【名古屋競馬場ラスト観戦記後編】〜最後の重賞開催
2022年3月10日、春の容器に包まれ少し暑いくらいのこの日、僕は名古屋に向かうために東海道線の電車に乗っていた。
その目的は、この週で最後の開催を迎える名古屋競馬場へ競馬を見に行くことである。
3月はJRの鉄道で青春18きっぷが使用できるシーズン。少しでも旅費を浮かしたい場合には最高の切符である。
以前から名古屋競馬場の最後の開催に行きたいと思っていたのだが、最後の開催が青春18きっぷのシーズンだったことは、僕にとって本当に幸運だった。
ただし、時間がかかるのは難点ではあるが。
前編では名古屋競馬場の歴史や新名古屋競馬場のことについて書いてきたが、後編の今回は実際に名古屋競馬場を観戦した時のことを書いていく。
朝早くに静岡駅を出発して約3時間、ようやく名古屋駅に到着した。昼食を済まして、いよいよ名古屋競馬場へと足を運ぶ。
あおなみ線に乗って名古屋競馬場へ
そういうわけで、名古屋駅からあおなみ線に乗車。名古屋競馬場駅を目指し電車は発車した。
名古屋競馬場は交通の便の良い競馬場で、名古屋駅からこのあおなみ線に乗れば約12分という短い時間で名古屋競馬場駅に到着する。
また競馬場の前には名鉄の神宮前まで行く市バスも走っているので、遠方から行くにも便利だった。
競馬場が無くなることになった今、
「次にあおなみ線に乗るのはいつなんだろう?」
などど色々考えていたら、あっという間に名古屋競馬場駅に到着した。
こちらが名古屋競馬場駅である。
競馬場まではここから歩いて5分という近い距離だ。
駅の前には、愛知県に在住する外国人がビザの取得や更新のために訪れる名古屋出入国在留管理局のビルがある。あおなみ線の車内アナウンスでポルトガル語や英語、中国語のアナウンスが流れたのは、この建物があるからなのかもしれない。
ちなみに競馬場が移転したことによって、この駅は3月12日から「港北駅」として新たに名称が変更された。
余談はともかく、駅を出たら左の方向へ直進。しばらく歩くと、競馬場の正門が姿を現す。
「73年間、ありがとうございました」
正面の入口には、この様な看板が掛かっていた。
もう2度とここでレースは開催されないんだと思うと、すごく感慨深い気持ちになった。
いよいよ名古屋競馬場の中へ
今回の開催は、これまでのファンへの感謝を込めて入場が無料。
また入場制限も一切無いので、堂々と入場する。
名古屋競馬場のスタンドがこちら。
無くなってしまうのは正直寂しいが、これだけ汚いスタンドを見てしまうと、すぐにでも移転してほしいと思ってしまった。
とはいえ、今から10年近く前は移転など夢のまた夢の話だった。
なぜならその当時の名古屋競馬場は、馬券の売上不振による巨額の赤字(10億円以上)を抱えて、存続の危機に扮していたからだ。
なので、無くなる寂しさは当然あるのだが、その当時のことを知っているから待望の移転という気持ちも自分の中にはあるので、色々な感情が混ざり合ってなんだか変な感じになっていた。
そんな思いを抱えながら、競馬場の本馬場へと足を運ぶ。
1周1,100mの競馬場だが、いつ見てもコンパクトな競馬場だ。
これまで4回ほど名古屋競馬場を訪れたのだが、この日はなんだかいつもより小さく見えた。最後ということでそう感じるのだろうか?
名古屋競馬場 食堂街
続いて、正門前に位置する食堂街に足を運んで見た。
名古屋競馬場では、このような造りの食堂が正門付近に集まっている。
全ての店が開いているわけではなく、開いている店は6軒ほどだった。
どのお店も昔ながらの食堂といった感じで、店内では酒を飲みながら競馬談議に花を咲かせる常連の高齢者が牛耳っている。
競馬場の1番の楽しみといえば食べ歩き。
その中でもおすすめといえばこちらの味噌ダレの串カツだ。
無料のキャベツがついてきて、1本100円という格安の値段である。
なのでその気になれば、何本でも食べることができてしまう。
ちなみに味噌ダレが苦手な人には、普通のソースでも販売しているので、注文の際に頼めばOKである。
新競馬場に行っても、美味しい串カツが食べれることを祈った。
名古屋競馬場 2匹のヤギ
名古屋競馬場の場内には、ヤギが飼われている。
なぜ競馬場にヤギがいるのかは謎であるが、話題性重視で飼っているのか、それとも単なるファンサービスなのだろうか?この点はよくわからない。
でも彼らは、競馬観戦に疲れた観客の癒しのような存在になっていて、確実に観客の心を掴んでいるのだ。
ヤギは2頭いて、名前は「ポテト」と「チップス」だ。
安直な名前のこのヤギは、近くの食堂から持ってくる野菜を食べて生活している。
好き嫌いが激しいようで、こちらが差し出すキャベツを与えても何にも反応が無い。しまいには首を振られて殴られる始末だ。
しかし、食堂のおばちゃんが持ってくる人参を差し出すと彼らはむさぼりつくように食べる。どうやらキャベツは嫌いなようだ。
そんなヤギだが、紙は躊躇なく食べてしまう。手元にある新聞紙を食べてしまうこともあるので、決して新聞紙をヤギの方向に差し出してはいけない。
お腹を壊す危険もあるからだ。
そんなヤギ達も、新競馬場の方に引っ越す予定。
新競馬場の方でも、引き続き元気な姿でいて欲しいものだ。
名古屋競馬場 レース観戦
さていよいよ、レースを見ることに。
名古屋競馬場はレースの距離のバリエーションが少なく、レースはいつも4コーナーの辺りからスタートする1400mのレースばかり。
1日12レースあったら10レースが1400mという感じなので、さすがに1日見続けると飽きてくる。
だがこの日は、名古屋競馬場を代表するビッグレースである名古屋大賞典というレースの日。
名古屋競馬の馬だけでなく、JRAの馬や他の地方競馬の馬も参戦する交流重賞と呼ばれるレースで、距離は2100mという長丁場である。
素晴らしいレースになる事を期待しながら、レースの発走を心待ちにした。
そしてついに、名古屋大賞典出走馬がパドックに姿を現した。
写真に写っているのは1番人気のクリンチャーという馬。4年前には欧州最高峰の凱旋門賞にも出走した馬だ。
後は2月の佐賀記念を勝ったケイアイパープル、兵庫県競馬から来たジンギ、JRAの伏兵アナザトゥルース、アメリカンフェイスといった好メンバーで行われるレースである。
そしてレースがスタート。
1周目の直線に馬がやって来た際、スタンドからは大きな拍手が起こった。
しかしこの日は平日にかかわらず、かなりの観客が入っていた。やはり最後の開催+重賞レースの日というのが影響しているのだろうか。
実際に翌日の最終日のライブ映像を見ると、明らかに前の日より人が少なかった。確実に正月開催よりも入っているので、これはかなり凄い事なのかもしれない。
最後の直線、1番人気のクリンチャーが2番人気で同じくJRAのケイアイパープルが逃げ切ろうとするところを、ゴール前でわずかに差し切り勝利。際どい熱戦にスタンドの観客からも大歓声が上がった。
名古屋競馬場 最終レースを終えて
そんな感じで、16時30分発走の最終レースも無事終了しこの日のレースは全て終わった。
そして翌日の3月11日をもって、もう2度とこの場所でこのような光景を見ることはないのだ。
最終レースが終わった後は、やっぱり寂しさが先行してしまった。おそらくあおなみ線に乗ることはあっても、この場所に来ることはもう無いだろう。
周辺には飲食店も多くて、このまま無くなるのはもったいないという気持ちも少しはある。
でも、そんなことばっかり言ってはいられない。
すでに弥富には、新スタンドが完成して、4月10日の開催初日を待っているのだ。
名古屋競馬の今後に期待しながら、このコラムを締めたい。