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2:1 ゲームバー

美味しそうな料理の映像を見た後にそれが食べたくなる現象には名前が無い。しかし、誰もが体験したことのあるであろう現象だ。それに同調するかのごとく2年前のゲーム関連のイベントの帰り、私と友人カップルは東京の電気街で無性にゲームをしたくなった。さっさと帰って自宅でやればいいのだが、こういった別の空間でもやってみたいとついつい思い始めてしまう。だが持ち運びできるゲームなら兎も角、据え置きのゲームなど出来る場所などない。そう思っていたが、検索すると意外にもあると指摘された。友人カップルに一人身が引き連れられて着いた場所は…

ゲームバーだった。

ゲームバーと言えども種類がある。ボードゲームやカードゲームをやるテーブル上のゲームと映像の中のゲームだ。今回は後者の方のゲームバーへ連れて行かれた。記載の許可を貰っていないので場所は控えるが、一時は騒ぎになったと言えば分かる人ならわかるであろう所だ。そこで私は、目を開くこととなる。

バーカウンターでゲームしてる!

クリスタルグラスに注がれたウィスキーをロックで飲みながら、時折ナッツを齧ってチェスをしているのではない。酒や食べ物など見向きもせずにTVゲームをしている人たちがいるのだ。驚きのあまり、3人でその場で立ち尽くした。すると店員に時間を聞かれ、注意事項を聞いて料金を払い、飲み物を持ってテーブルに着いた。

さぁ、ゲームを始めよう

と心の中でアニメの悪役が言いそうなセリフを思い浮かべながら無言で選択して、始めたのだった。紆余曲折有りながらも、我々は無事にゲームを行い、気が付けば3時間は軽く超えていた。もっとやりたいと内心思っていたが、これ以上やるとこの気怠い空気から抜け出せなくなる危うさを感じ、我々は急いでバーの外に出た。ぼんやりと駅まで歩いていると、上の写真のカートのような集団が目の前の道路を通り過ぎ、一筋の風が現実に戻してくれた。

我々は、何をやっていたのだろうか?

バーにしては空気が淀んでおり、勝敗の叫び声が聞こえ、酒のにおいなど皆無の不思議な空間にいて、気が付けばあんなに大量にいた車が殆ど無い真夜中になっているのだ。頭が混乱してもしょうがない。そして、何て時間を無駄にしたのだろうかと後悔する。

しかし、数日たってみるとあの気怠い空気でゲームがしたくなり、足が向いてしまう。1人でフラっと行って、知らない人やバーの店員と話しながらダラダラとゲームをやる感覚に一度ハマると抜け出せなくなっている自分がいた。だが、1人身で行き続けるのも寂しいので、あの友人カップルに声をかけてみると、SNSのスタンプ付きで返信が来た。

「やっぱり恋人と隣り合ってやるゲームが一番だ」

その言葉を見た瞬間、私は持っていた携帯を半分に折って溝川に投けてしまいそうになったが、何とか堪えた。

『友達じゃないし、目も合わせないし声もかけないし一緒に遊ばないけど、仲間ならあの場所にいるじゃないか!』

そう自分に言い聞かせて、私は一人寂しくゲームバーに向かうのだった。

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