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もう地方は限界!


地方自治の岐路に立つ現状

本日、ある地方都市を訪問し、自治会長や地方議員、民生委員の方々と率直な意見交換を行いました。その中で浮かび上がったのは、地方自治の深刻な課題とその実態です。

この地域では自治会を構成するメンバーの中心は70代が占めており、40代や50代の参加者はほぼ皆無という状況です。自治会の活動も停滞しており、防災訓練は何年も実施されていません。このような状態であれば社会福祉協議会や市が主導して行うべき取り組みですが、何年も放置されていることが明らかになりました。

また、集会や親睦会が開かれても参加するのはいつもの顔ぶれ—高齢者が中心であり、新たな参加者や若い世代の参画はほとんど見られません。場所も「○○公民館」といった決して若者が集まりたいと思うような場所ではありません。

さらに、次期自治会長の候補者も見つからない状況に直面しているとのことです。この地方都市では、ここ20年の間に急速な高齢化が進行しており、現在40代の住民ですら地元に留まっている人はわずか。特に20歳以下の人口は1/10程度にまで減少し、多くの若者が進学や就職を機に流出しているのが現状です。

車社会であるのは他の地方都市と変わりませんが、それも最近は中心部まで移動販売のスーパーがやってきて、長者の列となるほどであり、車の運転すらできない高齢者が増えていることをうかがわせました。

墓や不動産の相続問題

こうした状況下で見えてくるのは、地方自治の問題だけでなく、相続に関する課題も深刻化しているという点です。高齢化が進む中で、40代や50代の世代が相続する家や墓の管理問題が顕在化しつつあります。地元に戻る予定がないまま空き家や無縁墓を抱えるケースが増え、それが地域の景観や治安にも影響を与えています。

今回、懇談した町内の近隣では売家も増え、人口動態を台帳でみると、既にほとんど住んでいる人がいないにもかかわらず、家屋だけが立っている状態でした。つまり、町内が丸ごと廃墟となっているのです。自治体の調査によると2023年で4.6%の空き家率ですが、分布をみると多くが中心市街地に集まっています。

墓の相続は、宗教的・文化的背景が絡むため、単なる不動産問題以上に解決が難しいことが多いです。さらに、遠方に住む子ども世代が墓参りや管理を行うことが現実的でない場合、自治体や宗教法人が無縁墓として処理する事態も増加しています。この問題は個々の家庭だけでなく、地域全体で議論し、適切な対応策を模索する必要があります。ただし、個々の家の考え方を尊重する必要があり、現に住んでいる70-80代世代と、継承する40-50代世代とでは、必ずしもうまく話がまとまるとは限らず、コンフリクトが起こる可能性ががあります。

防災の課題

私自身もDWATとして災害派遣されてきた防災の視点から見ると、地元ボランティア頼みの防災活動が高齢化と人口減少の中で成立し続けるのは困難です。災害時には地域の住民同士の協力が重要ですが、高齢者が大多数を占める現状では迅速かつ効果的な対応が難しいことが懸念します。

行政が防災訓練を主導し、若い世代や地域外の住民を含めた広範囲の協力体制を構築することが求められます。また、根本的に若い世代が存在しないのですから、防災計画の見直しや最新技術の導入、例えばデジタル技術を活用した情報共有や災害時のリソース配分の効率化なども必要です。

さらに、災害発生時の避難所運営も大きな課題です。高齢化が進む地域では、避難所における介護や医療ニーズが増加するため、事前に行政と地域住民が連携して具体的な対応策を準備することが不可欠です。自治体が地域住民と協力し、防災意識を高める活動を推進することで、持続可能な地域防災力を構築することが重要です。

防災士というNPO法人が発行する民間資格の取得が各自治体で推奨されていますが、能登地震を例に挙げると、民間資格者が入る余地はなく、各自治体から派遣された対口支援のチーム、自衛隊、各種の専門職チームと地域の代表者で避難所運営や支援を展開していました。防災士という民間人をどのように活用していくか、防災計画に取り入れていくかも大きな課題でしょう。

伝統芸能の継承問題

さらに、地方の伝統芸能の継承も深刻な問題として挙げられます。この地方都市では、かつて地域の祭りや伝統行事が活発に行われ、住民同士の結びつきが強かったといいます。しかし、現在では担い手の高齢化や人口減少により、多くの伝統行事が縮小または中止に追い込まれています。コロナ禍で消えた行事もあったとのことです。

伝統芸能は地域のアイデンティティや文化を象徴する重要な要素です。その継承が途絶えることは、地域の歴史や文化が失われることを意味します。若い世代を巻き込み、学校教育や地域イベントを通じて伝統芸能に触れる機会を増やすことが重要ですが、それらの手段はすでに10年以上前から打たれています。根本的に継承する人がいない。それだけの人口が存在しないという大きな問題が横たわります。

地方自治体の持続可能性を問う

今回訪問した地方都市は人口約16万人。しかし、その規模の自治体ですら自治の根幹を揺るがす問題を抱えています。これがさらに小規模な自治体になれば、課題の深刻さは計り知れません。

地方の衰退を食い止めるには、地域外に暮らす人々を巻き込み(関係人口)ながら、新たな参加者や世代交代を促す仕組み作りが急務です。同時に、限られた資源や人員を効果的に活用するため、自治会の活動を精査し、行政との連携を強化する必要があります。どこまでが住民が担い、どこまでを行政が担うのかということ。そして、基本的には地方交付税交付金の交付を受けている赤字団体である限り、使える予算も限られており、行政にとっても取捨選択が求められる。選挙でいくら明るい話を出そうとしても、限界は近い。

さて、東京に暮らす私たちは故郷にどうかかわればよいのだろうか。


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真紀
現場から現代社会を思考する/某国立大学の非常勤講師/専門は社会福祉学だが、最近は社会学に傾倒中。