思い出の服

肌寒い日が続いた一昨年の冬、誕生日でもクリスマスでも記念日でもない、平日の時の話だ。

「外に着ていく服が無いー、どーしよー」と、愛妻の萌ちゃんが言っている。

(じゃあ去年はどーやって寒い日に外に出てたん?)と言いたい気持ちを抑えて、「そーいえば、あったかそうなジャンパーあったで」と、ノースフェイスなるブランドに萌ちゃんが好きそうなアウターが売っていることを教えた。

「これめっちゃ良さそうじゃん!あったかそう!いいなー、欲しいなー、買っていい?」と、いつもよりハーフトーン高めの声を出した。

まぁそうなるわなと思いつつ、「服ないんやったら外に出られへんし、買ったら?」と答えたけれどそのアウターは9万円だった。

「ちょっと待って。全額はアレやから、3万円は出してくれへん?」とセコいこと言って、あとは愛妻の良心に判断を委ねることにした。

「来週はもっと寒くなるみたいだし、いまから買ってくるね!」と言って萌ちゃんは家を出た。もちろんいまあるアウターを着て、だ。

この服の季節がやってくる度に「あと10年は着れるやん!買ってよかったやん!」と言っている。男がセコいことを言ってはダメなのだろうが、たぶん来年も再来年も同じことを言ってしまうと思う。


2022年4月19日(火)


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