大声は障害者虐待になるのか?
2021年8月24日(19:56)神戸新聞NEXTに『障害者に職員が大声 「虐待でないか」と通報 伊丹市の施設、兵庫県が運営法人に改善命令』との見出し記事が掲載されていた。
記事の内容は、障害者グループホームを運営をしている会社への「改善命令」を出したというもので、具体的には、施設の職員が障害者に大きな声を出している。虐待ではないか」と通報があり、県が6月に調査を実施。「虐待ではなかった」との判断を下したが、2年前にも同じ内容の「通報」があり、改善を勧告していたにもかかわらず、十分な改善策が取られていなかったとのことで、兵庫県は、障害者へ丁寧に接するなど、従業者に適切な指導をするよう命じた、といったものであった。
大声が、全てが虐待に該当するとなるかどうかという点については、かなり微妙なのではないかと思われる。そこで、今回は大声に関して少々考えてみたいと思う。
まず最初に、大きな声とかなり似通っていると思われるものを思いつつくまま取り上げてみると、次のようなものがある。 〇罵声(ばせい)・・・大きな声で、口汚く、ののしる、といった意味。 〇歓声(かんせい)・・・喜びを抑えきれずに出る大きな声、といった意 味。 〇怒鳴る(どなる)・・・怒ったり、しかりつける際に出る大きな声、といった意味。 〇奇声(きせい)・・・その場にそぐわない、普段とは違う変な声、といった意味。 〇叫び声(さけびごえ)・・・感情が伴って発せられた大きな声、といった意味。 〇キンキン声・・・かん高く周囲に響きわたるような声。 〇号泣(ごうきゅう)・・・大きな声で泣く。 〇罵る(ののしる)・・・汚い言葉でわめきたてる。 まだまだ他にも、いろいろとあるだろう。
一方、障害者福祉事業所という現場においては、大声が出る場面とは次のようなものがあるのではなかろうか。 〇事業所を利用する利用者の方々(以下利用者と略)が、何らかの事情・背景のもとで混乱した状態となり、いわゆるパニック状態となる場面で出されるもの。 ※事情・・・大声を出さざる得なくなるまでの様々な理由や原因。 ※背景・・・大声を出すに至った背後(表にあらわれていない)にあるもの。 〇利用者間、利用者・支援者間、あるいは支援者間(上司・部下間も含む)での感情的な衝突が引き起こされた場合。 〇具体的な危険な状態を避けるため、あるいは注意を向けてもらうため、支援者が利用者に対して発する場合。 その他にもいろいろとあるだろうし、事業所によってもかなりの違いはあるものの、大きな声が出る、ということは稀ではない、ところはあるのではないか。
一方、障害者虐待防止法において大声に関係する条文としては、次のようなものがある。 第2条の7 この法律において「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待」とは、障害者福祉施設従事者等が、当該障害者福祉施設に入所し、その他当該障害者福祉施設を利用する障害者又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける障害者について行う次のいずれかに該当する行為をいう。(一、二、四は略) 三 障害者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応又は不当な差別的言動その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
第2条の7の三においては、いわゆる心理的虐待に位置付けられているものであり、一般的には「怒鳴る、ののしる、悪口を言う、仲間に入れない、子ども扱いする、無視をする」といったものが具体的な例と示されていることが多い。
大声との関連からすると、「怒鳴る、罵る」といったものが該当すると考えられるので、上記報道された「職員が大声」とは、この「怒鳴る、罵る」に該当するのではないかとのことで通報があったと思われる。ただ、どの程度利用者の立場にたちながら調査したのかは分からないが、「著しい」状態としての具体的証言等が得られず、県は「虐待」認定ができなった、しかし、支援者の支援方法に不十分な点が認められるので、会社に対して「業務改善命令」を出した、ということだろう。
残念ながら、「業務改善命令」の内容を知ることはできないので、何ともいいようはないのだが、今のグループホームで働く職員は、まとまな研修も受けられずに、働いている場合が多いのも事実である。この点については、別の機会に検討してみたい。
以上、「記事」から少々考えたことを、まとめてみた。
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