金木犀と気が散って
また、終電を逃した。
私は終電逃しの常習犯だ。終電の時間は23:43。知ってる。気をつけている。しかし終電の前に何かあると、目の前のことに集中して終電のことなんて頭から無くなってしまう。
昨日は、終電前にストリートパフォーマンスをしている知り合いに遭遇して、セッションをした。セッションが終わり、知り合いと山分けした収益を所属しているサークルに寄付するために、代表の家に寄ろう、そう思った。代表の家に向かう途中、現実に引き戻されたように時計を見ると23:40。瞬間移動でもしない限り、もう間に合わない。焦った。
しかし、
終電を逃した場合幾つかの選択肢がある。
①タクシーで大金を払って帰る。
②誰かの家に泊めてもらう。
③カラオケに行ってオールして始発で帰る。
④1時間半の道のりを歩いて帰る。
代表の家にお金を届けたら、歩いて帰ろう。いつも泊めてもらってるから、後ろめたい気持ちと、ゆっくり休んで欲しい気持ちと、自分の家でゆっくり休みたい気持ちで④を選んだ。代表に温かい紅茶をもらい、ひとしきりゆっくり話して、さあ、真夜中の町へ。
出発時刻25:00。
薄着をしてきたことを後悔した。寒い。
でもね、金木犀の香りがそこらじゅうに広がっていて、落ち着いた気持ちになれたんだ。音楽を聴きながら歩いていた。ほとんど誰も歩いていない寝静まった街は、私の思考の波を掻き立てた。
今頃、どれぐらいの子供が幸せな夢を見て、どれぐらいの大人が苦しい夢を見てるんだろう。
今度サークルで作るZINEはどんなものにしよう。
私にしかできない印刷物を作ってみたいな。私の言葉と世界が詰まった大作を作ってみたい。出版の費用はいくらぐらいだろう。いや、手書きで自分で製本するのも素敵だな。
今の歌詞気になるな。もう一回この曲を歌詞を見ながら聴いてみよう。
今日買ったジャズの本を果たして自分で使いこなせるだろうか。そういえば、ギターをガット弦に張り替えてみようかな。ペグも変えたいな。どこに売ってるだろう。
あー、さっきの歌詞聞き逃した。もう一回この曲を流すか。3分ぐらいの歌だから、しっかり集中して聴こう。
やっぱり昨日一昨日の雨風で金木犀が散ってる。でも良い匂いだな。金木犀って英語でなんて言うんだろう。この香りを彼に伝えたいな。
そういえば歌詞に集中してなかった。もう一度。
もう一度、もう一度。
いつからだっけ、こんなに集中できなくなったのは。インスタで短時間のリールばかり見てるからかな。みんなの集中力はどれぐらいなんだろう。
もう一度、もう一度。
検索しても、検索しても。
終わらないの。