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駅そば旅情

 14分だ。何の時間かといえば、姫路駅での連絡時間のことだ。神戸から始発列車を乗り継ぎ、姫路駅で岡山行きの列車に連絡する。長いようで短い。もっと言えば、この14分とは土休日ダイヤのときの乗り換え時間。平日に至っては11分だ。

 青春18きっぷシーズンは、よくこのパターンで山陽方面で出かけていた。そして今回もそうだった。姫路駅から先、岡山方面に向かう山陽本線の列車は、朝夕は2本/時、日中は1本/時しかない。1回の乗り過ごしは、大きな時間的ロスに繋がる。

 しかし、始発列車で出てくる自分が、わざわざ朝食を済ませて来ているわけではない。そして、この後岡山までは1時間半を要する。この時点で、起床してから約2時間は経過しており、当然、腹も減ってくる。

 ところが、である。この時間、姫路駅構内のコンビニはギリギリ開いていない。開店する頃には、発車2~3分前である。予め買う物を決めて突撃すれば良いのだが、レジが混雑する可能性を考えると、ちょっと使いにくい。


 そこで目に入ってくるのが、姫路駅ホームにある駅そば屋だ。うどんの関西出汁と中華そばを使用した独特な製法で知られており、朝6時の段階で既に開店している。

 今までは、「そうはいっても10分少々で食べるのは…」と思い利用を憚っていた。しかし、今回はこの後の行程を考えると、しばらく飯にありつく時間がない。駅そば特有の回転率の速さを信じて、入ってみることにした。

 扉を開けると、出汁の匂いが立ち込める。まだ寒さの残る3月の早朝、この匂いは何とも言えない温かさがある。食券をカウンターに置き、この後の予定を逡巡しながら、しばし待つ。

 ものの2~3分で、天ぷらそばを受け取る。ここから先は、ただひたすらに、掻き込むだけである。

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  いつもなら多少味わって食べる所、こういうときはそうもいかない。より勢いよく、麺と出汁を吸い続ける。急いでいるので普段より出汁が熱く感じる。しかし、五臓六腑に染み渡るとは、おそらくこういった感覚を指すのだろう。

 麺を噛む時間を、出汁を少しずつ口に入れる時間を、全てを楽しむ時間を惜しみながら、4~5分で麺を食べ終えた。3分程度の余裕を持って、岡山行きの列車に乗り込む。店員さんの手際の良さに、感謝しかない。


 こういった時間との闘いは、よくあることだと思う。特に青春18きっぷを使った旅は、往々にして忙しくなりやすい。若い人の旅は大体そんなものかもしれないが。今回の駅そば突撃も、忙しない旅の1ページに過ぎない。ただ改めて感じるのは、こういった忙しさも、楽しい思い出として残るということ。最初は「もうしょうがない」という気分で入ったそば屋も、後から振り返ったときに、「よくこんな短時間で飯を食べたな」と、楽しく回顧できるシーンになった訳だ。


 旅行をするとき、旅先での思い出というのは、もちろん記憶や記録として残る。しかし、その道中、移動中の記憶というのは、意外と覚えていないことも多い。しかし、移動中の行動や風景も、後々から振り返ると良い思い出になることがある。何となく、そんなことを感じたシーンであった。


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