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橋の向こう

 吊り橋の目前、その高さと下方のせせらぎに、足が竦んだ。
「ほれ、渡るぞ」
 背中を押され、嫌な記憶が蘇って、強く足を踏ん張った。
「何だ、怖いのか」
 からかいの交じる声音。
 が、すぐに尋常でない様子に気付き、顔を覗き込む。
「どうした」
 震えて声も出ない。
「…そう云えば、川岸に流れ着いてたっけな」
 男は呟き、ひょいと、おれを抱え上げた。
 汗で冷えた体に、男の体温がぬくい。
 と、その懐から小さな黒い手が伸びてきて、おれの額をさすった。
 氷の様に冷たい真っ黒い手。日の当たった所から湯気が上がる。
「昼日中に出て来るなんざ珍しい」
 おれは何度も息をつき、男から降りた。
「無理すんな」
 男の言葉を背に、震えながらその一歩を踏み出す。


@Tw300ss  第66回  お題「橋」   ジャンル「オリジナル」

Twitter300字ss企画内にて個人的に連作チャレンジ中、今回6作目です。
よろしければ前作も覗いてみて下さい(´-`)

【前のお話:用済み】
https://note.com/1_ten_5/n/n6244233f7af0