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ミスチル歌詞から紐解く 全曲解説 19thアルバム「重力と呼吸」[海にて、心は裸になりたがる]

19thアルバム「重力と呼吸」の2番目の曲です。歌詞を全文引用します。

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ぼんやりただぼんやりと

海へと向かい心は走る

昨日会った嫌なことを 洗い流してきたい

重箱の隅ををつつく人

その揚げ足をとろうとしている人

画面の表層に軽く触れて

似たような毒を吐く

沈みかけたオレンジ色の太陽を背にして

僕の影が砂浜で踊っている

全部把握したつもりでいても

実は何もわかっていやしないよ

今 心は裸になりたがっているよ

消極的なあなたにも

上から目線のあなたにも

ほら 世界は確かに繋がっているよ

生臭い海の匂いは

ロマンチックとは程遠いけれど

デスクにいるより 居心地がよくてハイになる

冷静に自分を客観的にみる回路を外して

君の影も今僕と踊ってる

対照的と思っていても

実はあちこちが似ているよ

今 心は裸になりたがっているよ

わがまま過ぎるあなたにも

自惚れが強いあなたにも

きっと世界はあなたに会いたがっているよ

嫌なやつだと考えていても

実はちょっぴり気になっているよ

今 心は裸になりたがっているよ

可愛げのないあなたにも

注目されたいあなたにも

きっと世界はあなたに会いたがっているよ

今 心は裸になりたがっているよ

<出典>海にて、心は裸になりたがる/Mr.children 作詞:桜井和寿

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インタビューの歌詞に関しての桜井さんの発言が非常に興味深いです。

・この歌詞にほとんど意図はない。音楽的には凄く意図があるけれど

・僕の最近の歌詞の書き方ってそんなに伝えたいことはない(20thアルバム「SOUNDTRACS」のインタビューでは全くないと言っています。)

・ただメロディやサウンドに引っ張られて言葉が出てくるんで、自分の中で意図していない。だから逆に誰もが思っていることと同じになるかもしれない

・僕は普通に生活者目線で世の中を見ていて、みんなが見ているものと変わらない景色を見ていて、曲が鳴るからアウトプットしている

・水面下の無意識の中にその音の感情に結びつくために渦巻いている膨大なデータがあるはずだから、無意識を泳がせて生活しようと思っている。だからそういうリフができた時に「なぜ、俺の意識はここに至ったのだろう」っていうことを解き明かすためにメロディを作り、サビを作り、コーラスを作り、最後の最後にをうやって音楽を作る過程で見えてきた道筋を歌詞で形にしていく。曲作りは無意識からはじまるけれど、ある意味では無意識とは逆の無意識を意識化に置いていくっていう作業をしていく。

最後のくだりを皆さんは理解できますでしょうか。かなり難しい表現ですよね。ただ、これは逆説を組み合わせると真になるという真理をついているということだと思います。ある意味王道であり、成功者たちは自ずとこれを実践しています。例えば、「肉を切らせて骨を断つ」という言葉は、戦いにおいて勝つことが目的であれば、一見不合理に思えるダメージを負ってから、相手の隙をついて、それ以上のダメージを与えるということですので、最終的に勝つわけです。不合理が合理になるという典型例ですね。このことを桜井さんは言っていて、だからこそ、ミスチルが未だにトップに君臨している参入障壁ともなっているのです。みんな、肉を切らすのを嫌がりますからね。

さらに面白いというか、結構衝撃的な回答が続きます。

桜井さん曰く、90年代のスタジアムライブについて、無意識とちゃんと向き合ってきたのかという質問に対して、前のことはわからない。そもそもあの頃はライブがそんなに好きではなかった。(えーっ結構ファンとしては衝撃)昔のことです。今は好き。それこそBnak Bandと一緒にやる前はほぼずっと嫌いだった。楽しいと思ってやったことがない。いろんなところでいってきたけれど、なぁ(あまりしられてないですね)Band Bandと一緒にやるようになって初めて、人の音楽を聴きながら歌うとか、自分の歌った歌を聴いてプレイヤーがプレイしてるってことを感じて。これだけステージ上で影響しあって音楽ができるんだなと。それまではお客さんに対してしか意識がいっていなかった。Bank Bandから入ってきた流れがあってミスチルのバンド自体がどんどん変わっていった。

Bank  Bandをご存じだろうか。2005年から静岡のつま恋にて真夏に開催している音楽fesのリードバンド。桜井和寿、小林武史、亀田誠二(ゆずなどのプロデューサー)、小倉博和(ギタリスト、サザン、福山正治などのバンドを務める)、山木秀夫(ドラマー)などのメンバーを中心とした超一流ミュージシャンが終結した最強バンド。筆者は何度もそのfesでの演奏を聴いているが、素人ながら、音の多様性や深み、広がりが全然違うと感じていた。そのfesでは最後にミスチルが登場するのだが、その演奏がかなりシンプルなモノに聴こえてしまい、貧相な演奏に聴こえてしまうのは否めなかった。そんな桜井さんのインタビューを聞き、ミスチルが前Bank Band、後Bank Bandと分けられる変化をしてきたことを、そんなライブ演奏を思い出し納得している自分がいる。20thアルバムの「SOUNDTRACKS」では逆に研ぎ澄まされて削られたバンドサウンドが展開されいて、そのシンプルなバンドの力に惚れ惚れしている。どちらが優れているということでなく、どちらも良いことをリスナー側が判断できる能力があるかないかによってくる部分もあると、自戒を込めてお伝えしたい。


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