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5〜11歳向けワクチン接種に関するエビデンス
エビデンスを求めて三千里、着太郎(@192study)です。
5歳~11歳向けファイザー製ワクチン接種が1月21日に承認され、3月1日に自治体から5歳~11歳向けワクチン接種の接種券を発送したとの連絡が来ました。判断に逡巡しないように関連データを調べることにしました。
投げ銭に100円を設定してありますが、無料で全て読むことができます。
個人的な要約
データから読み解くのが面倒な方向けの、個人的な理解・解釈を元にした要約です。できるだけ自分でデータを確認して判断してください。
ワクチンの有効性
2回接種後14〜82日経過(つまり初回接種後35〜103日後)の感染予防効果は31%くらい。
入院予防効果は70%くらいある可能性があるがデータ不足でまだはっきりしない。
他の世代より効果の低下が少し早い可能性がある。
ワクチンの副反応と有害事象
有害事象と副反応は若年世代でもっとも軽い。
心筋炎のリスクは12〜17歳に比べて相対的にかなり低い。
5〜11歳に特異的な副反応の報告はない。
ワクチンの有効性
アメリカ疾病予防管理センター(CDC) MMWR (2022-03-11)
5~11歳の2回接種児において、2回目接種後14~82日のあらゆる症状および無症状のオミクロン感染に対するワクチンの有効性は、社会人口学的特性、健康情報、社会接触回数、マスクの使用、場所、地域のウイルスの流行を調整すると31% (95% CI = 9%~48%) であった。
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MMWR Morb Mortal Wkly Rep. ePub: 11 March 2022.
DOI: http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm7111e1
ワクチン接種者186名 (5~11歳の小児174名[93%]、12~15歳の青年13名[7%]) のうち、37.6%が無症状であった。
症状を報告した者は1.4日寝込んでおり、ワクチン接種者の傾向で調整した後、非接種者の報告 (95%CI = -1.1~-0.1) を0.6日少なくしていた。
逆に、ワクチン接種者は学校を26.2時間欠席しており、ワクチン未接種の参加者の報告よりも調整後の平均で11時間多かった (95%CI=4.6~17.6)。
全体として、医療機関への受診はワクチン未接種者の16.4%とワクチン接種者の15.5%で報告されており、有意差はなかった。
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アメリカ疾病予防管理センター(CDC) MMWR (2022-03-01)
5〜11歳のワクチン2回接種後14〜67日経過の救急外来受診予防のワクチン有効性は51%、入院予防効果は74%。
他の世代も同様だがオミクロン株ではデルタ株の半分程度の有効性になるようだ。
なお、51%は発症予防率ではなく外来受診予防率であり、また他の年代の14-149日経過のデータと比べ期間が短く信頼区間(CI)も幅が広い。
また、入院予防率の74%もサンプル数が少なく、信頼区間の幅がマイナス値に及んでいて広すぎるため、今後のアップデートが望まれる。
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MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2022;71:352–358.
DOI: http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm7109e3
イスラエル (2022-02-02)
グラフを目視で単純計算すると5〜11歳における2回接種後1〜2ヶ月経過時のワクチンの有効率は46%程度で、前述のCDCのデータに近い。入院予防効果の記載はない。
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Vaccine for Children Presentation
Dr. Sharon Elroy-Price gave this presentation at the Knesset 2.2.22 (Hebrew only)
ニューヨーク州保健局 MedRxiv (2022-02-28)
ワクチンの有効性が1ヶ月で12%まで下がったとした査読前論文(プレプリント)。交絡因子の考慮がなく、他の年代と比べて有効性が落ちる速度が早いかもしれない、という意味で参考程度と受け取った方がよさそう。
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Effectiveness of the BNT162b2 vaccine among children 5-11 and 12-17 years in New York after the Emergence of the Omicron Variant
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Effectiveness of the BNT162b2 vaccine among children 5-11 and 12-17 years in New York after the Emergence of the Omicron Variant
Figure 2 の注釈で「後の時点で観察された負のVE値(ワクチンの有効性)は、ワクチン接種者の真の相対的なリスク増加とは異なり、推定量の不安定さおよび/または残留交絡を反映していると考えられる。」と記載があり、VEが35日以降で-10%/-41%となっているのは実際に感染しやすくなっていることを示している訳ではないと自ら指摘している。
救急医Taka (@mph_for_doctors) さんのこちらのスレッドの解説が参考になる。
5-11歳のワクチン効果について色々盛り上がっているようなので、本腰を入れて解説します。
— 手を洗う救急医Taka「みんなで知ろう! 新型コロナワクチンとHPVワクチンの大切な話」2刷決定 (@mph_for_doctors) March 2, 2022
まずは結論から
・5-11歳に対するワクチン効果は低いが、1ヶ月で0%になるとは考えにくい
・ワクチン効果が負になっているのは解析の妥当性に問題あり
そもそも未査読論文に引っ張られ過ぎだと思いますね。
副反応・有害事象
ワクチンの副反応はいずれも他の若年世代と比較して最も低く、他の世代と同様に2回目の方が相対的に多い。5〜11歳で特異的に高い有害事象および副反応はない模様。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC) MMWR (2021-12-31)
テキストメッセージとWeb調査により接種後有害事象を報告する v-safe℠ に報告された総数とその内訳。
ただし、当該期間の対象者のワクチン接種の総数は870万回。あくまで有害事象(ワクチンが原因の副反応かは定かでない)の自主的な(何もなければわざわざ報告しない)報告における比率に過ぎないので、あくまで参考程度に受け取った方がよさそう。自主的な有害事象報告数を母数として見当違いな人数を計算している場合があるので要注意。
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新型コロナワクチン情報まとめ - Yahoo!ニュース
データの出典はCDC MMWR COVID-19 Vaccine Safety in Children Aged 5–11 Years — United States, November 3–December 19, 2021
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ファイザー社 (2021-11-02) / NEJM (2021-11-09)
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日本感染症学会 「COVID-19 ワクチンに関する提言(第4版)」24ページ
"Evaluation of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Children 5 to 11 Years of Age", N Engl J Med (IF: 91.25; Q1) . 2022 Jan 6;386(1):35-46. doi: 10.1056/NEJMoa2116298. Epub 2021 Nov 9.
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心筋炎
心筋炎の発症リスクは、1回目では報告されず、2回目で12-15歳および16-17歳と比べて男児で6.1〜9.4%(10分の1)、元々低い女児で28.6%〜52.6%(2分の1)と極めて低い。
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"COVID-19 vaccine safety updates: Primary series in children and adolescents ages 5–11 and 12–15 years, and booster doses in adolescents ages 16–24 years", 13ページ
Advisory Committee on Immunization Practices January 5, 2022
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資料1-1-1 副反応疑い報告の状況について 11ページ
感染リスク
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04【資料2】鈴木委員提出資料 4ページ
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04【資料2】鈴木委員提出資料 6ページ
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03【資料1】鈴木委員提出資料 4ページ
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04【資料2】鈴木委員提出資料 9ページ
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03【資料1】鈴木委員提出資料 6ページ
インフルエンザとの比較
コロナ禍以前のインフルエンザの入院率と比較して「インフルエンザよりリスクが低い」と誤ったリスク評価がなされることがあるが、あくまで感染対策が行われていない状況の数値に過ぎない。
コロナ禍では社会的に感染対策が徹底された結果、インフルエンザ感染症での入院報告数は激減している。
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国立感染症研究所 厚生労働省結核感染症課 令和3年12月10日
なお、新型コロナウイルスによる入院数は、「データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-」の「入院治療等を要する者等推移」のオープンデータによると、2021/2/24-2022/3/1 の期間における「入院治療等を要する者」の10歳未満の人数が28人(男17人、女11人)、10代は11人(男8人、女3人)となっている。
デルタ株以降、20歳未満での入院数が増加している。
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データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-
学会声明
日本小児科学会
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日本感染症学会
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