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読書ノート 「カーテンコール」 筒井康隆
2023年発刊、筒井康隆最後の短編集と目されている。ショートショートといえる長さの物語(物語でないものもあるが)が25編収められている。それぞれの題名は以下。
深夜便
花魁櫛
白蛇姫
川のほとり
官邸前
本質
羆
お時さん
楽屋控
夢工房
美食禍
夜は更けゆく
お咲の人生
宵興行
離婚熱
武装市民
手を振る娘
夜来香
コロナ追分
塩昆布まだか
横恋慕
文士と夜警
プレイバック
カーテンコール
附・山号寺号
アマゾンのレビューを見ると、「往年のキレがない」などと書かれているが、いまだにただ哄笑することだけを筒井康隆に求めている事自体、読みの感性が異なるのだろう。時代は遷り、人は年をとる。そのなかでどのように変化するかを感じ味わい、それを自らに染み込ませるという感覚でこの本を読むなら、この文体の変化や省略にもそれ相応の意味を見出だせると言うのに。まずもって相手は筒井康隆である。もしかしたらこの書き方も「歳をとったSF界の大御所作家の枯れた姿」という演技かもしれない。騙されてはいけない。NHKの筒井康隆特集のなかで、老人ホームで車椅子に乗ってボソボソ喋る姿が映し出されていたが、実はカメラが切れた瞬間、立ち上がって背伸びしているかもしれないのだ。
私の好みを列挙すると、無論「川のほとり」が最強ナンバーワン。以前にも書いたが、ここまで身に迫る夢の物語化をいままで読んだことがない。個性化されたなにものにも代えがたい景色を提供することに、作者自身も意味を感じている。歴史に残る名作。その次に、会社組織のブルシット・ジョブとでも言うべき会議体のバカバカしさを、子どもの一言で露わにし爽快感を味わえる「本質」が次点に入る。これは「王様は裸」の現代版であろう。その後に、舞台の最後の火花を魅せる「宵興行」、奥さんが可哀想な「離婚熱」、Netflixで映像化できそうな「武装市民」、懐かしく、愛すべきキャラクターたちの同窓会である「プレイバック」などが続く。
どれもこれも筒井節を楽しめ、嬉しいのだが、これで終わりかと思うと寂寥感で堪らなくなる。いや、まだまだこれから、老人ホームに入った筒井康隆が大化けしてハードSF大長編を書くかもしれない。生きている限り新作を期待をしつつ、こちらも読者としてしぶとく生き続けるのだ。
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