました。
すごい!当時のURLが生きてる!
え、この方ボカロPになってる!YouTubeで曲公開してる!
耳コピ音源そのものは、現在のサイト上には残っていません。
しかし、2001年にクロノ・トリガーを耳コピしてた「mie」さんが、オリジナルの曲を作る人になっている。
他の耳コピ作者さんにも、音楽活動を続けてる人はいるかもしれません。
だけど、URLが20年たっても生きているのはmieさんぐらいでした。
企業サイトじゃないですよ。個人ですよ。
言葉を交わしたこともない人ですが、うれしくなりました。
108件のURLを叩いて思ったこと。
ネットで存在を認識し合っているのは「たまたま」なんだな、と。
発信者が自らサイトを閉鎖することがある。
サイトのスペースを提供していたサービスの方が終了することもある。
Twitterもnoteも、10年後、20年後にはどうなっているかわからない。サービス自体は存続していても、全く違う姿になっているかもしれない。
「耳コピmidi」と聞いて、遠い昔の伝説かと感じた方がいるかもしれません。
しかしそれは、20年後に「2021年のnote」の話を聞く人と同じ感想ではないでしょうか。
もちろん、noteにはずっと続いててほしいですけどね。
2041年には伝説になっているかもしれない世界に、文章を残します。
では、mieさんのオリジナル曲を載せて、今日は終わりましょう。