ジョブ型雇用が進むと若年層の失業率が上がるという説→たぶん嘘
今日も今日とてメンバーシップ型雇用の擁護
先日、こんなツイートを見かけました。
趣旨としては、日本型雇用(メンバーシップ型雇用)を破壊しジョブ型雇用に移行すると、若年失業率が上がるという主張です。一応筋は通っていますし、そのようにも見えます。
メンバーシップ型雇用というのは、従業員に定義された職務を与えず、その時その時で会社に求められる仕事を振っていき、一種の共同体の一員(メンバーシップ)として扱う雇用形態で、日本の正社員というのはおおよそこれに当たります。ジョブ型雇用というのは逆に、従業員に文書で決められた職務を与え、仕事が発生する都度新規に雇用をし、不要になれば解雇するという雇用形態です。共同体性はなく相互の利益に基づく形態です。
本当にジョブ型雇用だと若年失業率が上がるのか
この主張は裏付け可能なものなのかということで、エビデンスになりそうなものを探してきました。若年失業率の国際比較は厚労省が出していましたね。非常に信頼できる情報源です。それによると、日本は失業率も若年失業率も低く、またその差が大きくない国です。
一方、ジョブ型雇用が中心の国というのは解雇規制が弱いのでは、ということで解雇規制の強さを調べてみました。日本の解雇規制の強さは表に挙げた7ヶ国の中では4番目で、OECD平均と比べると解雇規制は弱い方の国です。
解雇規制と若年層の失業しやすさが相関していない
失業率の定義や経済状態は国によって異なるため、単純に失業率を比較することは正しくないのですが、若年失業率と若年以外の失業率の比、すなわち若年層がそれ以外の世代と比べてどれくらい失業しやすいかは単純な国際比較が可能です。こうしてみると、英国やイタリアでは若年層の失業しやすさが高く、日本やドイツでは逆であることが分かります。
しかし、ジョブ型雇用の浸透度(≒解雇規制の弱さ)と、若年層の失業しやすさを調べてみると、ほとんど相関していません。相関係数は0.169で「相関関係はない」と言える水準です。
ジョブ型かメンバーシップ型かと若年失業率は関係がない
ほかに平均勤続年数などのデータはないのかと思って探してみたのですが、平均勤続年数のデータが存在するのって日本とアメリカぐらいで、そもそもデータが見つからないという問題にぶつかりました。
何とかないかということで探してみると、勤続年数20年以上の従業員の割合を出している国がいくつかありまして、これで見るとフランスやイタリアは日本よりもベテラン労働者の割合が高く、アメリカやイギリスは日本の半分以下です。
ところが、フランスとアメリカは若年層の失業しやすさがあまり変わらないし、イギリスとイタリアは若年層の失業しやすさがひどい国です。やはり、雇用慣行や雇用形態は若年層の失業のしやすさとは関係がないものと思われます。
別の理由があるはず
日本は若年層の失業しやすさが他国と比べて低く、若年層にチャンスの多い国であるというのは事実です。しかしその原因はメンバーシップ型雇用にあるわけではなく、何か他の要因(働くのが当たり前だという社会の価値観や親に依存して暮らすのは良くないという価値観、若年層の賃金の安さなど)があると思われます。その原因は特定できてはいませんが、それはまた今後時間のある時に調べてみたいと思います。