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若木民喜『結婚するって、本当ですか』第1巻レビュー

結婚するって、本当ですか』は『神のみぞ知るセカイ』の若木民喜による最新作です。一昨日8月7日に単行本の第1巻が発売されたことを知り、第1話を試し読みしてみたら結構よかったので買っちゃいました。

(※以下、ネタバレあり)
物語はある旅行代理店の企画部で働いている大原拓也本城寺莉香という2人の男女を中心に展開されていきます。2人はどちらも人付き合いが苦手で、1人で過ごすことを好むタイプ。ある日、会社からシベリアの街に支店を新設することが通達されます。どうやらその支店には独身者が優先的に派遣されるらしく、現在の生活が脅かされることを懸念した莉香は、同じ危機感を抱き、会社を辞めることまで考えていた拓也に、偽装結婚をしないかと提案するのでした。

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若木民喜『結婚するって、本当ですか』第1巻より。©若木民喜/小学館

読み終えてまず浮かんだのは、2人のキャラクターがある事情から恋人や夫婦のふりをすることになる、という設定自体は珍しくないのですが、それを人付き合いが苦手なキャラたちにやらせるのがいいなという感想でした。僕自身、人付き合いがすごく苦手なのでわかるなぁと思いながら読めたんですよね。

たとえば莉香にフォーカスが当たる第4話。2人のなれそめを捏造するため、彼女はお台場へ取材に行くことになります(なれそめなんて適当にでっちあげればいいのに、真面目ですよね)。
このエピソードで個人的に刺さった場面は、莉香がお台場でデートのシミュレーションをしようとするくだり。デートスポットっぽい飲食店?に来た彼女は、自分の記憶と拓也に書いてもらったプロフィールを手がかりに彼の姿をイメージしようとします。しかし出てきたのはなにやらヘボい姿の拓也的な何か。

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若木民喜『結婚するって、本当ですか』第1巻より。©若木民喜/小学館

そして次のような独白が続きます。

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なんてことなの… 大原君の顔を思い出せない。
2年も向かいの席で仕事してたのに…
どんな顔だったか… どんな声だったか… はっきり覚えていない…
自分がいかに雑に生きているか、
他人に関心がないか、
一瞬でつまびらかにされてしまった。
26歳にもなってなんていいかげんな人間なの。

若木民喜『結婚するって、本当ですか』第1巻より。©若木民喜/小学館

とくに「いかに雑に生きているか」という表現にグサりとやられました。なんで刺さったのかうまく説明できないのですが、おそらく自分自身にもこの“雑に生きている”という感覚があるからなのかなと思います。うーん、ぼやっとした言い方になってしまっている(笑) うまい説明が思いついたら後で書き足しておきます。
ついでに言っておくと、独白直前のくだりも好きです。セリフなしで、莉香の表情や周りの風景を通して彼女の気持ちが表現されているのがいいなぁと。

あと、個人的には、この莉香がめっちゃタイプなのもこの作品のお気に入りポイントです。外見についていえば黒髪ショートカットなのと、目がちょっと眠そうなのがいい。会社ではそんなに表情が動かなくてクール系な感じなのに、プライベートでは無邪気な笑顔を浮かべていたり、ちょっと子供っぽいところがあったりするところにもグッときました。第3話の酔った姿も可愛かった。

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若木民喜『結婚するって、本当ですか』第1巻より。©若木民喜/小学館

今のところ、2人はお互いに対してめちゃくちゃ遠慮していて、それゆえにすれ違っているなという印象です。相手に申し訳ないなとか、迷惑かけたなとか、そんなことばかり考えているけど、相手は案外互いが思い悩んでいることについて気にしていなかったり。そんな不器用な2人の関係性がこれからどう変化していくのか、楽しみです。個人的には――距離が縮まらないと発生しないイベントだと思うのですが――とりあえず喧嘩してほしいですね。『めぞん一刻』のオタクなので。

■備考
最近、ほかにも海野つなみの『逃げるは恥だが役に立つ』、村田沙耶香の『コンビニ人間』を読んだので、また偽装結婚ネタだなと思いながら読んでいました。なんとなくどの作品のキャラクターも感情が希薄or表に出てこなかったり、理詰めで物事を考えてそうだったりするところが似ている…何故なのでしょう…。

最後にネットサーフィンしてたら見つけた『結婚するって、本当ですか』特集記事を貼っておきます。若木さんと『ハヤテのごとく!』の作者である畑健二郎の対談。今度アニメ化する畑さんの『トニカクカワイイ』も結婚した男女のお話ということで実現した企画っぽいです。『結婚するって、本当ですか』の特集ではあるのですが、互いのラブコメ観について語り合っていてとても面白かったです。


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