おしり拭きに含まれるプロピレングリコール (PG) の有害性
エビデンスを求めて三千里、着太郎 (@192study) です。
Twitter でおしり拭きによく含まれているプロピレングリコール(PG)という成分に有害性があるとするページを紹介いただいたので、この機会に情報を整理しました。
プロピレングリコール(PG)とは何か
そもそもプロピレングリコール (propylene glycol; PG) とは何でしょうか。
溶剤,不凍液,殺菌剤としても用いられる。可塑剤やポリエステル樹脂の原料に使われ,医薬として水性膏剤,水に難溶の物質の注射用溶剤に用いられる。
溶剤,または溶剤の補助剤で,食品,医薬品,化粧品などの添加物として使われる.麺類などの品質保持剤として利用する場合もある.
辞書によって書いてあることが割とばらばらで、かなり幅広い用途があることが伺えます。
化粧品に配合される場合は、
・皮表の柔軟化および水分量増加による保湿作用
・グラム陰性菌の一種である大腸菌の抗菌による製品安定化剤
・色素および香料の溶剤
・石鹸の透明化
これらの目的で、スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品、洗浄製品、ヘアケア製品、染毛剤&カラー剤、洗顔料&洗顔石鹸、ネイル製品、香水など様々な製品に使用されます(文献1:2016;文献7:1993;文献8:1999)。
化粧品では主に保湿、抗菌、溶剤、透明化の目的で使用されるようです。
プロピレングリコールの使用量は、プロピレングリコールとして、生めん及びいかくん製品にあってはその2.0%以下、ギョウザ、シュウマイ、春巻及びワンタンの皮にあってはその1.2%以下、その他の食品にあってはその0.60%以下でなければならない
食品衛生法7条1項及び10条の規定に基づく厚生労働省の告示である「食品、添加物等の規格基準」の「第2 添加物」では上記のような規定があります。(食品衛生法第21条の規定に基づき作成された「第9版食品添加物公定書」の「F 使用基準」にも同一の内容が記載されています。)
PG は割と一般的な食べ物にも含まれているようで、半生麺が常温で長期間保つのもこれのおかげのようですね。
他にもチューインガムに軟化剤として添加されているようで、ガムに含まれる PG の測定法の調査報告なども見つかりました。
プロピレングリコール(PG)は皮膚を通して蓄積される!?
このサイトでは、PG は有害であるとして以下のような主張が記載されています。
実はPGというのは、人の体に良くない影響を与えるとされています。具体的には皮膚炎、赤血球の減少、心臓や脳や肝臓や腎臓への障害起因、発がん性などなど。それはもう、実に幅広くあらゆる危険性をはらんでいるのです。そしてPGの怖いところは、皮膚を通して体内に蓄積されるという点です。
「皮膚炎、赤血球の減少、心臓や脳や肝臓や腎臓への障害起因、発がん性」という記述は後ほど検証することとして、最後の「皮膚を通して体内に蓄積される」というのはマルチ商法で有名なモデーア(旧ニューウエイズ)などで利用されるいわゆる経皮毒の考え方で、これは残念ながら学術的根拠に欠くものです。
「経皮毒」を用いて語られる内容は,「経皮毒性」に関して行われてきた数多くの研究成果は全く反映されていない.学術的研究として過去に行われてきた膨大な「経皮毒性」に関するデータや考察が完全に無視され,造語として登場して一部の連鎖販売の勧誘手段の中での殺し文句として独り歩きしてきたのが「経皮毒」である.
学術的には経皮吸収、皮膚浸透率、皮膚透過性などの用語が用いられるようですが、経皮吸収する物質量よりも経口摂取するものに含まれる物質量の方が圧倒的に多いのは明らかなので、おしり拭きに含まれる防腐剤の経皮吸収を気にするよりは、経口摂取する食品を注意した方がまだ実効性があるでしょう。
ちなみに、社会見学としてニューウエイズのセミナーに参加したことがありますが、経済産業省による業務停止命令後だったためか経皮毒というキーワード自体は使わずにプロピレングリコールは有害だと説明していました。
PG はドイツで禁止されている!?
ところで、PG について危険性を強調するためにドイツで禁止されているという主張を見かけることがあります。「プロピレングリコール ドイツ 禁止」で引っかかった2サイトを見てみましょう。
ドイツでは、プロピレングリコール(PG)・ラウリル硫酸Naは人体に有害な成分として認定されており、すでに使用が禁止になっています。
ドイツなどでは、日用品への使用が禁止されている発がん性物質です。
このような主張がされていますが、本当にドイツでは使用が禁止されているのでしょうか。
ドイツでおしり拭きを使っているお母さんのブログが見つかったので見てみましょう。
このおしりふきをいつも使っている理由があって…他のどのおしりふきの内容を見ても、だいたいプロピレングリコールが入ってるの…>_<…
子どもの大事な所を直接ふくおしりふき。
ビオ大国ドイツで、そこにプロピレングリコールが入ってるなんて初めは衝撃だった(T ^ T)
ドイツで奮闘されているこのお母さんも PG を忌避しているようですが、2016年3月時点で少なくとも「ドイツで禁止されている」ということはないようです。
実際にドイツで販売されている商品を確認すれば早いだろうということで、ドイツの Amazon のおしり拭きのベストセラーで2位の商品を確認してみたところ、先のブログの通り成分表示 (INGREDIENTS) に PG の記載(写真赤枠)がありましたので、「ドイツでは PG の使用は禁止されている」というのは完全にデマということで間違いなさそうです。(1位のパンパースは商品ページ内で成分が確認できなかったので2位の Mama Bear で確認)
恐らく何らかの実在の記述を根拠に禁止されていると勘違いしたものと思われるので、その根拠とした情報源が分かり次第更新できればと思います。一次情報をきちんと記載してくれればこういった面倒は起きないのですが…。
PG は FDA で健康上の問題が報告されている!?
最初のサイトにあった「皮膚炎、赤血球の減少、心臓や脳や肝臓や腎臓への障害起因、発がん性」という有害性の指摘ですが、根拠となる情報源が記載されていません。
そこで先ほどのサイトに同じような症状についての記載がありましたので見てみましょう。
アメリカFDA(日本の厚生省にあたる機関)は、皮膚炎、染色体異常、赤血球の減少、肝臓・腎臓・心臓・脳への障害を報告しています。
どうやらアメリカ食品医薬品局(FDA)が報告しているということのようですが、本当でしょうか。
FDAのデータベースを見ると
Database of Select Committee on GRAS Substances (SCOGS) Reviews
CFR - Code of Federal Regulations Title 21
Propylene Glycol (Inactive Ingredient) - Drugs.com
「プロピレングリコールはまた、化粧品に保湿剤として分散剤及び香料として使用される。
プロピレングリコールのための他の多くの食品や工業用途があります。
食品添加物として、プロピレングリコールは、米国食品医薬品局(FDA)によって一般的に安全とみなされている」
なんか逆のこと書いてね?
孫引きな上に原文を確認できていませんが、この方は FDA は逆のことを言っているとしています。
プロピレングリコール (PG) は急性毒性を持たない。経口 LD₅₀ の最低値は5種類の生物で18~23.9g/kgであり、皮膚 LD₅₀ は20.8g/kgと報告されている。PG は皮膚に対して基本的に刺激性を持たず、眼に対しては軽度の刺激性を持つ。多くの研究が PG は皮膚感作物質でないことを裏付けている。(中略)
1組の in vivo 試験(小核、優性致死、染色体異常)と in vitro 試験(細菌、哺乳動物細胞、培養)により明らかにされたところによれば、PG は遺伝子毒性物質ではなかった。PG をラットの飼料に添加して投与したとき(2.5g/kg体重/日で2年間)、または雌ラット(100%PG;総投与量は報告されていない;14ヶ月)またはマウス(マウスへの用量は約2g/kg体重/週と推定された;生涯)の皮膚に塗布したとき、検査したすべての組織で腫瘍の増加は認められなかった。これらのデータは PG に発がん性が無いことを裏付ける。
こちらの情報でも指摘されている有害性について概ね否定的なようです。
上記2サイトとも参照または引用元の論文の確認までは出来ていないため、時間が取れ次第確認してみたいと思います。
PG に皮膚刺激性はあるのか
試験データをみるかぎり、濃度に関わらずほとんど共通して皮膚刺激性なしと報告されているため、一般的に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
参照文献が明示されている割と信頼できそうな上記サイトでは、「一般的に皮膚刺激性はほとんどない」としています。
ただし、PGの皮膚刺激性は、同時に含まれる基剤成分の影響をうけるため、低濃度であっても刺激を示すこともあり、高濃度でも刺激しないこともあると報告されており(文献6:1984)、複数の基剤の混合物である化粧品などにおいてはまれに皮膚刺激が起こる可能性が考えられます。
同時に、他の成分によって PG の濃度にかかわらず刺激を示すことがあるともしていて、もし PG を使用している製品で刺激を感じる場合は、他の成分も確認する必要がありそうです。
調べてみるとネガティブな情報もポジティブな情報も不明瞭な情報が多すぎて思いのほか沼にハマってしまいました。引き続き調べながら更新して行ければと思います。
ただ、 PG がどの程度の有害性を示すのかは分かりませんが、刺激を感じない限りはおしり拭きのPGを気にするよりは食品の PG を気にする方が意味がありそうです。