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1.5(イッテンゴ)
2022年11月5日 22:59
砂漠の谷底で、空を見ていた。 何も持たず薄物一枚の私に、氷点下の夜は超えられまい… キャラバンは私を捨てたのだ。「おいっ、大丈夫か?」 抱き起こされ、薄目を開けた。 ぬるい水が口元を伝う。 私は跳ね起きると、水筒に齧り付いた。 私を死地から拾ったのも、またキャラバンだった。 拾い拾われ、留まる者も去りゆく者も、入れ替わり立ち替わり… 長い長い間、そんな風景を見続けてきた。
2022年9月4日 00:08
言い伝えでは、この島の端にある小山は、大昔に傷つき流れ着いた竜なのだと言う。 島民は皆、この話を信じている。「それにしても蜥蜴が多いな」 浜辺を歩く足元で、ちょろちょろと細長い黒緑色が走る。 背の金属質な虹色が美しい。 小さな島だ。一日あれば歩いて一周できる。 で、朝から歩いてその場所に来てみたのだが…「竜には見えん」 ついて来た村の子供が笑う。「でも見てるよ」「え?」
2022年8月7日 19:35
「糞野郎」と罵られるのは慣れている。 実際の所その通りなので、ぐうの音も出ない。 だが、客に困ったことは、一度もない。 この黒紫色の希少な宝石が、どこで採れるかを知っているのは、俺だけだからだ。 護衛を担ってくれる幼馴染にも、詳細は教えていない。 俺は秘密のその岩山で、竜糞の小山を探す。 ある鉱石を食べるその竜は、消化できなかった宝石を糞の中に残すのだ。 背丈を越える小山を掘り返し
2022年7月3日 20:18
頬杖をついて泉で戯れる一人と一匹を眺める。 否、はしゃいでいるのは人間だけか。 仔竜は概ね大人しいものの、かといって特に懐く風でも無い。 習性で砂に潜ろうとするが、一度乾涸びた影響か鱗の隙間が広がってしまい、そこに砂が挟まるのが不快らしく、しょっちゅう身体をくねらせては地面を転がりまわっている。 見兼ねたリロが、両手で抱えて泉で振り洗いしてやっているのだ。 水に浸けた身体を揺らすと
2022年6月5日 01:10
パキン パキキ パキ ベキッ「また割った!」「姉ちゃん、うるさい…」 少年がうんざり顔で机に突っ伏す。 父親がその一枚を無言で拾い上げ、検分する。「うん、ダメだな」 しょげ返る少年。 初夏の鱗竜飼いは繁忙期だ。 早春に婚姻色に染まった鱗が、この時期大量に落ちるのを集めて、細工物用に加工するのだ。 親指大の一枚を三枚に剥ぐのだが、二層目と三層目を分けるのが特に難しい。 真
2022年5月8日 15:11
「いつ来てもほんと凄いですね、ここ」 助手が辺りを見回し、感嘆の声を漏らす。「これが人工の空間だなんて」「そうだな」 彼はおざなりに返事をし、足元に置いたケージの扉を開けた。 暫く待つと、掌に乗る程の小さな竜が顔を覗かせる。「このコも売約済みですっけ」「ああ」 羽音を響かせ飛び去る姿を見送り、彼は深く息をついた。 採集数は国よって厳密に管理されており、ピクシー達はこの温室で一生
2022年4月3日 19:43
広い部屋の中を、紙飛行機が滑ってゆく。 天蓋付きのベッドから対面の壁に向かって真っ直ぐに。 そのままぶつかり、鼻面をひしゃげさせながら落下する。 壁沿いの床は、さしずめ紙飛行機の墓場だった。 床に散らばるそれらを片付けながら、執事が主に声を掛ける。「坊ちゃん、シシリー様から贈り物です」 応えはない。執事は構わず続けた。「今度は絶対に気に入る、とのことですよ」 広い部屋の中を、紙
2022年3月5日 22:47
「やっておくれ」 促され、歳若い侍従がその手の剃刀を動かすと、次々と髪の束が床に落ちた。「そんな顔しないで、スィ」 椅子に掛け、四阿越しに見上げる青空に、白い鱗の龍が身をくねらせ泳いでいる。「あの龍だって、本当ならリェン様のものなのに」「龍が王の乗り物だったのなんて昔の話さ。兄達のような武力の持ち合わせはないし、このままでは私の命はない」 四阿の床に点々と侍従の悔し涙が落ちる。「私
2022年2月5日 22:39
『殺さないでくれ』 声も出せない様子のそいつから放射されているそれは、祈りってやつだったのかもしれない。 俺には分からん。高次のモノに祈った事などない。「俺が手を下すまでもなく死ぬさ。騎竜を落としたかったんだが、まぁ騎手でも問題は無いな」 大振りの弓を背負い直し、目の前に転がる男を見下ろす。 その目の奥の懇願。「…?」 と辺りが翳り、俺はその場を飛び退った。 さっきまで居た位置に
2021年3月6日 20:32
その隠れ里の岩戸の奥には、鎖に繋れた竜がいる。 僅かの灯りにも真珠色に輝く、神秘的なその鱗。 足元には、白絹の衣を身に着けた病の男が横たわる。 呼吸が細く、忙しない。「逝クカ、ろろすヨ」「短い間しか、務めを為せず… 申し訳ありません、ウル」 延べた男の手に、竜がそっと鼻先を添える。「貴方から見れば、我らの一生など、虫の一時でしょうに… 都度の恵みに… 感謝を」 捧げ持つ美