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第8章:チェスター・バーナードの組織論 - 組織を人間の協働システムとして捉える


チェスター・バーナードは、20世紀前半に活躍したアメリカの経営学者であり、組織論の先駆者として知られています。彼の組織論は、従来の組織論が重視してきた機械論的な視点とは異なり、組織を「意識的に調整された人間の活動や諸力の体系」と捉え、人々の相互作用やコミュニケーションの重要性を強調しました。バーナードは、組織を単なる構造や規則で成り立っているのではなく、人々が共通の目標に向かって協力し、連携することで機能すると考えました。彼の理論は、組織を動かす原動力となる「人間関係」と「組織文化」の重要性を示し、現代の組織マネジメントにも大きな影響を与えています。

8.1 バーナードの組織論の概要:組織を人間関係のシステムとして理解する

バーナードは、1938年に出版した著書『組織の機能』の中で、組織における人間関係とコミュニケーションの重要性を深く考察し、以下の重要な概念を提唱しました。

8.1.1 組織の定義:意識的に調整された人間の活動のシステム

バーナードは、組織を「意識的に調整された人間の活動や諸力の体系」と定義しました。この定義は、組織が単なる構造や規則ではなく、人々の協働システムであることを強調しています。組織は、共通の目標を達成するために、人々が協力し、互いに連携することで機能します。

8.1.2 組織の三要素:共通目的、協働意欲、コミュニケーション

バーナードは、組織が機能するためには、以下の3つの要素が不可欠であると考えました。

共通目的: 組織の構成員が共有する目標や目的です。共通目的は、組織のメンバーを結びつけ、協働を促進する重要な要素です。共通の目的を明確にすることで、メンバーは組織の方向性や自分の仕事が組織全体にどのように貢献しているのかを理解し、モチベーションを高めることができます。

協働意欲: 組織の目標達成のために、構成員が協力する意欲です。協働意欲は、組織のメンバーが自発的に行動し、貢献する意欲であり、組織の成功に不可欠です。

コミュニケーション: 組織の構成員間で情報を共有し、協調するための手段です。コミュニケーションは、組織のメンバー間の連携を円滑にし、誤解や混乱を防ぐために重要です。
これらの要素がバランスよく存在することで、組織は効率的に機能し、目標達成に近づきます。

8.1.3 権威受容説:権威は与えられるものではなく、受け入れられるものである

バーナードは、権威は上から与えられるものではなく、下位者がそれを受け入れることで初めて成立するという「権威受容説」を提唱しました。つまり、権威は、命令する側の力ではなく、命令される側の受け入れによって成り立つのだと主張しました。

この概念は、現代においても、リーダーシップやマネジメントを考える上で重要な視点を与えてくれます。リーダーは、単に命令するのではなく、従業員の理解と協力を得ることで、より効果的に組織を導くことができます。

8.1.4 誘因-貢献理論:組織と構成員の相互作用

バーナードは、組織と構成員の間には、相互作用が存在すると考えました。組織は、構成員に誘因(報酬、満足感、成長の機会など)を提供し、構成員は、組織に貢献(労働力、知識、スキルなど)を行います。組織が存続するためには、誘因と貢献のバランスが重要です。

従業員は、組織から提供される誘因によって、組織への貢献意欲を高めます。一方で、組織は、従業員の貢献によって、組織の目標達成や成長を実現します。この誘因と貢献のサイクルが、組織を存続させる原動力となります。

8.2 バーナードの組織論における主要な概念:組織を動かす力

バーナードの組織論は、組織を構成する個々のメンバーの人間関係が、組織全体の成功に重要な役割を果たしていることを明らかにしています。彼の理論は、組織におけるコミュニケーション、協調、モチベーション、リーダーシップ、そして組織文化の重要性を強調しています。

8.2.1 コミュニケーション:組織の血液

バーナードは、組織の活動を円滑に進めるためには、効果的なコミュニケーションが不可欠であると主張しました。コミュニケーションは、情報共有、指示伝達、意見交換、そして関係構築を促進し、組織の効率性と効果性を高めます。彼は、組織内のコミュニケーションを阻害する要因として、以下の点を指摘しました。

情報伝達の歪み: 組織内における情報伝達には、必ず歪みが発生する。そのため、情報伝達過程を明確化し、誤解を避けるための工夫が必要です。

情報の不足: 必要な情報が不足すると、適切な意思決定が難しくなります。そのため、必要な情報を適切なタイミングで共有する仕組みが必要です。

コミュニケーション能力の不足: コミュニケーション能力が低いメンバーは、自分の意見を効果的に伝えられなかったり、相手の意見を理解できなかったりする可能性があります。そのため、コミュニケーションスキルを向上させるための研修やトレーニングが重要になります。バーナードは、効果的なコミュニケーションを実現するために、以下の様な提案をしました。

階層的なコミュニケーション: 組織の階層構造に基づいた、上下関係の明確なコミュニケーションシステムを構築する。

横断的なコミュニケーション: 部門間の連携を促進するために、横断的なコミュニケーションの機会を設ける。

情報共有の仕組み: 情報共有システムを導入したり、定期的な会議や報告会を開催したりすることで、必要な情報を組織全体で共有する。

8.2.2 協調:組織目標達成のための連携**

バーナードは、組織の目標達成には、メンバー間の協力と協調が不可欠であると主張しました。協調は、メンバー間の相互理解と信頼関係を基盤とし、共通の目標に向かって力を合わせることで実現します。バーナードは、協調を促進するための以下の様な要素を指摘しました。

共通の目的: 組織のメンバーが共通の目的を理解し、共有することで、協調意欲が高まります。

役割分担: 各メンバーがそれぞれの役割を理解し、責任を持って行動することで、効率的な協調を実現できます。

コミュニケーション: オープンなコミュニケーションを促進することで、メンバー間の相互理解を深め、協力関係を強化することができます。

リーダーシップ: リーダーは、メンバーの意見を尊重し、協調的な雰囲気を作り出すことで、チームワークを促進します。

8.2.3 モチベーション:組織への貢献意欲**

バーナードは、従業員のモチベーションが、組織の成功に不可欠であると考えました。彼は、従業員のモチベーションを向上させるためには、以下の様な誘因を提供することが重要であると主張しました。

経済的誘因: 報酬、昇進、ボーナスなどの経済的なインセンティブは、従業員のモチベーションを高めるための重要な要素です。

非経済的誘因: 従業員の仕事への満足感、成長の機会、自己実現の機会、そして組織への帰属意識なども、従業員のモチベーションを高める要因となります。

バーナードは、従業員のモチベーションを高めるためには、経済的誘因と非経済的誘因のバランスが重要であると考えました。

8.2.4 リーダーシップ:組織を導く力**

バーナードは、リーダーシップは組織の成功に不可欠であると主張しました。彼は、リーダーシップには以下の様な要素が必要であると考えました。

ビジョン: リーダーは、組織の将来像を明確に示し、メンバーに共有する必要があります。

コミュニケーション: リーダーは、メンバーとのコミュニケーションを重視し、彼らの意見を積極的に聞き入れ、信頼関係を構築する必要があります。

動機づけ: リーダーは、メンバーのモチベーションを高め、組織の目標達成に向けて行動を促す必要があります。

協調: リーダーは、メンバー間の協調を促進し、チームワークを強化する必要があります。

8.3 バーナードの組織論の現代における意義:組織文化と人材の重要性

バーナードの組織論は、組織を人間の協働システムとして捉え、コミュニケーションと個人の意思決定の重要性を強調しています。これらの概念は、現代の組織管理にも大きな影響を与えており、特に以下のような点において、現代の組織にとって重要な教訓を与えてくれます。

人間関係の重要性: 組織は、単なる構造や規則ではなく、人々の相互作用によって成り立っていることを認識し、良好な人間関係を構築することが重要です。従業員同士の信頼関係を築き、コミュニケーションを活性化することで、組織全体のエンゲージメントとパフォーマンスを向上させることができます。

コミュニケーションの重要性: 組織の目標達成には、効果的なコミュニケーションが不可欠です。オープンなコミュニケーションを促進し、情報共有の仕組みを構築することで、組織の効率性と透明性を高めることができます。

従業員のモチベーション: 従業員のモチベーションを高め、組織へのエンゲージメントを高めることが重要です。従業員が自分の仕事に意義を見出し、成長を実感できる環境を提供することで、従業員のモチベーションを高め、組織への貢献意欲を高めることができます。

リーダーシップ: 組織を導くリーダーは、明確なビジョンを示し、従業員を動機づけ、組織全体の目標達成を促す必要があります。リーダーは、従業員とのコミュニケーションを重視し、従業員の意見を積極的に聞き入れ、信頼関係を構築することで、より効果的に組織を導くことができます。

組織文化: バーナードの組織論から、組織文化が組織の成功に不可欠な要素であることも理解できます。組織は、明確な組織文化を構築し、共有することで、従業員のエンゲージメントとモチベーションを高め、組織のパフォーマンス向上、顧客満足度向上、そして持続的な成長を実現することができます。

8.4 バーナードの組織論と現代社会:変化への対応


現代社会では、グローバル化、デジタル化、そして多様化など、組織を取り巻く環境はますます複雑化しています。このような変化の激しい時代において、バーナードの組織論は、組織が成功するために不可欠な要素を明確に示しており、その重要性はますます高まっています。

変化への対応: 組織は、変化を恐れずに、新しいアイデアや技術を取り入れる柔軟性を持ち、常に変化に対応していく必要があります。

コミュニケーション: 組織は、変化をスムーズに進めるために、オープンで効果的なコミュニケーションを促進する必要があります。

多様性の尊重: 組織は、様々なバックグラウンドを持つ人材を受け入れ、多様性を尊重する文化を醸成する必要があります。
リーダーシップ: 変化を牽引するリーダーは、明確なビジョンを示し、従業員を鼓舞し、組織全体の目標達成を促す必要があります。

組織文化: 組織文化は、変化に適応し、成長を続けるための重要な要素となります。変化を恐れずに挑戦し、学び続ける文化を育むことが重要です。
バーナードの組織論は、現代の組織においても、その重要性を失っていません。組織は、バーナードの教えを参考に、人間関係を重視し、コミュニケーションを促進し、組織文化を強化することで、変化に適応し、持続的な成長を実現することが可能になります。

参考文献


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