少女漫画誌『なかよし』の苦境?
少女漫画誌といえば、「ちゃお・りぼん・なかよし」とよくいわれる。『なかよし』はその中でも、「読んでいる人はオタクになる」としばしば語られ、オタクを自認する人たちにとって思い入れが深い雑誌だった(ただ、その歴史観は、『セーラームーン』(1992〜97年)から2000年代末までのごく短い間しか通用しないものだと思うのだけれど...)。
「『なかよし』?知ってる知ってる。『セーラームーン』とか、『カードキャプターさくら』とか、『しゅごキャラ』とか...。」
そういう風に話を進めようとしたそこのあなた!では聞きたいのです。
「じゃあ、今の連載作品って知ってる?」
果たして、答えられるかどうか。おそらく、調べないと分からない。
そこが今回の問題となる。
●復刻、リメイクの時代
『なかよし』2022年11月号で、『魔法騎士レイアース』の1話が復刻掲載されている。
往年のファンには嬉しい展開。ただ、「なぜわざわざ復刻掲載?」とならざるを得ない。
現在の連載陣を見てみる。
「レイアース」以外の往年の名作だと、『カードキャプターさくら』(1996〜2000年)の続編『カードキャプターさくら クリアカード編』(2016年〜)が載っていたり、『ぴちぴちピッチ』(2002〜2005年)の続編(次世代編という感じ)の『ぴちぴちピッチaqua』(2021年〜)が載っていたりする。『おはよう!スパンク てくてく』(2022年〜)も『おはよう!スパンク』(1978〜82年)のプレ連載45周年記念で特別連載されているものだ。ちなみに、9月号までは『東京ミュウミュウ』(2000〜2004年)のスピンオフ『東京ミュウミュウ オーレ!』(2019〜2022年)が連載されていた。ちなみに電子版『なかよし』だと往年の名作の試し読みが毎号のように付いてくる。
「名作」枠が少し多い、という印象を受ける。それだけでなく、それらの開始年が2010年代後半〜つい1、2年前にかけて、という点が気になる。2010年代後半以降の『なかよし』が新作は振るわないことの証拠ではないだろうか?
●2010年代以降の『なかよし』
上のツイートの分析が正しいかどうかは分からないが、『しゅごキャラ!』(2006〜2010年)以後というのがポイントになってくるようだ。ツイートにもある通り、2011年に増刊号の『なかよしラブリー』が休刊している。『ちゃお』の増刊号『ちゃおデラックス』と『りぼん』の増刊号『りぼんスペシャル』が健在なことを考えると、象徴的な事態である。
2010年代の具体的な作品を挙げると、アニメの『AKB0048』(2012〜13年)のコミカライズや、『輪るピングドラム』のキャラクター原案の星野リリィが描いた『きぐるみ防衛隊』(2013〜15年)、などがあり、挽回のチャンスは度々あったように見える(ちなみに今の連載作品の『ギフテッド』(2021年〜)の原作は、『金田一少年の事件簿』の原作者が担当している)。
少女漫画分野外(『しゅごキャラ』のPEACH-PITは青年漫画から、『シュガシュガルーン』の安野モヨコはレディース漫画から)から書き手を引っ張ってくる力が2000年代には『なかよし』を支えていた。しかし、2010年代にはそれがなぜか機能しなくなったようである。
アニメ化が減って多くの人の目に触れることが無くなったことは大きい(『さばげぶっ!』(2011〜17年)のアニメ化(2014年)を最後に、新作のアニメ化は無くなる。あとは「セラムン」、「ccさくら」、「東京ミュウミュウ」と続編・リメイクアニメ。)
『セーラームーン』や『しゅごキャラ』のような「変身ヒロインもの」は、『プリパラ 』や『アイカツ』などのオリジナルアニメで企画されるため、『なかよし』の存在感は薄れる(『プリキュア』のコミカライズは『なかよし』に載り続けているが、あくまでアニメが「主」なのだった)。
2021年の少女向けコミック誌の発行部数では、6位に沈むこととなった。『ちゃお』が1位で、『りぼん』が2位。「ちゃお・りぼん・なかよし」の呼称もこのままでは廃れてしまうかもしれない。
●どうなる『なかよし』
2010年代の『なかよし』を支えた存在として、鳥海ペドロがいる。いくらかアダルティな感じだったけれども、王道少女漫画的なものを多く描いていた(『黒豹と16歳』(2015~19年)は謎めいたイケメンを「ペット」にする話。途中から「ccさくら」の大道寺知世っぽいキャラが出て来るので、これは意識したなあという感じがする)。
「現代ビジネス少女マンガ部」で、90年代や2000年代の少女漫画の紹介が多い中、2010年代の少女漫画としてほぼ唯一紹介されているのが鳥海の『百鬼恋乱』(2013~15年)である。
しかし、『蝶か犯か〜極道様 溢れて溢れて泣かせたい〜』(2019年~)連載中の2022年に、『姉フレンド』に移籍した。やはり『なかよし』に描き続けるには刺激的過ぎたのかもしれない。
また、新作の「変身ヒロインもの」も実は最近も存在していた。『魔女怪盗LIP☆S』(2019~21年)という作品である。
かつて『なかよし』で人気を博した『怪盗セイント・テール』(1994~96年)の模倣という説もあるが、「変身ヒロインもの」の系譜が一応残っているようである。今後それを引き継ぐ作品が現れるのかは分からないが…。
雑誌『ARIA』の休刊によって移籍してきた『王子が私をあきらめない!』(2018~22年)のように、ギャグ調の恋愛ものの方向性もまた現れるのか気になる。
一迅社の『虫かぶり姫』とのコラボのような動きがどこまで広がるかも気になるところである。
『なかよし』がオタクを育成するという俗説は、2020年代初頭の時点ではもはや崩れてしまっているというのが今のところの結論である。90年代から2000年代にかけての、「変身ヒロインもの」を通じたオタク文化との並走は、2010年代に入り、オタク文化に追い抜かされる形で幕を閉じたのではないだろうか。往年の名作でもたせるという戦略がいつまで続くのかは未知数である。いずれにせよ、『なかよし』の休刊あるいは廃刊の知らせを覚悟しておく必要があるのかもしれない。