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海のピ (ショートショート)

 私は老いた。このまま海のそばの家で漁師として天寿をまっとうするのだろう。
 ある日の朝、海からピピピピという音がした。次いでピピーン、ピピーンという音も。電子音にしてはどうも変だ。窓からいつもの海を見ると、大勢の人が騒いでいた。
「波の音が急に変わった。原因はわからない」
 マイクを持つアナウンサーらしき人が怒鳴る。確かにピピピという音の感覚がそれぞれ違えども、何か人の心をいらだたせる破裂音には変わりはない。
「そもそも海の音はどこから来ているのか。なぜこうなったのか」
 皆が議論しあっていたが、原因を特定できなかった。そのうちにハリケーンが来て、皆が避難した。しかし、私はピピピピの轟音が響く中、そのまま家にいた。
 別にいいではないか。音がかわったぐらいで、海の本質は変わらない。海はいつでも味方であり脅威でもある。嵐の中、私は補聴器を静かにはずした。ピピピという音は消えた。
 音が変わっても、音が消えても、海は海。






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