許さない
私はあなたを一生許すことはできない。
許してはいけないのです。
それがあなたから生まれ落ちた私の使命なのだから。
あなたは一生女で居続けるのですね。
私がいくつになっても、あなたが私の母であるというこを
認めたくはないのです。
だって私は所詮、男によって人生を狂わされた可哀想な女の同情から作られた生き物だから。
くだらなすぎるのです。
そんなもので作られた命を、誰が尊ぶべきなのでしょう。
私はいつ死んでも後悔しないとずっと思っています。
何故そう思うのか、やっとわかりました。
私にとってのこの人生、あなたの思い通りにもならないこの人生は
然程大切ではないのです。
あなたは勝手すぎた。
自分が苦しいからといって私を子宮から転げ落とし、
育てられないので里子に出そうとした。
捨てたと思いきや、その時の気分で私を連れ戻し、
決まりそうだった里親から私を奪った。
しかし結局お金のないあなたは、私を貧困家庭の子供へと
仕立て上げた。余計なことを。
あなたじゃなければ、私はもっと性格も品も良かったかもしれないのに。
お金にも苦労せず、正当な愛情を受けて育っていたかもしれないのに。
あなたのそのいつでも破天荒な性格はどうでもいいが
よくも私の人生をめちゃくちゃにしてくれたものです。
おかげで幼い頃の記憶は何度だってぐしゃぐしゃに丸めて捨てたいし
どれもこれも曇り空のように薄暗いものばかりだ。
連れ戻したくせに、その気分屋な性格と過保護な性格に
付き合わされなくてはいけなくて、出来上がったのは
ただご機嫌伺いが得意な捻くれた餓鬼だったのです。
あなたはこの世に鬼を一つ産んでしまったのです。
あなたに振り回されながら育った私が
早くから強く自由を願っていたことも
きっとあなたは気づいていなかったのでしょう。
なんとか結婚まで辿り着いた私は今でも、
子どもを授かりたいなんて一切思わないのです。
とてもじゃないけど、怖くて手が出せないのです。
理想の母親像はいつも胸にあるのに、あなたの遺伝が私の血に混ざっていることを
考えると、同じことをしてしまうのではと怖くなるのです。
せめて男に生まれればこんな想いにならずに済んだかもしれない。
きっとあなたに似てしまっているし、あなた以外の背中を知らないので
あなたと同じやり方をしてしまうかもしれない恐怖に襲われるのです。
悲しいかなあなたにはもう時間がない。
新しく恋路を巡るとて、女ではなくなった体と共に
精神を削って行くだけでしょう。
どうぞ残りの人生を好きなように楽しんではいかがでしょうか。
私はあなたの気配がなくなるその日を楽しみに生きていきます。