プロ野球投手 勝ち星の価値と戸郷翔征について

 こんにちは。今回は、最近野球を見ていて、先発投手の勝利数、勝ち星という指標が軽視されているのでは、と思ったので、感じたことやわたしの勝ち星への評価を書いてみようという記事です。

 本題に入る前に断っておきますが、わたしは野球経験、投手経験こそありますが、いわゆるセイバーメトリクスだったりといったいわゆる近年評価されがちな指標については素人ですし、勝ち星が重要とか、セイバーはクソとかそういったことをアピールしたいわけでは決してありません。勝ち星は打線の兼ね合いやリリーフの強さで与えられ、運の要素が強いと言われがちな中、それは事実だとは思いますが、流石に軽視されすぎではないかなーと思ったので、それを言語化してメモ代わりに残しておこうかなって程度です。できれば他の方の意見も聞いてみたいので文章にして公開してみようかなって程度ですね。


本題

 野球界では投手の実力を測る際、(メカニクスや球速などの要素を別にして)少し前から勝ち星ではなく、防御率や奪三振を見るのが一般的、という形になってきているなと感じています。
 更に近年では、セイバーメトリクスの普及により、FIPやBABIP、更に踏み込むと、トラックマン等を用いた回転数や回転軸、リリースポイントなどが数値化され、かつてイメージや印象で語られることが多かったものまでもが分析対象となっています。

 そんな中、今まで一流投手の証として評価軸であった勝ち星、勝利数の価値が下がり、例えば10勝で防御率3.00の投手と、5勝でも防御率2.00の投手であれば、その他イニング数等々の条件が同じであれば、後者の勝ち星が少ない投手のほうが能力としては上である、という判断がなされていることが多いですよね。
 投手の勝利というものは、投球内容ではなく、先発投手に限った話では、既定の投球回を投げ切った時点で所属球団がリードしており、そのまま球団が逃げ切って勝てば与えられます。ですから、5回3失点でも勝てますし、9回1失点で負けるケースもありうるわけです。当然、投球内容は9回1失点のほうが誰がどう見ても上ですし、打線が強ければ5回3失点でも評価される指標なんて軽視されて当たり前だよな、というのはわたしも同意見です。

 ただ、そこに対して「勝ち星の有無は運だから」の一言で片づけてしまうのは勿体ないと思うんですね。
 
 つい最近、サンディエゴ・パドレスに所属するダルビッシュ有選手が日米通算200勝を達成し、大きく報道もされました。2020年シーズンには日本人投手で初となる最多勝を達成したこともあり、当時はかなり話題になっていましたよね。
 このように、勝ち星は例えば誰かが1勝したくらいではニュースになることなんてめったにないのですが、シーズンや通算記録など、「積み重なる形で」評価されることは現代でも多く目にします。プロ野球ニュースなんかでも、だれだれが勝利しました、と大々的に報道されることはめったにありません。近年評価される防御率や奪三振でいえば、だれだれが二けた奪三振で好投だとか、だれだれが完封を記録、と大々的に報じられることはあってもです。
 これは安打数でも同じことが言えます。通算〇〇本達成、となれば大々的に記録として報じられますけれど、今シーズン最多安打が誰とか、チーム最多安打が誰とか、こういったことは贔屓球団の選手であっても知らない方が多いですよね。まあこれはたいてい首位打者とイコールになりがちなので、たとえとしては弱いですけれども。

 で、話が戻りますが、勝ち星の有無に関連する「運」というのも、最近では指標として取り入れられていますよね。セイバーに普段から触れている方であれば当然思い浮かぶはずの、BABIPです。
 BABIPを知らない方のためにものすごく簡単に言い換えるとこれはインプレー打率のことで、良い当たりでも野手の正面に飛べばアウトになる、逆に、ショボい当たりでも野手のいないところへ飛べばヒットになるのだから、打率も運だよね、というのを解消するためによく使われるもので、BABIPの数字が打者目線で高ければ、打球が前に飛んでいて打率が良い、つまり野手のいないところによく飛んでいるので運が良い、逆にBABIPが低ければ、野手の正面によく飛んでいるので運が悪い、という形で用いられるのが一般的というか、専門家でなくともよくBABIPを使って話す際に用いられる形です。

(実際にはHard%などの他指標と照らし合わせたりすべきという話もありますが、ここは今回の話と関係ないので割愛します。)

 で、このBABIPが極端に実際の打率より高いと、この選手は運が良くて結果が出ているだけだから、そのうち打率は落ちるだろう、なんてのもよく目にしますよね。近年で言えば、わたしは日本ハムファンなので、松本剛選手が首位打者を獲得した際、オリックスの吉田選手と比較しBABIPが高く、BABIPの寄与しないHR数が少ないことからそんな言われ方が多かったなあと記憶しております。

 ですが、これもわたしの主観でしかありませんが、勝ち星に関しては、投球内容が良いからそのうち稼げるようになる、なんて言われ方はあまり目にしたことがありません。ここが不思議なわけです。

 わたしは巨人も好きなので、戸郷選手を例に出します。戸郷選手は昨年2022年に12勝で二けた勝利を達成するまで、二けた勝利を挙げたことはありませんでした。が、22年に12勝を記録すると、翌2023年にも12勝を挙げています。
 ついでに言うと、2022年は171イニングで防御率2.62、2023年は170イニングで防御率2.38と、防御率で言えば良化はしているものの、そこまで投球内容が劇的に変わったとは言えませんが、敗戦数が減ったので、勝率で言えば、2022年は.600、2023年は.706と約1割あがっています。
 2022年の巨人の総得点は548点、2023年は523と、勝率が悪かった22年のほうが得点が高いのですが、戸郷選手登板時の援護、という点で見てみると、22年は総援護が69点で援護率3.41、23年は総援護が85点で援護率が4.35と、1試合平均1点ほど援護点が増えています。味方の得点が増えているので当然敗戦は減りますし勝ち星もつきやすいです。

 なるほどこれは勝ち星が運と言われるのも納得ですね。ですがこれは、BABIPを語る際よく用いられている、運の揺り戻しという概念とも合致します。つまり、勝ち星とは試合単体や1年単位で見るよりも、よりサンプルの大きい通算成績単位なんかで見た方が、運の要素が減り、評価すべき指標となりうるのではないか、というわけです。となれば、通算200勝を達成したダルビッシュ有投手が、勝ち星の価値が薄まった現代でなおあれだけ報道されたのにも頷けますよね。

 ここで切り口を少し変えます。今年も言われていますが、2023年より戸郷選手は球速の低下といったものがよく問題視(?)されています。
 戸郷選手のストレート平均球速は、9勝の防御率4.24で終わった2021年は147.3キロ、22年は146.6キロ、23年は145.1キロと、確かに平均球速は落ちています。
 しかしながら、先ほど22年と23年は同じ170イニング程度と書いたものの、登板数ベースで見ると22年は25登板なのに対して、23年は24登板で170イニングを投げています。つまり、1試合あたりの平均イニング数は伸びているんですよね。で、奪三振は22年が154個に対して23年が141個と減っているので、これはまあ球速の低下も要因としてあるでしょう。しかし戸郷選手は四球も同時に減らしており、1個四球を出すまでに何個の三振が取れているかというK/BBでは、22年が3.02、23年が3.62と増加しています。更に言うと、平均球速ベースでは下がっていますが、勝負所。巨人ファンの方であれば覚えてらっしゃると思いますが、昨年9月8日の中日戦に登板し延長10回140球の熱投を講じた試合ですが、1回表の平均球速は146.1キロだったのに対して、10回表には148.3キロを計測しています。ここ一番ではギアを上げ、要所を抑えるスタイルへ変更したことで、平均イニング数の増加、K/BBの良化につなげているのではないか、ということです。

 ここで少し話を変えます。
 わたしはメジャーリーグも大好きでよく見るのですが、ここまで読んでくださっているおそらく数少ない濃厚な野球ファンの方々は、現在テキサス・レンジャーズに所属する、ジェイコブ・デグロム選手をご存じでしょうか。
 ご存じであれば話ははやいのですが、彼もまたムエンゴ、運が悪く勝ち星がついてこない選手の代表格です。実力はメジャーリーグトップといって差し支えなく、圧倒的な投球内容でも勝てないさまは、一時期同じ現象だったNPBの投手になぞらせて、アメリカの山本由伸なんて呼ばれてましたよね。
 彼の特徴はなんといっても、平均で158キロほどを記録する圧倒的なストレートのスピードが一番に思い浮かぶ方が多いのではと思います。これだけのストレートを先発で投げる投手は、アメリカといえどそうはいません。
 しかし同時に、デグロム選手を象徴するものは「怪我」です。とにかく怪我の多い選手で、現在も怪我により今年の登板は叶っていません。投げさえすれば圧倒的なんですけどね。
 
 で、近年は投手の耐久性問題なんかも、NPB、MLB問わずよく言われてますよね。怪我がとにかく多く、名投手でトミージョン手術を経験してない投手はいないんじゃないかなんて意見も目にします。
 その原因はまあわたしも投手経験があり肘を壊したこともあるので、色々あるのは分かってはいるのですが、1つ原因としてよく挙げられているのが、球速の高速化です。要は、速い球を投げるというのは、それだけ人体に負荷がかかる、という話です。
 もちろんフォーム上怪我しやすいしにくいというのはあるというのも分かっているつもりですが、それにしても剛速球を投げ続けるというのは身体には大きなストレスというわけです。このデグロム選手や、大谷翔平選手なんかもフォームが綺麗な投手の代表格と言われているのに、肘をすり減らし続けてしまっていますよね。(まあ、大谷選手に関しては二刀流の負荷もあるのでここで例に出すのは違うかもしれませんが)

 で、デグロム選手は怪我が多いとか球速がはやくてすごいとかいう話は置いといて本題に戻りますが、先ほどの項目で、勝ち星は通算での長い目で見た時に評価される、という話です。長い目で見ると運の要素が極力排除され、もちろん多少の運が良い悪い、所属球団の強い弱いはあるとも思いますが、ある程度その選手が正当に実力通り積み重ねることができたものとして評価できると思います。しかし、デグロム選手のように怪我が多く登板自体が稼げないとなると、デグロム選手は負け運を一生抱えたまま、運が上振れることなくキャリアを終えることにもつながってしまいかねません。つまり、投手は耐久性が大事という話にもなってくるわけですね。

 そこで、戸郷選手の球速低下の話です。スピードを落として体への負荷を抑え、スピードを落とせばボールをコントロールもしやすく、スタミナも維持しやすいのでここ一番で勝負をかけて球速を一気にあげるという第二段階を残すことができます。もちろん単年で見た場合には、デグロム選手のようにフルギアで制圧し、奪三振記録なんかも狙っちゃったほうが投手としての格はあがるかなと思いますし、近年評価されることが多いセイバー的な評価とも一致します。年俸もあがるでしょう。
 しかし、戸郷選手のようにクレバーに試合を作り、耐久性を兼ね備えた投球スタイルもあるということです。こういった投手の真価は、積み重ねた記録、つまり勝利数なんかと相性が良いのではないか、というお話ですね。
 
 このギアを上げる余地、というのは実際の試合の中で大なり小なりすべての投手が意識してるものだとわたしは思ってまして、例えば8点リードで勝っている試合で、(ノーノーや完封などがかかっていなければ)遮二無二腕を振って160キロ出して抑える必要なんて正直全くありませんよね。1-2失点したところで、試合に勝つ方がチームとしては大事ですから。投手の防御率とか、三振の取れなさには影響してくると思いますが。
 ついでにこれは守備なんかにも関係するとわたしは思っていまして、例えば広島の菊池選手。ここはもう完全に余談なので簡潔に書きますが、菊池選手といえばセカンド守備の名手として広く知られていますが、守備を評価する指標として、近年よく言われるUZRやDRSなんかだと、全盛期に比べてここ数年の菊池選手は大きく数字を落としています。指標では巨人の吉川選手や、ヤクルトの山田選手などに劣るのにゴールデングラブ賞を受賞することもあって記者が叩かれたりしてましたよね。それでも、菊池選手は時折全盛期を彷彿とさせるようなスーパープレーを見せていたことは、そんな巨人ファン、ヤクルトファンの中でもまあ頷けるところだと思います。
 これも先ほどのギアチェンジのように、例えば大差で勝っている試合で、飛びつけばギリギリ取れるかもしれない打球に対して、怪我のリスクを負ってまで飛びつく必要なんて正直ありませんよね。興行ですからファンに魅せるプレーというのも必要ですけれど、菊池選手くらい実績があれば、守備で今更アピールをせずとも、長くプレーを続けるほうが大事ですから。そういった指標だけみて判断することよりも、印象的なプレー、というのも実際大事だよねという話です。まあわたしは広島ファンではないので、実際に菊池選手がファインプレーをしているのが競った試合なのかも知りませんし、セカンドが一番うまいのは吉川選手だと思っていますけどね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 以上、なんだか微妙にまとまらないままな上に、巨人ファンが戸郷自慢をしただけの記事になってる気がしますし、まだまだ言いたいこともあったんですけれども。あまり長く書きすぎてもアレなので終わります。良かったら皆さんの勝ち星やセイバーへの印象、選手の良し悪しを判断する基準なんかも教えていただけると、わたしはとってもうれしいです。

PS.勝ち星の価値って別にダジャレを言ったつもりは一切ありません。本当です。

参考
データで楽しむプロ野球

日本野球機構
https://npb.jp/bis/players/41045138.html

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