私がイラストレーターとして生計を立てられるようになるまでに考えたあれこれ
フリーランスのイラストレーター(兼Live2Dデザイナー)として働いている一束(イツカ)と申します。
個人事業主届を出して専業になってから2022年春で4年目になりました。ありがたいことに、今のところ普通に生活できています。
元々は全く異なる業界で働いていた私が、とあるきっかけがあって「イラストレーターになる!」と奮起したのが始まりです。
予備知識もツテも何もない中で試行錯誤してこれまでなんとかやってきました。
色々な試行錯誤の内、今回は「どう考えて営業や制作活動をしてきたのか」をご紹介したいと思います。
絵柄を模索する
イラストレーターは絵が商品!というわけでまず自分の絵について考えました。
趣味で描いていた頃は、好きな漫画や作家さんに影響を受けて、言わば真似るような形で描いていた部分もあったと思います。
でも、その絵はもう描ける人がいる。
それも自分より上手いし経験がある。
同じフィールドで闘うには分が悪そうだと感じたので、思い切ってガラッと絵柄を変えることにしました。
変えると言ってもどう変えるのか。
ひとまず、需要が多そうな絵柄にしようと考えて、ゆるっとしたマスコット的なイラストを描くことにしました。絵本のイラストやエッセイの挿絵、チラシや広告、webサイトなど広く一般的に使いやすそうだと思ったからです。
ところが、自分で想定していたよりもこの方向性はハマりませんでした…。
ブログで絵日記なんかも描いてみたり、あれこれ試してみたもののなかなか仕事には繋がらず。
そもそも需要がありそうと絵柄を変えたけど、具体的にどんな媒体で使われたいのかも曖昧でしたし、シンプルに自分の描きたいものなのかも分からなかったのでモチベーションを保つのもなかなかで…。
どうしたものかとあれこれ試している内に、なんとか今の絵柄のベースのようなタッチに行き着きいて、自分の中で手応えのようなものを掴めました。
ただ、それは当時の流行(当時は厚塗りや水彩などアナログ感のあるタッチ)とは全然違ったものだったので、「これでは仕事をもらうのは厳しいと思うよ」と言われたこともありましたが、珍しさが画力や経験など不足している部分をカバーしてくれた気がするので、結果的に良かったと思います。
どの分野のイラストレーターになりたいのか
絵柄の方向性は定まりました。
次に考えたのは「どの分野のイラストレーターになりたいのか」でした。
イラストレーターにも背景だったりモンスターだったり無機物だったりと得意分野が色々あるのですが、私の場合はそれが「キャラクター(特に人物)」だったので、人物イラストを生かせて、かつ自分の絵柄にマッチする分野を見つけないといけません。
イラストレーターを志した当初、私は様々なイラストレーターやクリエイターのブログやエッセイ、意見を見聞きして勉強していました。そこでよく見かけたのが『「自分がどう言う仕事がしたいか」を意識して活動しよう』という言葉でした。
人物キャラクターのイラストを描くとしても、教科書の挿絵とゲームのキャラクター、チラシのカット等では起用される画風が違っていることが多いです。
例えば、教科書の仕事がしたいのにファンタジーな衣装のエルフを描いてばかりいても仕事には繋がりにくい。エルフが描きたいなら目指す分野をゲーム関係に変更するか、教科書の仕事が欲しいなら学生のイラストを描こう、と言うことですね。
ところが私はここでいきなりつまずきました。
なぜなら私は自分の絵がどの分野とマッチしさうなのかさっぱり分からなかったからです。
(需要のありそうな分野から逆算して絵柄を作る事には失敗しましたし…)
そもそも「自分で使いどころを選ぶんじゃなくて、クライアントが使いたいと思ってくれたものに使われるのがいい」とも思っていましたので、「◯◯に私の絵を使ってください!」と言うよりは「私の絵がマッチしそうな案件があればお声かけください!」の姿勢だったんです(これは今も同じです)。
かと言って、まずは絵を見てもらわないと始まりません。知名度も実績もないので自分からアプローチしていく必要があります。
しかしここでまた前述の状態に陥り、営業活動は混迷しました。
とにかくせめて誰かに見てもらおうとイベントや展示会に出てみたのですが、一番効果を感じたのはビジネスに特化したイベントでした。
声をかけてくださる方の意見や相談内容に傾向があったんです。
また、展示会だと絵そのものの感想に留まりがちですが、商業系のイベントだと具体的な案件のイメージがあるのも助かりました。
当時の私に一番多かったのが【教育】【児童書】でした。これは自分では全くイメージしていなかったジャンルだったので正直目から鱗が落ちまくりました。
そして私が最初に担当した大きな仕事はNHK出版様の「基礎英語2(2016年度)」です。1年間書店に並ぶことで自分の絵を継続的に目にしてもらう機会も得られて、とてもありがたかったです。
仕事内容の向き不向きを見定める
なんとなく自分が向いている分野に目星はついたものの、どうしてもその分野の仕事がしたいというわけではなく。
これは今現在もですが、選択権はあくまで依頼側にあると考えているので、いただいたお話を断ることは滅多にありませんでした。そのお陰で色々なお仕事をする機会を得られたと思います。
そんなある時に受けたとある案件が、個人的にものすごくしんどかった。
それは、絵柄合わせのあるイラスト制作のお仕事でした。
既存のキャラクターがいて、そのキャラを使った新規絵を描き下ろすという案件です。ゲーム系に多いかなと思います。
とにかく監修がきっちりしているので、工程ごとにチェックが入りますしその分スケジュールもタイトでした。
これがまあ向いていなくて。
嵩むリテイク、迫る納期…。
学生時代のバイトも含めると色々な業種の仕事を経験してきましたが、これほどしんどくてストレスとプレッシャーを感じた仕事は他にないぐらい。同じイラストというジャンルなのに不思議ですね…。
もちろんクライアントに問題があったわけではありません。むしろよく付き合ってくださったなと今でも申し訳ない気持ちです。
(FBがすごくハイレベルで、しんどかったけどめちゃくちゃ勉強させていただいたし感謝してます)
リテイクが嵩むと自分もクライアントも疲弊しどっちも幸せにならない。というわけで、これだけは今もお断りする仕事です。
反面、内容やキャラクターがオリジナルではなくとも、自分の絵柄で描ける仕事は全然ストレスなく進められることにも気がつきました。
自分のタイプを把握する
前述の経験から、画力とはまた違う部分で得手不得手があることを実感したわけですが、これでまた一つ気が付きました。
「自分は自分の絵柄でしか描けないタイプなんだな」ということです。
突然ですが、私はフリーランスのイラストレーター(※ここでは、私と同じようなキャラクターイラストを主に受注している人を指しています)には大きく二種類のタイプがあると思っています。
それは「独自性の強い作風で個人の作品をブランド化していくタイプ」と「応用力が高くチームの一員として力を発揮するタイプ」です。
「フリーランスのイラストレーター」と聞くと、どちらかというと前者のイメージが強いのかと思います。
絵を見れば誰が描いたか分かる、作品と評価が作者と紐づいているタイプです。SNSなんかでもたくさん作品を発表していて、お仕事で絵を描けばイラストレーター名も併記してもらえて…と華やかな印象ですよね。
ただ実を言うと、イラストレーターとして身を立てるなら、安定しているのは後者なんじゃないかと思うんです。
これはイラストレーターとして数年働いてみての実感なのですが、「絵柄合わせの案件」の方がたくさんあるし、しかも継続案件は大抵こっちなので(前者は基本的に単発案件)。業界によっては器用に絵柄合わせができるイラストレーターは重宝されると思います。
個人の名前が表に出ることは少ないけれど、チームの一員として誰かと苦楽をともにできるのも長く働く上で魅力です。
で、今後自分が営業や活動を続けていくにあたって、売り込み方の指針とすべきなのはどちらなのかを考えた時…私の場合は前者だなと(後者は…本当に向いていないことを実感していたので…)。
前者のメリットは
画風自体がブランドとしての価値を持てる
指名制の仕事を得やすい=制作単価が上がりやすい
デメリットは
責任が大きい(分業がしにくい)
人気がなくなれば仕事もなくなる
といったところでしょうか。
ブランディングをしていく
自分がどういうタイプか把握したら、次はどうやって自分のイラストにブランドとしての価値を持たせられるようにするかが課題でした。
これは現在進行形ですね。というかこれには終わりがないのかもしれない…。
そもそもの前提として、今はとてもたくさんのイラストレーターがいます。
画材も手に入りやすく作品を発表する場も多い現代、絵が上手な人はどんどん生まれ、活躍しています。
そんな中から見つけてもらって、そこから更に発注先として選んでもらうには、「この人じゃないと表現できない何か」をアピールできないといけません。つまり、魅力的でオリジナリティのある画風です。
しかしそもそも“魅力的なオリジナリティ”ってなんなの…?
人気の作品は流行をうまく掴んでいるものですが、流行ってつまるところ大衆の好みの偏りなんですよね。
という事は、流行を取り入れるとオリジナリティが薄まってしまうんです。
じゃああえて流行を無視して独自性を手に入れたとしても、それは大衆の好みとはズレてしまうわけで(もちろん尖った作風で成功している人もたくさんいますが、自分がそうなれる確証はないので、収入源にするなら安定性が欲しいところ)。
ここの塩梅が難しい。というかよくわからないのです。
そこで私がやったのは、SNSなどを使って人気のイラストレーター(特に自分の画風と方向性が似ている人)の作品をひたすらチェックして、共通点と相違点を見つけることでした。
共通点は流行に沿っている部分だと言えるし、
相違点はその人のオリジナリティが強い部分だと言えます。
自分の得意分野にはどんなイラストが必要とされているかを意識して参考とする作品を探し、見つけた共通点のうち自分の作品に取り入れられそうなものは取り入れ、かつ、自分との相違点は自分のオリジナリティと捉えて伸ばす。ということを試行錯誤しました。
私の場合、自分の目指すジャンルでなんとなく傾向があるなと感じたのは、線の太さや描き方・影とハイライトの入れ方・目の大きさでした。
反面、体のバランスや目の描き方、色や構図などは個人の特徴を出しやすく、印象にも残りやすいと感じました。
あと余談ですが、イラスト以外の部分でも「覚えて帰ってもらう」ためにあれこれ試したりもしていました。
イベントでは着物や羽織りを着て「画風と本人のイメージを近づけて覚えてもらいやすくする」「イラストから受ける印象をなるべく崩さないようにする」ということをやっていました。
これは、これまでに出会った作家さんで展示会ではいつも同じ衣装を着たり、毎回同じ小物を身につけている方がいらっしゃって、なるほどなぁと感銘を受けたので参考にしました。
もっと根本にあるものについて
試行錯誤の結果、今では「一束さんらしい」と言われる画風が多少なりとも作れたと感じています。
その成果として「絵が描ける人の一人として依頼されている」のではなく「一束さんの作品が好きだから依頼したい」と言っていただけることが増えました。
そのお陰で、めちゃくちゃ知名度があるわけでも、ものすごい肩書きがあるわけでもなくても、この仕事を続けることができています。ありがとうございます。
ただ、画風って本人の作画練度や時代の流行にものすごく左右されるし、ずっと変わらないのも本人のモチベーション的にどうなのかなとも思うんです。
なので「これが私の画風!」みたいなのを見つけたとしても、これからもどんどん変わっていくんだろうなと思っています。
実際、今でも教育関係のお仕事をいただきながら、最近だとVTuber関連のご依頼やSDキャライラストの案件も増えてくるなど、自分でも想定外の事は多いです。
でも、自分が描きたいもの、表現したいものの根っこは揺るがないとも感じています。実は画風じゃなくてポリシーみたいなのが私のイラストレーターとしての基盤なのかもしれないな、と。
(ちなみにあくまで「ビジネスとしてのイラストレーター」を目指しての話なので、趣味で個人的に創作するのはまたちょっと考え方や方針が違ってたりしはしますが)
そこを大事にしつつ、でも変化も恐れず臨機応変に、かつ堅実にこの仕事を続けて行けたらいいなと思います。