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海が囁きかける


皆さん、こんにちは!
私の新作ボカロ曲「海が囁きかける」と、その短編物語を同時進行で制作しました。この物語のテーマは「希望と再生」です。遥か未来の人類が滅亡し、文明が崩壊した世界で、主人公フィンは生き残りとして日々を過ごしています。食料は豊富であるものの、彼はかつての文明の名残を探し続けます。

この短編物語では、曲の歌詞に込められた意味やキャラクターの心情をより深く掘り下げています。曲を聴いた後に物語を読むことで、より一層の感動を味わっていただけたら幸いです。




遥か未来、人類は滅亡の一途をたどっていた。生き残りのフィンは廃墟と化した建物を物色していた。食べ物には困っていなかった。外には豊富な果物や作物、狩りをすれば動物の肉にもありつけた。川や海には新鮮な魚介類。ある意味、贅沢な暮らしをしていた。ただ、文明的なものは残っていなかった。灯りは焚火、移動は自分の足もしくは馬だ。しかし、彼は知っていた。かつて人類は文明が盛んで、想像も出来ない生活を送っていたことを。


廃墟と化した建物

フィンは、かつての文明の名残を探しながら、薄暗い部屋を進んでいた。部屋の片隅に何か硬い突起物があるのが目に留まった。彼がそれに触れると、四角い薄っぺらい箱のようなものに光が映し出された。無意味な記号のようなものがたくさん映し出された。フィンはそれが何を意味するのか全くわからなかった。だが、それがとても重要なものであるであろうことは理解できた。

薄暗い部屋

彼はその箱をじっと見つめた。ためらいながらその表面を触ってみた。すると、突然、記号が映像に切り替わり、彼が見たこともないものが映し出された。空を飛ぶ鳥ではない物体。馬ではない走る物体。それに乗っている人間たち。見たこともない食べ物を口にする者たち。四角いものを見つめる人たち。映像がどんどん切り替わっていく中で、彼が目にしたことのあるものが映し出された。それは、彼が身につけているネックレスだった。そのネックレスは、丸にクロスが付いた形をしていた。それは、以前物色していた建物の中で見つけたものだった。
フィンはネックレスを首からはずし、見つめた。

「これは、何か特別な意味があるのか…?」フィンは心の中で問いかけた。


金色のネックレス

なぜなら、映像の中で同じネックレスを持つ人々が、大切そうにそれを身に着けていたからだ。彼らの目には希望の光が宿っているように見えた。その視線の先には一人の男か立っていた。そして、聞きなれない言葉を発していた。その声には力が宿り、何かを伝えようとしているのが見て取れた。

その瞬間、箱が発っする光が強まり、そのまぶしさで視界がぼやけた。彼は思わず目を閉じた。


澄んだ水の中

目を開けた時、彼は全く知らない場所にいた。水面が目の前に広がり、彼の顔はその水面の上に出てはいたが、浮いている感覚だった。青く澄んだ水が広がり、光が水面から差し込んでいた。彼は自分が水の中に沈んでいることに気づき、必死でもがいた。

しかし、何かが彼を引き止めていた。握っていたネックレスが強く下へ引っぱられ、彼は再び底へと沈んでいく。水の中で、彼はそのネックレスを放そうとしたが手に吸い付くようで手を開くことができなかった。それは、彼をどこかへと導こうとしていた。

「もう息が続かない。」フィンは死を覚悟した。

水が口と喉を覆った。けれど苦しくなかった。 

水の中なのに息が出来る。それは不思議な感覚だった。彼はそのままネックレスに任せるがまま沈んでいった。ネックレスは微かな光を静かに放っていた。その光を見つめていると心が静かになり、まるで魚になったような気分だった。音の無い世界を漂っていた。するとほどなくして、ネックレスの光が消え、目の前に扉が現れた。その扉は古びた木で出来ていた。


古い木製の扉

「ここはどこだ?この扉は?」

その扉は水の中に静かにたたずんでいた。彼はその扉の後ろへ回り込んでみたが、後ろには何もなかった。ただ、なぜかこの扉を開けねばならないような気持ちに駆り立てられた。理由はわからなかった。
彼は深呼吸をし、意を決して扉に手をかけた。すると、扉はゆっくりと開き、輝く光が彼を包み込んだ。フィンはその光に導かれるように、一歩扉の中へと踏み出した。

扉の中に入ると、フィンは穏やかな光に包まれ、心地よい温もりを感じた。その瞬間、彼の意識はふわりと軽くなり、まるで雲の上に浮かんでいるかのようだった。いや、実際に彼は雲の上を歩いていた。周囲に音はなく、静寂に包まれた空間で、彼は何も考えられなくなった。

雲の上

「ここは安全な場所だ」と、心に直接語りかける声が聞こえた気がした。

フィンはその声に導かれるように、さらに深く安らぎに浸っていく。立っていることもままならず、彼はゆっくりと足元から崩れ落ちた。


暗いトンネル

そのまま、彼は心地よい眠りに落ちていった。フィンの体は、目に見えない膜に包まれていた。その膜は彼を優しく包み込み、暗闇のトンネルを滑るように進んでいく。周囲は静まり返り、ただ彼の心臓の鼓動だけが響いていた。

フィンは、柔らかな声に呼び覚まされ、ゆっくりと目を開けた。目の前には、穏やかな光が差し込んでいる。彼はその光を見つめ、誰かの姿を探そうとしたが、周囲にはただ静寂が広がっているだけだった。

どこからともなく声が語りかけた。とても優しく柔らかい鈴の音のような声だった。

「今から見るものはあなたにとって大事なものです。でも、次に目が覚めたときにはすべて忘れていることでしょう。」

その言葉が心の中に響き、フィンは不安と期待に胸を高鳴らせた。彼は何が大事なのか、そしてなぜ忘れてしまうのかを考えたが、答えは見つからなかった。代わりに、彼の周りに現れたのは、色とりどりの映像だった。


安らぎの風景

鮮やかな緑の風景。見知らぬ女性の笑顔。その笑顔になぜか懐かしさを覚えた。フィンは、心の中に温かな感情が広がっていくのを感じた。見知らぬ女性の笑顔が、まるで彼の心のどこかで待ちわびていたかのように、彼に安らぎを与えていた。その笑顔には、愛と優しさが満ちていて、彼はその瞬間がどれほど大切なものであるかを直感的に理解した。

「この感覚を忘れたくない…」フィンは強く思った。彼の心の奥深くに、その笑顔と共に生きる記憶が宿ることを願った。しかし、彼の意識は徐々に薄れていき、現実と夢の間を行き来するような感覚に包まれていく。

再び暗闇に沈み込む中で、彼は心の中でその笑顔を反芻し続けた。彼はその瞬間を、忘れられない宝物として心に刻もうとした。やがて、彼の意識は静まり、深い眠りへと引き込まれていった。

夢の中で、彼の目の前には、遺跡のような古い石造りの階段がそびえたっていた。
「この階段の先には何があるのか…。」
フィンは再びその女性と出会うことを願い、彼の心の中に強く残った感情を大切に抱きしめた。彼は一歩一歩ふみしめるように階段を登った。彼が目覚めたとき、どれだけのことを忘れてしまうとしても、その感覚だけは決して消えないと信じながらーーー。

海が囁きかける


ボカロ曲「海が囁きかける」の世界観やテーマを活かし、物語として表現しました。音楽が描く情景や感情を、文章でもお楽しみいただけましたか?

曲も物語もあなたの心に響くことを願っています!

感謝を込めて(1968P)


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