初恋は実らない
私は2001年の大晦日に生まれた。
21世紀生まれの私ももう20歳になる年になったようだ。
私は今まで生きてきた約20年間のうちの半分以上をあることに費やしてきた。
『バレリーナになりたい』
私が幼い頃に抱き、高校を卒業するその瞬間まで1度もブレず向き合ってきた夢だった。
でもそれは叶わなかった。
最後に受けたバレエ団のオーディションの結果はコロナの影響で延びに延びた。
私は高校を卒業するまでに次のステップが決まらなかったらバレエの道には進まないと高校2年生の時に決めた。
「結果が届かないという結果」は私には十分すぎるくらい立派な結果だった。
4月になって日常からバレエが消えた。
3度の飯とそしてバレエ。
それくらい私の生活の大部分だったものが消えた。
記憶にある中では初めてショートカットにした。
お風呂上がりのストレッチをしないで寝た。
太りそうなものをあえて選んであえて遅い時間に食べた。
憧れのバレエダンサーたちのフォローを外した。
レッスン着とトウシューズはタンスの1番奥に押し込んだ。
日常からバレエが消えたのではなく、私が日常からバレエを消した。
そう思っていたかった。
そうして過ごしていた時、早朝に1通のメール。
「2年間研修生として合格」
何が起きたのかわからなかった。
私が追いやったはずのバレエが私を追って戻ってきた。
決定権は私にあって、私は確かにバレエと離れることを選んだはずなのに。
感情がわからなかった。
わからない感情を理解するための助けなのか、
涙ばかりが溢れた。
でもわからなかった
なんで泣いているのかわからなかった。
母親には合格メールが来たことを伝えた。
もちろんそのメールが来ても私の決断は変わらないことも。
それでいいのかと、本当にいいのかと聞かれたけど
「運命だから」
そう笑顔で答えるしかなかった。
バレエの先生には「合格していたのだから、やってきたことには自信を持って。いつでも戻ってきていいんだよ。」と言われた。
ずっとバレエに対して厳しい目線だった父親には言えなかった。
遅れた結果を踏まえてもバレエの道に戻ることは考えなかった。
仮にもう1度と思っても、このパンデミックの中渡米はできない。
それにバレエのようなお客様がいて成り立つ舞台は開演ができない。
開演ができないとお仕事として成り立たない。
世界のどんな素晴らしいバレエダンサーもおかれた状況は厳しいものだとわかっていた。
パンデミックが収まるまで日本でレッスンして過ごして、動けるようになったらまたオーディションに挑戦するという選択肢もあった。
それでも結果として私はバレエから離れた。
バレエがどんなに残酷で厳しい世界か知っているつもりだった。
本気でバレリーナを目指すと決めた時から、自分はバレエの世界でしか生きるつもりはない、と幼いながらに決めていた。
バレエの道に進まないなら私の人生はそこで終わったって構わなかった。
バレエを日常から消してから私は自分の人生を終わらせようとしていた。
終わらせたかったわけではない、終わらせないといけないと思っていた。
長い間私の夢のために全力で動いてくれた全ての人に、なんて言って謝ったらいいのかわからなかった。
私が消えることが唯一の謝罪だと、本気でそう思っていた。
合格通知は私にとって、バレエの道に戻ってきなさいと言うものではなく
「バレエの世界だけじゃない。人生までも諦めようとしないで。まだ生きてていい。また夢を見たっていい。やってきたことにこうして結果が出たんだよ」と言っているように感じた。
まだ生きていたい。
私はその気持ちを選んだ。
そして私は今、役者になるという新たな夢に出会って前向きに進んでいる。
新しい世界に飛び出してから、私が歩んできた道の話を涙を流して聞いてくれる素敵な人たちにも出会った。
青春を全て1つのことに打ち込んでいた私は同年代の友達との遊び方すらよくわかっていなかったと気がついた。
友達っていいなと思う感情を周りの人から教えてもらった。
そうして日々を過ごしていく中でバレエとの向き合い方にも答えが出た気がしている。
バレエは私にとって初恋のようなものだと。
「初恋は実らない」
そうよく聞くが
初恋があるからこそ人は人を想う気持ちを知り
たとえそれは叶わなくても「初恋」と言う可愛らしい言葉に包まれて
心に残り続けるように。
バレエは「叶わなかった夢」ではなく
「私が初めて抱いた夢」として
美しい思い出として
大事に心にしまってあるものだと。
初めてがあるからこそ人は次に進むことができるんだと。
そう思えるような人間になれたのもバレエのおかげだと思ったら
同じ苦しみが待っていても私はまた
私の人生を選びたいと心から思えた。
パンデミックのせいで人生が思わぬ方向に進んで苦しい日々の中にいる人は大勢いるに違いない。
「諦めなければ夢は叶う」なんて私は思わない。
でもそれは夢を持たなくていい理由にはならない。
もう1度夢を持つことは私も正直とても怖かった。
そんな時背中を押してくれたのは間違いなく過去の自分だった。
今の今まで必死に生きて私の歴史を作ってきてくれた過去の自分が笑って今の私を応援してくれるような今日を生きよう。
そして未来の自分が今の私の思い返して頑張ってくれるように日々を繋ごう。
過去の自分にありがとう
未来の自分に頼んだよ、と。