【厩菓子】ビーフシチューパン
当然の成り行きだとおもう。厩舎菓子をはじめて、何年になるだろう。スタンダードプードルの華子が来た時にはもう数年やいていた。毎週、目を離した隙に制作途中のスイーツや惣菜を平らげられ、彼女とのバトルだったけれど、私がいるときは悪さをしないで粉を振るったり、ブレンダーを使っているのを黙ってじっと見ていたりしていた。先住犬の桃太郎は、くれないとわかるとすぐ興味を失うが、華子はずっとそばにいたから台所グループ=女性陣みたいな共同戦線的な一体感があった。まぁ、しかし、彼女は自分がだんだんと大きくなり、いずれキッチンのシンクにも簡単に手がとどくようになることを察知していて、そのために日頃からハウスキーパーの私と仲良くしていたのかもしれないが。なんて、捻くれているんだろう。反省して態度を改めても、良くなったねと擦り寄ってくれる大きなグレイの体はないけど。
華子の話をもちだしたら、前書きが長くなってしまった。つまり、昨年あの子が亡くなった時にすでに2〜3年週一回、厩舎への差し入れのお菓子を焼くようになったから、もうだいぶ研鑽を重ねてきたわけである。近頃は既存のレシピではなく、作りたいもののためにレシピを考えるようになった。とはいってもあっちのいいところとこっちの美味しいところをキリハリするという方法だが大体うまくいっている。
それで当然の成り行きと冒頭で言ったことだが、初めて惣菜パンを焼いたのだ。粉物が好きで、小麦は特にすき。パンにしたとき、油分の加減でやわらかかったり、かたかったっり目的にあわせて調整するのは難しいとおもっている。今日のパンはシチューという水分と油分が多めの具を入れるから、フランスパンのように水分が少なめで外側はハードパンらしい硬さが欲しかった。それでデニッシュにするときのように1.5割程度の薄力粉を加え、バターは極少量で練り上げた。
一次発酵させた生地は等分に分け、用意しておいたビーフシチューをいれて二次発酵させる。生地は丸めた中心を❌印にハサミをいれポケットに注ぐ感じで肉・にんじん・きのこをいれる。ずいぶん小さいから心配したが、40度のオーブンに半時間ほどいれておいたら二倍の大きさにふくらみ、最初に切れ目をいれたおかげでポケットは塞がることなく火山の火口みたいに膨らんでくれた。二次発酵の時点で具を入れておくというのは目から鱗で、特筆すべき点。今後のために忘れないように。
それから10年以上使っているオーブンは設定温度に到達しないことがおおい。だからまずは設定温度を10度あげて予熱すること。生焼けを心配して長く焼くのではなく、設定を上げるというのも落鱗のひとつ。
先週のピスタチオのパンでは、表面に塗ったのはドリュー、卵と水と塩を混ぜたものだったが、今回はコッコナッツオイル。違いは確かにあった。ドリューだと柔らかい仕上がりになるところ、植物油などオイルだと色づくうえに素焼き感がでる。今回のようなパリッと感が欲しい焼き上がりには、オイルが向いている。
とうとう、惣菜パンに手を出すようになったか。こんな言い方をしているけれど、実はすごく嬉しいのである。春に一度ジャガイモは収穫期を迎えた後、これからもういちど収穫期がくる。10月?11月?その頃になると、白や紫や、ほっくりやねっとりや、黄色いのや長いの、まん丸いの、そんなのが大小とれる。うそだ。大が1、小が9ぐらい。その小さいのは、新鮮だけど皮を剥くのは難しそうな大きさ。そういうのは、洗ってまとめて素揚げにする。それに、ピンクソルトだの、トリュフ塩、藻塩なぞ、いろいろかけてただいただく。その美味しさたるや。庭があってよかったと思わずにはいられない。
そんな子芋を、ツナやコーンやマヨネーズと一緒にパンに入れて焼いたら美味しいだろう。去年は、半分を華子に喰われてしまった。今年は、喰う子がいないけど、惣菜パンが作れるようになったから作ってみたいと思う。
うちに来るのが早過ぎたんだと、思う。きっとまた会えると、思う。
惣菜パンがやけるようになったら、当然の成り行きで、華子を思い出し、すこし寂しくなった。八月三十一日。
これは自信あり。完売間違いなし。
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