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【読書感想文】 ビッグ・クエスチョン  スティーブン・ホーキング著

 私事だけど2023、24は自己啓発の年だった。齢60にして一回りして手にすべき札は全部そろったはずなのに、どうもまだ足りない気がした。知っていることではまだ処せないことが多すぎる。新しいこと?いやいや、それより見えてることの180度視点を変えてみる必要があった。

 少し前から坐禅をやっていた。曹洞宗のお寺に伺って月一回のペースで座らせていただいてた。曹洞宗の福井の本山には外国の方が多くいらして、昔からそうやって哲学としての仏教は西欧の人にも広がっていったことは知っていた。
 ’23と’24は量子力学を謳い文句に引き寄せの法則が説かれることが多くよく目にしていた。その中に仏教哲学的思想が西洋科学と結びついたと思しき解説を目にし、私は日本の仏教哲学がそうした異端的な西欧人によって自国に持ち帰られ、物質的に研究されて今の引き寄せの法則とかに結びついたんだろうと思い込んでいた。

 この本は2018年に亡くなったイギリス・ケンブリッジの物理学者、スティーブン・ホーキングが書いた本で、翻訳本は2019年3月に初版が出た。物理の法則や数式について詳しくなくても、それらを駆使して物理学者が見ているこの物理世界について端的に説明している。というか、一文たりとも、その結論に達する経緯を説明するものはなく、物理学的視点から見たこの世界の成り立ちを語っているのである。全てがエッセンス。

 アインシュタインやファインマンといった有名物理学者の名前がポンポン出てくるなか、彼らが数字の向こう側に見ていたのは近視眼的なものの動きではなく、机上に開いた錐の穴から全世界を飲み込むほどの黒い闇の存在だったのではと気付かされる。突き止めればするりと逃げ、そこにあるべきものの欠如、動かないと信じた前提・地面はぐらりと動き始める。その時、やはり神はいないのかもしれないと思い、神と名づけた対象は『人智の力の及ばない大きな法則』であり、一人一人の人間の事情にきめ細やかに対応する存在ではないとわかった。

 科学と物理と哲学と宗教が、同じテーブルで同じ根拠で話せる時代が来たんだなと思った。物理をやる人の多くが哲学にも造詣が深い。アニメ『チ。』は天動説から始まる宗教的迫害を扱ってる。グーテンベルクも、20代のフランクフルトの空の下でその像を見かけた時にはわからなかったが、大量に印刷できることは限られた人たちが大事にしていた聖書が大衆にも届くようになり、宗教の広がりに拍車をかけることになったと知る。それによって当然信じるもの、信じないもの、それを利用する者、される者の対立を生む。印刷を広めた偉人、といっては居れない側面も知る。

 どうして『2001年宇宙の旅』は難解なのかわかった。
 そういう感じの感想だ。
 また付箋だらけになった。

 次の10の質問に答える形で構成されている。

 1神は存在するのか
 2宇宙はどのように始まったか
 3宇宙には人間の他にも知的生命が存在するのか
 4未来を予言することはできるのか
 5ブラックホールの内部には何があるのか
 6タイムトラベルは可能なのか
 7人間は地球で生きてゆくべきなのか
 8宇宙に植民地を建設するべきなのか
 9人工知能は人間より賢くなるのか
10より良い未来のために何ができるのか

 原書の初版は亡くなった年に出版された。2019年に手にしたときは正直面白い内容なのがわかるが興味はわかなかった。この6年間にあったことが見方を変えて、私にとっては洞察に溢れた本になった。

 きっと同じように感じる人もいると思う。

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