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今日はワッフル。

今日は何を焼こうかな。
毎週、水曜になると、頭の中に冷蔵庫を描く。
今年の春に収穫したそらまめが、まだあ冷凍庫の奥にねむっている。
たくさん獲れたのを茹でて冷凍し大事に保存しているのだ。
この空豆ではいろいろつくった。パスタ、ポタージュ、素揚げ。
アスパラに似たフンと鼻に抜けるかおりがいい。

アスパラもあったっけ。
初夏になる前、北の知り合いから山ほど送られてきた新鮮なやつ。
たあっぷりいただいた後、数本をそのまま冷凍したっけ。

使いかけのチーズもまだ眠っているはず。
そいつらを叩き起こして、ワッフル生地に焼き込んだらどうかな。

生地は、リエージュ風とかベルギー風とか、いろいろあるけど
私は強力粉とイーストで焼くのが好き。
普通のパンとくらべて、バターや卵の配分が多いのが特徴。
そして意外にも、砂糖がすくない。

パールシュガーという、小石ほどの砂糖の塊をいれて焼くから、らしい。
それならおかずのワッフルにしたらどうだろう。
甘さのある生地に、ベーコンやアスパラ、空豆、チーズをいれてやいたら、
あましょっぱくて、いいんじゃないかな。

あさ四時。
昨日の台風が通り過ぎたら、庭に秋がきていた。
夏のまま、目は早く覚めるけど、薄寒い手先足先。
誰もいない我が家の、キッチンが目覚め始める。
白いスケールをだして、ボールを置く。

いつも変化球ではじまる水曜の朝。
寝床の中で、うつらうつら。白河夜船の艫から白い足をおろす。
今日は焼く日。パンを焼く日、菓子を焼く日、
なんでもいいから焼いちゃえ。
と、へそ曲がりの虫が思いついたのが、ワッフルだった。

パールシュガーを少し。
キャラメルキューブを少し。
メープルキューブも少し。
それから枝付きのレーズンを外して、ラムに漬けよう。

足先にしろいいぬが挨拶にくる。
だんだん、だんだん、眠りの水から洗った足が、
やわらかい地上に着地する。

このままずっと眠って入れられればいいのに。
そう訴える私の2号。
2号は最近、潜在から昇格した。
1号が過去の記憶を引っ張り出す。
焦げたバターの香り。
キャラメルになったシュガーの甘さ。
パリパリと口の中で暴れる砂糖。

ほらほらおいしいよ。たのしいよ。
1号が2号の機嫌を取る。
ねていたら、死んでるのと、同じでしょ。
死ぬのは、死ぬ時にまかせて、いまは焼きましょ。

頭のなかであの白くて長い箱をひらいて、
眠っていた食材を発見して、
甘いのと、
しょっぱいのと、
両方のワッフルのことを考えて、
味見できたところで、
「しかたないな」と
半身起こす。

裸足のまま、台所をわたりあるく。
絨毯からキッチンマットにたどり着いて、
ほっとため息。

冷蔵庫を開ける。
あらまー、想定外の古物をみつける。
それをこっそり外の箱へ。
それ以外は、想定通りの顔ぶれ、
想定通りのラインアップでお出迎え。
その顔が出番を待っていたみたいに見える。

幸せだなって、思う。
冷蔵庫あけるだけで、パンが焼ける。
ガレットが焼ける。
クッキーだって、
パイも焼ける。
冷蔵庫を手なづけると、いつも幸せだ。
今日の気だるさには
ワッフルがいい。

そんな秋の始まりの朝。
ワッフル焼きます。

 

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