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旅をする石

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2020年にTwitter300字ssにて1年間連載した掌編のまとめと、その続きの書き下ろし短編です。どうそ「包みの中」から順に下に向かって読んで下さい(上手く編集できて無くてす…
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包みの中

包みの中

 その白茶けた布包みの中には、黒い石が入っている。
 掴み上げようとして苦笑された。
「持てやしないさ」
 これはある湖の水を全て閉じ込めた石、だから見た目の大きさに見合わず非常に重い。男がこの石を持っていられる理由は、包んだ物の重さを羽のように軽くする希少なその布のお陰なのだとか。
 行商の男は荷物を担ぐと、包みを懐に戻した。
「荷物の中には入れないのかい」
「こいつは売り物じゃないんで」
 く

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団子の数は

団子の数は

 先日、川辺に倒れていた子供を拾った。
 行く宛ても帰る場所もないと言うので、里親が見つかるまで旅に同行させることにした。

 道中、茶店で団子を一皿注文した。
「ほれ、食べろ」
「…」
 拾った時からこうで、まず先には食べない。
 こちらが一本摘み上げると一本取る。一口食べると同じように一口食べる。
 さて、と俺は独言た。
 一皿に五本、一串に団子が三つ。
 きれいに分けると一個余る。口に突

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手に職

手に職

「煙草ね、刻みで良いかい、紙巻きは切らしちまって、時間もらえるなら巻きやすがね」
「なら、そうしてもらおうか」
 遠巻きに見ていると目が合った。
「ほれ、手伝え」
 が、何も教えてはくれない。見様見真似で手を動かした。
「お前さんの子かい」
「行倒れ拾ったんでさ… 里親探してんですけど、なかなか」
 聞いていて良いのか分からないけれど、丸聞こえなのだから仕方ない。
「ん」
 差し出された手に、仕上

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矢立ての水

矢立ての水

 久方ぶりの宿である。
 奥の布団からは子供の寝息が聞こえていた。
 行灯の明かりの元、男が紙と矢立てを文机に置く。
「おっと…」
 墨壺が乾いてかちかちだ。
 水を貰いに階下に降りたいが、寝入り端の子供を起こしそうで迷う。
 懐から白茶けた布包みを出し、中の黒い石を筆の尻でつついた。
「水をくれ」
 暫く待つと、石の上に水の玉が湧いた。
「ありがとうよ」
 男は筆先を水に浸して墨を溶いた。
 と

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用済み

用済み

「それをくれ」
 露店を出していると声がかかった。
 昏い眼の男が指差す先には大きく頑丈そうな錠前が。
「鍵は要らない」
 男は代金を支払い去って行った。
「さてはて」
 気になる客だが、詮索は野暮ってもんだ… 残された鍵を玩びながら結論する。
 と、後ろから袖を引かれた。
 物言いたげな子供がじっとこちらを見上げている。

 夕闇が迫る中、男が出て来るのを待って分け入った竹林の奥に土蔵を見つけた

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橋の向こう

橋の向こう

 吊り橋の目前、その高さと下方のせせらぎに、足が竦んだ。
「ほれ、渡るぞ」
 背中を押され、嫌な記憶が蘇って、強く足を踏ん張った。
「何だ、怖いのか」
 からかいの交じる声音。
 が、すぐに尋常でない様子に気付き、顔を覗き込む。
「どうした」
 震えて声も出ない。
「…そう云えば、川岸に流れ着いてたっけな」
 男は呟き、ひょいと、おれを抱え上げた。
 汗で冷えた体に、男の体温がぬくい。
 と、その

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水底に棲むもの

水底に棲むもの

 ずっと、暗くて冷たい場所に居た。
 寂しい、寂しい。
 ゆらゆらと伸ばした指先が、不意に外気に触れた。
 冷たい夜気の気配。
 恐る恐る周囲を探ると、何か温かいものに触れた。
 ああ、温かい… 温かい!
 暴れるそれを組み伏せて、皆が我先にと縋った。
 満足のいく頃には、それは死にかけていた。
 冷たくなったそれに、私達は狼狽た。
 通りすがりに介抱され一命を取り留めたそれは「加減を覚えろ」と言

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夕餉

夕餉

 皆が箸を付けるまで膳に手を付けてはならない、と厳しく躾けられてきた。
 家族の食べる座敷の膳はとても豪勢で、村で頭抜けた贅沢が許されるのはその家にお役目があるからだが、土間に座らされる子供に同じ膳が出された事は無かった。
 子供はこの家の末子と云われている。がその実、血の繋がりは欠片も無かった。

 未曾有の嵐が到来したある晩、風呂に入れられ、座敷の上座に座らされた。
 供される、豪勢な膳。

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選択

選択

 やぁや、そこ行く旦那、どうしなすったそんなに目を釣り上げて。まるで怒気が陽炎の様じゃないか。随分と深い怨みがありそうだ、あっしに聞かせてみちゃあくんねぇか。

 ほぉ、行商に出ている間にお子が竜神様の生贄に、女房は後追って自死、そいつぁ気の毒に。本当は息子の番でなかったのに勝手に繰り上がって白羽の矢が立ったのかい? 今年で八つ、漸く順位から外れるはずだったのにと。そりゃぁ業腹なこった。それで復讐

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背守り

背守り

「お手を煩わせちまって」
「お得意のあなたの頼みです、訳はありません」
 そう言って女は微笑んだ。


「随分と可愛らしいお頼み事ですこと」
「本来は産着にするもんなんでやしょうけど」
 男はそう言って頭をかいた。
「道中、後ろを気にせず歩ければと思いやしてね… 気休めですが」
 女が静かに首を振り、手元の刺繍を撫でる。
「たかがおまじない、されどおまじない… この縫い『目』がちゃんと見張ってくれ

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春眠

春眠

 欠伸が出る。
 長閑な春の昼下がりだった。
 宿を出て街道沿いで露店を出したが、気が付くとうつらうつらしている。
 昨夜は寒くて眠れず、酷い寝不足だった。
「駄目だ、眠い」
 大きな桜の木の下で、そのままごろりとひっくり返る。
 あらかたの花は散り、葉桜になり掛けの中途半端な枝先が目に入る。
 ハクロも宿に泊った翌日は、よく眠そうにしていた。
「テイ、お前のせいだぞ」
 愚痴を溢しつつ懐に抱いた

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旅をする石 ①

旅をする石 ①

 <1>  視界の隅をひら、と赤い色が通り過ぎた。
 少年が目深に被った笠を押し上げ、それを目で追う。
 歳の頃は十六、七だろうか。面差しにはまだ僅かに幼さが残っているが、歳の割には旅装が随分と様になっている。
 勾配の急な峠越えの道中だった。考え事をしながら俯いて歩いていた為、周囲の変化に少しも気付いていなかった。
 そこは色付いたもみじの大群落で、笠の先を持ち上げ頭上を見上げると、日差しを透か

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旅をする石 ②

旅をする石 ②

 <3> 話し込んでいる間に夕方になり、食事と風呂を終え、ミチは充てがわれた部屋の布団の上でひっくり返っていた。
 この所、野宿続きであったし、この宿を目指して歩き詰めだったこともあり、随分と疲れが溜まっている。
 身体だけではない。ハクロについて思う事が様々あり、心の方もくたくたであった。
「どうして思い至らなかったんだろう…」
 手がかりは、ずっと目の前にあったのに。もっと早くに思い至っていれ

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