彼女の北極星

 暗くなる前に断崖の家から浜辺へと下りた。
 ポケットから万年筆を取り出し、水際でランタンの縁を叩く。

 カンカンカン

「居るかい? またお願いするよ」

 僕はそう言ってランタンに水を汲む。
 家に帰り着く頃には辺りは既に薄闇に包まれていた。
 行商人から分けてもらっている顆粒をランタンの水に撒く。
 ぱちゃぱちゃと水面が波立ち、青い発光が上から下へとゆっくり対流する。

 玄関ポーチにランタンを吊るしてブランケットを羽織り、ベンチで読みかけの文庫本を開く。
 辺鄙な場所にあるこの家へと続く、街灯のない道。
 彼女はこの灯りを目指して帰ってくる。

「北極星を灯しておいてね」

 青白い光の中、彼女を待ち侘びて…
 僕は傍の電報に、そっと触れた。


@Tw300ss 第49回  お題「灯り」 ジャンル「オリジナル」