『明治乙女物語』執筆裏話①着想と時代背景
『明治乙女物語』は明治の鹿鳴館時代を舞台に、高等師範学校女子部に学ぶ生徒たちの友情と"戦い"を描いた物語です。
鹿鳴館時代といえば、鹿鳴館での舞踏会。
この舞踏会で踊り手が足りない時に師範学校の女生徒が招待されていた……という記述に出会ったことから、『明治乙女物語』の着想を得ました。
私が最初にこの旨の記述を読んだのは『千代田区女性史』でしたが、おそらくその典拠は近藤富枝『鹿鳴館貴婦人考』です。
『鹿鳴館貴婦人考』によれば、在学中に鹿鳴館で踊ったという証言を残したのは、宮野きんという女性。
鹿鳴館時代の高等師範学校に在学していた生徒です。
後で調べたら、卒業生の名簿にちゃんと名前がありました。
宮野きんさんに敬意を表して、登場人物の一人である「キンちゃん」という元気な女の子に、御名前を使わせていただきました。
鹿鳴館時代は5年弱の短い期間でしたが、この期間は自由民権運動の最盛期に重なります。秩父事件や加波山事件といった「激化事件(暴動)」も各地で起きていました。そんな時代背景も作品に盛り込んでいます。
女子教育を推進する文部大臣森有礼、事件の陰に見え隠れする西洋人のような風貌の人力車夫、そして、洋妾(らしゃめん)と呼ばれた女性たち。
さまざまな人々の運命が物語に絡んでいきます。