【Live2D】違和感のない立体表現を心がけよう
Live2Dデザイナーの一束(いつか)と申します。
この度、Live2D note様が企画されるnoteマガジン『みんなの Live2D LAB』に寄せて記事を作成する運びになったのですが、さてどんな内容にしようかなぁと考えたところ、私のモデルは「自然な立体感」を褒めていただくことが多いな、と感じたので、その辺りのコツや心がけていることを書かせていただくことにしました。
私の思うLive2Dの最大の魅力に、「平面的なイラストを立体的に動かせること」が第一にあります。
モデルの可動域が大きければ大きいほど、イラストが元気よく動くので生き生きとして感じますよね。
でもその反面、大きく動かせば動かすほど破綻※の可能性も高くなります。また、逆に平べったい印象になってしまうことも…。
※ 破綻…本来接触しているべきパーツ同士が離れてしまったり、元の形状の印象を損なうほど変形してしまうこと。
この記事では、なるべく違和感がない&より自然なモデルを作るために私が意識していることを、いくつか紹介させていただきます。
パーツ同士の接着点を意識する
Live2Dモデルの動きに違和感が生じる原因の一つに「パーツ同士の距離感が狂うこと」があります。
全てのパーツは(基本的には)連動して動くので、隣接するパーツや近くにあるパーツ同士で移動幅が大きく異なることはほぼありません。
正面を向いた元絵。この状態で、パーツ同士の位置関係やシルエット、バランスをよく観察しておく。
例えば、髪の生え際(=つむじ)が分裂して増えたりしないし、腕が体から外れたりしないし、イヤリングが耳から置いてけぼりになったりしないのです。
角度によって見え方は変化しますが、それらは元々の位置関係のまま移動しています。
【OK例】元絵とパーツ同士の接着点がなるべく変わらないように変形させている。
つまり、パーツを動かす場合に「元々それが他のパーツとどのように接着していたのか・どのパーツのどこと接していたか」を意識して、くっついているべきパーツ同士は“同じ位置で”くっついたままに見えるように動かします。
これが上手くいかずに崩れてしまうと、パーツが上滑りしたり浮いた印象になってしまいます。
【NG例】静止状態だと一見問題なさそうに思えるが、正面の状態と比べてパーツ同士の位置関係が崩れている。
◀︎左【OK例】パーツ同士の位置関係が整っているので違和感が少ない。
▶︎右【NG例】耳が滑ったり横髪が膨らんでいるような違和感が。
髪であれば、生え際やつむじの位置を意識します。
アクセサリーなどの飾りも、元々それがどのパーツのどの辺りに着いていたのかをよく観察して、飾りだけが大きく動きすぎたり置いてけぼりにならないように気をつけます。
(カチューシャにリボンなどが付いている場合は、リボンが横滑りしやすいので特に注意!)
モデルを動かせば動かすほど、どのパーツをどれだけ動かせばいいか分かりにくくなりがちですが、「それぞれのパーツをどれだけ動かすか」よりも、「基準となるパーツを決めて、そのパーツとの位置関係が崩れないように動かす」ことを意識すると作りやすいと思います。
【OK例】と【NG例】を重ねた図(青がNG例)。結構ズレがあることがわかる。このズレの分が、パーツの横滑りのような違和感に繋がる。
パーツによってはかなり大胆に変形が必要になる場合もありますが、形が多少変わっても位置関係が崩れていなければまとまって見えますので、
パーツ同士の位置関係 > パーツの形状の維持 と私は考えています。
そのために、どのパーツとパーツがどの位置で接しているべきなのかをよく観察することが大事です。
また、パーツそのものの形はもちろんですが、ネガティブシェイプ※も意識すると位置関係を把握しやすくなります。
なんだかうまくいかない…という場合は、視点を変えてチェックしてみましょう。
※【ネガティブシェイプ】…物体の周囲の形状のこと
対して、物体の形状そのもののことは【ポジティブシェイプ】と言う。
つまりパーツそのものの形がポジティブシェイプ、パーツ同士の隙間や余白の形がネガティブシェイプに該当する。
右耳の手前側(赤い部分)の位置や形を確認する場合、赤い部分そのものがポジティブシェイプ、周囲のパーツの見え方が比較すべきネガティブシェイプになる。
パーツの奥行きを意識する
Live2Dモデル用の画像をパーツ分けをする際、「動かすパーツであるかどうか」が基準の一つになります。つまり、目や口などの開閉するパーツや、腕や足などの回転するパーツ、髪やリボンなどの揺らしたいパーツを分けておきます。
ここに「奥行きがあるパーツ」も加えて分割しておくと、立体的な動きをつけやすくなります。
例えば、ネコミミやスカートのヒダなど。
動き幅は少ないのですが、前後関係にあるパーツをわずかでもずらして動かすことで、より自然な立体感を表現できます。
耳の比較
◀︎【左側】耳の表面・内側(モフモフ)・裏面、ピアスの表裏に分割してそれぞれに動きをつけたもの。
▶︎【右側】左右の耳をそれぞれひとまとめにして動かしたもの。
布の比較
◀︎【左側】布の表面(白い部分)・裏面(グレーの部分)を分割してそれぞれに動きをつけたもの。リボンも同じく。
▶︎【右側】布とリボンの全体をそれぞれ一つのデフォーマで動かしたもの。
ささやかな変化なので手間の割に目立たず面倒には感じるのですが、こういった小さなこだわりを積み重ねることで、モデル全体のクオリティも上げられると考えています。
◀︎【左側】揺れも各パーツごとのにつけたもの。揺れに立体感がある。
▶︎【右側】一括で揺らしたもの。なんだかぺらっとしている…。
このように奥行きを表現するためには、複数のパーツをまとめて同じデフォーマに入れて一括で動かすのではなく、それぞれのパーツごとにXYの動きをつけていく必要があります(Zは場合によりけり)。
耳と布とリボンのテクスチャアトラス。
前後関係にある部位や遠近感を出したい部分で分割している。
ただ、多くのパーツに個別にデフォーマを作って動かすとなると作業量が多く大変ですし、可動量に差が生じてチグハグな印象になってしまう可能性もあります。
そういう場合は、一旦同じグループのパーツをまとめて一つのデフォーマ(=親デフォーマ)に入れ、全体の動きをつけてから、そのデフォーマ内の各パーツに調整用のデフォーマ(=子デフォーマ)を作成し、動きを微調整していくと作業がやりやすいです。
外側のデフォーマが親。ここで全体の揺れを作ってから、子デフォーマで微調整していく。必要に応じてグルー機能も使う。
絵としてキレイな状態を心がける
パーツを移動させる時、私は「正しい位置」よりも「魅力的に見える位置」に動かすのがいいと考えています。
特に顔は、一番可動範囲も広く複雑なので、下絵を用意しておくと作業効率が上がります。
でも、「絵を描くのが苦手で下絵の用意が難しい…」という人は、任意のガイドを用意するのも一つの手かと思います。例えば、絵描きがよくやる顔のあたりに丸を描いて十字を引くなどです。
こうすることで、顔を左右に向けた時に頭部の形が歪んだり拡大縮小していないか・どのパーツがどれだけ移動したかが把握しやすくなります。
(大体の目安にできればいいので、そんなに厳密にガイドを作る必要はないです)
十字線との距離感で各パーツの位置が決めやすく、円との位置関係で移動量(円とキャラとの隙間に注目)が分かりやすくなる。
※十字は縦横別々の線に各自アートメッシュを打って、ガイド用に作ったデフォーマに入れて動かしています。顔のXYデフォーマに入れちゃうとよくわからないことになるよ!
横線で各パーツの高さを確認。
口の開閉時の位置や髪が変に伸び縮みしていないかなどを確認できる。
※こっちのガイドは素のメッシュ(四隅)のまま、変形デフォーマは使わずに顔の回転Zにのみ対応させてます。
止め絵としてキレイな状態であるのはもちろん、移動中に元の形状と大きく印象が変わってしまっていないか(歪んだり拡大縮小したりしてないか、大きな違和感がないか)をこまめに確認するのも大事です。
また、親パーツ※の表面がどんな形や素材かにより、子パーツの動かし方が変わってきます。
※【親パーツ】…輪郭などの土台になるパーツ
【子パーツ】…目や口などの親パーツに内包されるパーツ
例えばXY軸の動きをつける場合、
・親パーツが球体→子パーツはドーム状に変形しながら移動
・親が平面や硬い素材→子は直線をなるべく保ったまま角度を変える
という風にです。
イメージがしにくい場合は、動かしたいパーツに近い形の小物などを実際に手元で動かしてみて観察するといいと思います。
それから、モデル用の絵は別の人が描いていて、それを使ってモデリングするケースもありますよね。
Live2Dデザイナーが必ずしも絵が描けるとは限りませんし、描けなくてもいいのがLive2Dのいいところでもあります。
ただ、モデルを作る上である程度の絵心は必要だと私は考えています。
これは自分が絵を上手く描けるかどうかではなくて、「モデルのその状態が魅力的か/違和感がないかどうか」の判断をする目が必要という意味です。なぜなら、Live2Dモデルはあくまでもイラストの延長線にある(と私は思っている)ので、絵としての完成度がモデルのクオリティに直結するからです。
作画担当の方の他のイラストを見て「斜めを向いた時はこんな顔になるんだな」と確認したり、絵やモデリングが上手な人の作品を見て「こういう画風の場合、顔がこの角度になる時はパーツはこんな配置になる」「このモデルの魅力的なパーツの配置はこれだ」と探って、どの角度でも魅力的なイラストになるように意識することが大事かな、と思っています。
おわりに
可動域の大きなLive2Dモデルは、それだけで見る人に驚きと感動を与えることができます。迫力も魅力も増しますよね!
でも、ただ大きく動けばいいかと言えばそうではなく、私は「違和感がなく、より自然に、キレイに」動かせることも、とても大事だと考えています。
可動域が大きくなればなるほど、「それぞれの角度における止め絵が美しいか判断するための絵心」、そしてそれを「動線を含めて再現するためのモデリング技術」が必要になります。
モデルを動かしてみて、なんだか違和感があるなぁ、難しいなぁと感じる方は、もう少し小さな可動域から挑戦してみてもいいと思います。それに慣れてきたら次はもう少し大きく動かしてみる、と言うのを繰り返している内に、より自然により動くモデルを作れるように、きっとなります!ので!
以上、私が意識している部分についての紹介でした。何かしら参考になりましたら幸いです。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
最後に自己紹介
一束(いつか)【Twitter/Tumblr/公式HP】
・関西出身、関東在住のイラストレーター/Live2Dデザイナー。
・Live2D Creative Awards2017グランプリ受賞。
クラシカルでありながらもポップなタッチのイラストと、自然な立体感や表情豊かなLive2Dモデル作りが得意。法人・個人様問わずLive2Dモデリングやイラスト、キャラクターデザインのお仕事をお請けしています。
Live2Dモデル制作実績
▶︎キャラクターデザイン&モデリング:すのう・あにぅ、姫川結泉、神子田ミコト、屋久舘るかな、舞米豊世、岸咲雨 他
▶︎モデリング:煌星マイル、千咲ちさ、如月杏、早乙女宵、凰医柊、Uxieu、万乙女、浜白こに 他
▶︎その他Vtuber以外のモデリングも多数
イラスト制作実績
▶︎『マジカルミライ2020-夏祭り-』サブビジュアル
▶︎鹿乃様「嘘つきは恋の始まり」MV用イラスト
▶︎アプリ『東方LostWord』絵札イラスト
▶︎UNI’S ON AIR様 アプリ内ドラマ「スシ食えねェ!」イラスト 他