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「ばるぼら」感想と考察 芸術とは
映画ばるぼらを見てきました。
事前に見てた親から「う~ん、よくわからなかった」って言われていて、ちょっと迷ったんですがどうしても見たくて。
結論から言うと、親の言うこともわからなくはないです。
全体を通してジャズがガンガンに流れて、稲垣吾郎演じる美倉はどんどんどんどん落ちぶれて行って。え? 結局ばるぼらは死んだん?みたいな。
見て何か勉強になるとか、感動する、泣けるという映画ではない。
だけど、私は「良かったな~~!」って思うんですよね・・・・・・。
好きだったところ① 映像
映像がすごい綺麗だった。ずっと彩度低い映像なのに、なぜか毒々しくあざやかでまさにポスターから受ける印象そのまんまって感じ。
都会の灰色の海みたいな光景で、だからこそばるぼらの金髪とかが映える訳よね。
あと定期的にスーツの群れとかゴミ収集車とか、都会の象徴みたいな映像が挟まれるのも好きだった。美倉は元々こちらに居て、でもそこから外れてしまった。
もし行きかう人々のことを少しでも「せわしない」「幸せじゃなさそう」とか思ったなら、あなたも美倉的な「落ちぶれてしまいたい」という隠れた欲があるのかもしれませんね。
そう、なんか美倉はすっごい落ちぶれるのに、なんでか可哀そうには見えないんですよね。ああ、ばるぼらが死んでしまったところは可哀そうだった。だけど言ってたじゃないですか、
「不思議だ・・・・・・こんなに満たされたのはいつぶりだろう」(うろ覚え)
って。
美倉はばるぼらと出会う前からむしろおかしかったじゃないですか。
異常な性欲で、マネキンに欲情するとか、犬とセックスするとか。
美倉はばるぼらと出会ったからおかしくなったんじゃなくて、性欲を受け入れてくれるばるぼらと出会ったことで歯止めが利かなくなっただけな気がします。
好きだったところ② 性愛
見てるとき、正直マネキンのお姉さんと犬のシーンは「いやらし~! 稲垣君体張ってる~!」みたいな邪な感情が出ました。
でも、ばるぼらとのセックスシーンからは一切それがなかった。
なんでかわからないんですけど、本当に女神とのそういう行為みたいな、堕落しきってるのにどこか神聖に見えたんですよね。そんなわけないはずなのに。
自堕落で自分勝手なのに、ばるぼらはどこか神聖だった。
だからそういったシーンでもおとぎばなしみたいな、現実味の無い幻みたいに見えました。そこの区別がハッキリ受け取ったので良かったです。
嫌いなところ① ばるぼらの女神感
さっき「ばるぼらは女神っぽくてエロくなかった!」なんて言っておいてあれなんですが。
途中美倉はばるぼらを「ミューズ」と称しますが、私からすると「なんで?」としか思えませんでした。部屋あんな趣味になるし。秘書的な人に乱暴になるし。お湯沸かしっぱなしにするし。
で原作を調べたんですが、原作ではばるぼらからインスピレーションを受けて一作書くみたいじゃないですか。
女神は富と名声をもたらしたけど、同時に男を堕落させた・・・・・・みたいな趣旨なんだろうに、そこがわかりづらかった。
ばるぼらが美倉に富とか名声をもたらしたようには見えませんでした。
私が気づかなかっただけかもしれないけども。
だからひたすらばるぼらが美倉を堕落させたような、それだけに見えてしまった。時間の都合はあると思いますが、ばるぼらがもたらした利益の部分も書いて欲しかったな~
ばるぼらとは
多分そのまま、芸術の象徴でしょうね。
音楽とか絵画、詩というものはどこか堕落しないと書けないところってあるじゃないですか。
例えばスーツを着て働くサラリーマンとか、そういう所からは外れていて。まさに排泄物みたいなもので。
だけどそこからしか得られない感動だったり衝撃があるのも確かです。
ばるぼらはどこまでも破綻して堕落していたけど、ばるぼらにしかない魅力があった。それは人が芸術なんかに「ハマる」のとまさに一緒だと思います。
美倉と共にいたばるぼらは確かに死んでしまったと思います。
でも芸術は終わらないし、都会も絶え間なくゴミや負の遺産を生み出し続ける。だからばるぼらのような存在は生み出され続ける。
そしてばるぼらを求める人々もかわらず存在し続ける。
芸術はハマりすぎると人生そのものを無に帰してしまうけど、どうしようもなく魅力的で美しい。
ラストシーンのばるぼらは、「それでも必要とされ続ける」芸術の象徴なんじゃないでしょうか。
見て何か得られるものはない、というのはまさに芸術そのものです。
絵を描いて飯が食えるわけでもなく、楽器を弾いて健康になるわけでもない。この映画も、見たからと言って明日からの生活は変わらない。
だけどどうしようもなく魅力的で、ああ、美しかったなあって思う。
見てよかったかはわからないけど、またあの世界をもう一度見てみたいと思ってしまうのも確かです。
涙も何も出ないけど、ただただ「良かったなあ」と思い続ける映画でした。