本当に心から幸せ?−−『付き合ってあげてもいいかな』4巻レビュー
『付き合ってあげてもいいかな』は、2018年より小学館の漫画配信サイト「裏サンデー」とスマートフォン向け漫画アプリ「マンガワン」で連載されている作品。犬塚みわと猿渡冴子という2人の大学生の恋愛を主軸に描いています。通称は『付きかな』。
実は以前からこの作品が好きで、最新話は追ってないのですが、単行本はだいたい発売日に買って即日読んでいます。個人的にはポップで綺麗な画面と生々しい心理描写、リアルなセリフ回しが魅力。それからいい意味でドラマチックでないところが好きですね。本記事ではそんな『付きかな』最新4巻の感想を書きました(※以下、ネタバレあり)。
4巻は想いを寄せていた高校時代の先輩・志帆に再会したみわが、彼女から思わぬアプローチを受けて戸惑うところから始まります。これがきっかけで高校の頃に志帆に抱いていた気持ちが蘇ってしまったみわは、そんな自分の心を否定しつつも払拭しきれず、冴子に対する罪悪感からどうしてもやりとりがぎこちなくなる。一方の冴子は冴子で、みわの本音をなんとなく察しつつも触れられず、嘘や誤魔化しを繰り返してしまいます。
お互いに気まずくなってしまった2人。このままではいけないと、結局みわは冴子に志帆先輩への気持ちを打ち明けることに。それでもこの関係を続けたいという彼女を、冴子はもやっとしつつも許します。
しかし、これで一件落着…とはいかないのが『付きかな』らしいところ。この場面の少し前あたりから、みわは自分自身に「自分は幸せだ」と言い聞かせるようになります。こんな自分を許してくれて、優しくしてくれた…そんな冴子と付き合うことができている自分は幸せ者。そんな風に思い込もうとする。いや、おそらくその思いも一面では真実だったのでしょう。
ただ、それでもみわとしては冴子より志帆先輩に惹かれる気持ちが強かったのだと思います。それを見抜いていた冴子はある日、彼女の取り繕った「幸せ」発言に耐えられなくなり、別れ話を切り出すことに。後日、志帆先輩への気持ちと冴子と別れたくない気持ちの両方を抱え憂鬱になっていたみわは、雑踏で誰か(おそらくバイト先の後輩・優梨愛?)といる冴子の姿を見かけます。冴子がそのとき浮かべていた表情は、みわといるときには見せなくなっていた屈託のない笑顔。それを目の当たりにしてしまったみわは、別れることを承諾するのでした。
…という風にざっくりあらすじをまとめていて思ったのですが、僕はあまりこの作品のいい読者じゃないかもしれないですね。というのは、どうしてもこの2人の恋愛模様が気になりすぎて、彼女たちの心の動きばかり追う読み方になってしまうというか…実際には2人でお出かけしていたり、学祭があったりと具体的なイベントがあったわけなのですが…。まぁいいか。
実は何度かTwitterでネタバレっぽいツイートを見てしまっていたので、もしかしたら4巻で2人は別れるんじゃないかなーとは予想していて。なのでそんなにショックは受けないかと思っていたのですが、相も変わらずたみふる先生の描写が生々しかったので、別れ話を切り出す場面では本当に天を仰ぎたくなりました。というか1巻冒頭のくだりをここに持ってきてんじゃねえよちくしょう…。そのほか印象的だったのはみわに別れ話を切り出した後の場面で、冴子が優梨愛と話していて泣いてしまうところでしょうか。まぁ「つらいシーン=いいシーン」みたいなところがあるので、僕が4巻で好きなのもこの場面なのですが…。
たみふる『付き合ってあげてもいいかな』4巻より。©︎たみふる/小学館
それから4巻を読んで改めて思ったのは、僕はみわより冴子の方が好きだなということでした。それはみわの浮気心が別れの原因になったからとか、冴子の方が可哀想だからということではなく、冴子がめんどくさいキャラだからです。1巻ではみわの方が周囲のキャラからめんどくさいと言われていたりするのですが、冴子の方が実は屈折の多い、難しい人なんじゃないかなと思うんですよね…。というか、みわのめんどくささと冴子のめんどくささは違って、僕は後者の方が好感が持てる、みたいな話になるんでしょうか。
抽象的な言い方になるのですが、みわは素直で善良なぶん、色々気が回らなかったり無自覚だったりするところが多くて。でも冴子はそういう、みわに見えないところが見えてしまって、そのぶん多く空回りしたり悩んだりしていると思うんです。いっぱい悩んでるから偉いわけではないけど…。とにかく個人的には冴子独特の空回り方や悩み方にすごく共感ができるし、その分「これからこのキャラクターはどうなっていくんだろう?」という興味を強く抱ける。あと話逸れるんですが、プリン髪やめた冴子めっちゃ可愛くないですか?
一方のみわに共感して切なくなってしまったのは、あらすじでも言及した雑踏で冴子を見かける場面でしょうか。はっきりそうかはわからないんですが、たぶんこのときまでみわにはかなりやり直したい気持ちがあったんじゃないかと思うんですよね。でも冴子の笑う姿を見てしまって、自分はこの人のことを不幸にしちゃってるんだ、じゃあもう別れるしかない、と感じたんだろうなと。この場面、最後はみわの後ろ姿しか描かれてないんですが、その背中がすごい寂しそうで。読みながら「うおお…」と1人で悶えてました。
たみふる『付き合ってあげてもいいかな』4巻より。©︎たみふる/小学館
それにしてもどうしてうまくいかなかったのか…みわが言うように、彼女が冴子のことをちゃんと見ていなかったからなのか。それとも冴子が言うように、彼女が自分の気持ちをさらけ出せなかったからなのか。それはよくわからないのですが、僕の方でそういうことをつらつら考えるよりは、この結果を2人がどんなふうに解釈して、それを踏まえ今後どんな風に生きていくのかを見届けたいという気持ちです。
とにかくのちの展開への伏線っぽいものがいくつか張られていたこともあって、5巻がすごい気になりますね。とくにいま一番興味があるのは(読者全員そうだと思うのですが)冴子とみわがよりを戻すのかどうか…ということ。いや、仮にそうなるとしても5巻ではないと思うのですが…。
それから3巻のキャラ描写が良かったので志帆先輩のことはかなり好きなのですが、4巻ではほとんど登場していなかったのが残念で。5巻ではもっと出番増えればいいなと思っています。みわと付き合ったりするのかなぁ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?