『明治乙女物語』執筆裏話③登場人物

森有礼

・近代教育制度の基礎を確立したとされる、初代内閣文部大臣。満41歳。
・高等師範学校の監督。
・女子教育を強力に推進。
・一橋大学の創立者(作中では女子教育に焦点を絞るため触れず)。

『明治乙女物語』のメインストーリーは、ほとんどこの人のパーソナリティが決めたようなもの。ある意味、森有礼に振り回された人たちの物語でもあります。

たまたま乗った人力車の車夫が老人や病人のとき、降りて一緒に歩いたというエピソードは、『森先生伝』に記されています。『森先生伝』は、森有礼の死後に彼のゆかりの人たちが著した回想録です。

思想的には非常にリベラルなようで、文部大臣としての施策は国家主義的。キャラがなかなかつかめなかったのですが、長谷川精一『森有礼における国民的主体の創出』を読んで、いろいろすっきりした気がします。

柿崎久蔵

・西洋人のような風貌をした、流しの人力車夫。年齢は20代後半。
・瞳の色は碧色がかった灰色。
・長身のイケメン。
・流しの人力車夫の互助組織「車仁会」に所属。

彼の父親は幕末史に登場する、ある人物。
その人物に子供がいたという説は本当にあります。彼の妻と子供というキャプションがつけられた、日本人女性と赤ん坊の写真が発見されています(キャプションは誤りだという反論もあり)。
その子供はどんな人生を歩んだのかという関心から、久蔵というキャラクターが生まれました。

なお、明治時代に人力車夫の組織は実在しており、その名も車会党(しゃかいとう)。
車仁会は頼母子講みたいな互助組織(沖縄でいえば模合)に近いものという設定ですが、車会党は政治結社です。

久蔵は第2作『明治銀座異変』(本作の5年前が舞台)にも登場するよ(^^)

高梨みね

・兵庫県姫路出身。主人公2人と同室の後輩。満16歳。
・おとなしい性格だが、たまに妙に率直な物言いをすることも。
・編み物が好き。
・同室のキンちゃんと仲良し。

編み物をするという習慣は、毛糸が輸入されるようになった明治時代からの新しいものです。実はハイカラな趣味です。
職員室に答案を出しにいくとき、男子部の生徒に注目されて恥ずかしかったというエピソードは、当時の女高師の生徒の回想にあったもの。

姫路出身という設定にしたのは、野口幽香の出身が姫路だったことからの思いつきです。新幹線から姫路城が見えるので、東京との距離感がわかりやすいと考えたためでもあります。みねの実家は姫路城が見える位置にあります。

尾澤キン

・広島県出身。主人公2人と同室の後輩。みねと同い年。
・社交的なお調子者。
・「てよだわ言葉」(よくってよ、のアレ)を使う。

現在ではお嬢様言葉の代名詞である「てよだわ言葉」ですが、流行りはじめた当時は「ギャル語」です。キンちゃんは今なら「わかりみー」とか「やばたにえん」とか言ってたはずです。
三宅花圃(みやけ・かほ)が言文一致体で書いた小説『藪の鶯(やぶのうぐいす)』には、「てよだわ言葉」で話す軽薄な女学生が登場します。
ちなみに、『藪の鶯』は樋口一葉が小説を書くきっかけになった作品としても有名です。

裏設定ですが、一人っ子なので、姉妹みたいな存在がたくさんいる女高師の生活が楽しくて仕方ないようです。


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