中山整容美粧研究所内 美粧院
近頃新たなクラブ化粧品が入手できず、何故か冊子に巡り合う機会が多いです。今回は先日神保町で見つけた、中山整容美粧研究所内の美粧院の冊子について取り上げていきます。
♣美粧院の冊子
この冊子には、中山文化研究所が運営していた「美粧院」の活動内容などが紹介されているとお思いになることでしょう。しかし、ページの大半は「お化粧の仕方」で占められており、肝心の「美粧院」については室内写真と簡単な案内程度で済まされています。
美粧院の利用者となるであろう読み手が知りたいのは、各パーラーの特色、詳細な施術内容、どのような技術師がいるのかという点ではないでしょうか。ところが何の前触れもなく「お化粧の仕方」の説明が始まるので、美粧院へ誘導するよりも化粧法指南とクラブ化粧品を勧めたいのか、ちょっと目的が不明確な内容に感じます。
冊子を追う前に、「整容美粧院研究所」や「美粧院」について『百花繚乱クラブコスメチックス百年史』を元に説明を補っておこうと思います。
♣整容美粧研究所とは
中山太陽堂創立20周年を祝す記念事業として「中山文化研究所」が設立計画されました。1929年『中山文化研究所紀要 第一冊』の冒頭で、中山太一氏が設立の意図を述べています。
「現代女性の精神生活の基本を確立、科学知識を理解することで生活の改善を図る」
真の精神生活と合理的な物質生活の融合によって、理想に近い生活を実現するべきである、というのが中山太一氏の考えであり提案でり、その普及のため、多数の学者や技師を招聘し研究に当たりした。設立翌年の1923年、大阪の堂島ビルヂング内、東京の丸の内ビルヂング内にて中山文化研究所開所式が催されました。
中山文化研究所の事業内容は多岐にわたり、個別に次のセクションを設け婦人の要望に応える形を取っていました。研究機関を「女性文化研究所」「整容美粧研究所」「児童教養研究所」「口腔衛生研究所」の4つに分け、著名な学識経験者を所長や顧問として招き活動していくという計画です。「整容美粧研究所」部門の一つである「美粧院」には、美容皮膚科診療部、美顔術室(BEAUTY PARLOR)、結髪室(HAIR DRESSING PARLOR)、着付室(DRESSING PARLOR)、美爪室(NAIL DRESSING PARLOR)が設けられていました。
♧整容美粧研究所の活動
♣美粧院の各サービス
♧美容皮膚科診療部
所長
医学博士 三内健治
美容皮膚科
(一)皮膚・毛髪・爪等の一般美容に関する諸疾患の診察並びに治療
(ニ)小児科皮膚科
一般小児の皮膚疾患に関する診察並びに治療
設備
電気療法科
X光線療法科
人工太陽燈療法科
雪状炭酸療法
ラヂウム療法科
診察時間
毎日午前八時半より午後二時まで
但し日曜祭日は休み
♧美顔術室・結髪室・着付室・美爪室
御婦人の為めに保健衛生を主としたる高尚優美なる文化的整容並びに美粧に関する業務一般。
営業目録
♦五十銭
マニキュアー
洗顔
美顔術
化粧
ウェーヴィング
面剃
束髪
♦一圓
日本髪
♦ニ圓乃至三圓
着付
♦五圓乃至七圓
婚礼御支度
♦十圓乃至十五圓
婚礼御支度(出張のとき)
営業時間
毎日午前八時三十分より午後五時まで
日曜祭日は午前中営業
但し第一第三日曜日、大祭日は休業
♧御徳用で便利な美粧券
進物用として高尚優美な回数券。
本券は一科目毎に一枚いただきます。但し日本髪のときは二枚着付のときは六枚其他の場合もこの割合でいただきます。
♦拾壹回数(十一枚一冊) 金五圓
♦貳拾參回券(ニ十三枚一冊) 金十圓
♧中山太陽堂小売部
大正13年より堂島ビル内で販売が始まり、特定品、堂級クラブ化粧品が扱われていました。
クラブ本店直営の販売店 最も新しい化粧品の販売店
主な販売品
♦クラブ洗い粉
♦クラブ白粉
♦クラブ化粧水
♦クラブ美身クリーム
♦クラブ乳液
♦クラブ頬紅
♦クラブ歯磨
♦クラブ歯刷子
♦カテイ石鹸
♦クラブ石鹸
♦クラブポマード
♦クラブ香油
♦プラトンインキ
♦プラトン鉛筆
♦プラトン万年筆
♦プラトンシャープ
♦婦人雑誌(女性)
♦婦人雑誌(苦楽)
♣お化粧の仕方
ここで指南しているお化粧の仕方は、既に紹介した『近代美粧』、『お化粧』、『クラブ堂級化粧品カタログ』と何ら変わりありません。それでも一応『美粧院』の冊子の紹介として化粧法も取り上げておきます。ちなみに今回は簡素化しておらず、ボールド部分も元のままです。
♧厚化粧の仕方
先づ第一に純良無比のカテイ石鹸又はクラブ石鹸で汚れをとり更にクラブ洗粉で顔から首筋をよくお洗ひになりまして、其上へクラブ美身クリームを塗って肌地を整へ、襟にはクラブ蕾をごく薄く引きクラブ固煉白粉をクラブ化粧水にてうすめ板刷毛にて塗り牡丹刷毛で延ばし水刷毛で均らし濡手拭(タオル)でソット押へて落附かせます。
お顔にはクラブ煉白粉を板刷毛で襟よりも少し薄い目に塗り水刷毛にてよく均します、次にクラブ頬紅を目の下から頬へかけて薄くお刷きになりますとホンノリ櫻色の健康食が出て宛然咲き誇る花の様に鮮麗な色艶となります。一層上品にお仕上げになりますにはクラブ粉白粉をセーム革につけてお顔に薄く打ちまして襟はポットにクラブ粉白粉を含ませてお刷きになりセーム革にて其上をかるくお打ちになります、尚眉の形を美しくするにはクラブ眉墨で軽くお描きになりますと上品で奥床しいお化粧が出来上がります。
♧薄化粧の仕方
カテイ石鹸又はクラブ石鹸をお使ひになり次にクラブ洗粉でお洗ひになりましてから皮膚を保護するためにクラブ化粧水又はクラブ美身クリームをおつけになりクラブ水白粉を襟から顔へ板刷毛で塗り、襟には今一度重ねてお塗りになってから水刷毛してガーゼで水分をとりまして其上にクラブはき白粉をお刷きになりますと瀟洒なお化粧が出来上がります。
♧顔の形を美しく見せるお化粧
クラブ洗粉で御洗顔がすみましたら(始めにカテイ石鹸又はクラブ石鹸でお肌を綺麗にして置くこと)クラブ化粧水をつけて、クラブ美身クリームを適宜掌にとり、よくよく均らして襟から顔へ、上へ上へとよく擦り込み、クラブ粉白粉をポットにつけて襟から顔へと隈なく打つやうにしてつけ、セーム革か掌でよくたたいて粉白粉のムラを取り、よく落ち着きました時にクラブ頬紅を刷き、額の廣いお方はクラブ緑色刷白粉を打ち、頬のこけたお方はクラブ肉色粉白粉を打って柔か味を添へ、また其反対に餘り顎の骨の高いお方はその上にクラブ緑色刷白粉を打ち、夫れ夫れの缺點を目立たぬやうにしましてから、最後にクラブ刷白粉をその上に刷いて手なりセーム革なりで押へますと、誠に温和な粧ひとなります。
♧五分間早化粧の仕方
落着いてお化粧をしてゐる暇がないと仰しやる方がありますが、夫等の方に極簡単に雜作なく出来る、五分間早化粧法と云ふのが御座います、これは先づ脱脂綿にクラブ乳液を濕して、顔と襟をよく拭き、充分脂垢をとってからクラブ化粧水を塗って、其上へクラブタルカンか、クラブ粉白粉をポットで刷付け、水刷毛をして白粉をムラなく延ばしてからガーゼで押へながら其水氣をとります。かうした後白粉の浮きを止める爲に今一度クラブ美身クリームを押へるやうにして塗り、更にクラブタルカンか、クラブ粉白粉を輕く刷きます、首の方はクラブ煉白粉を薄く溶いたのを板刷毛でぬります、此時顎の下へは幾分濃い目に塗るやうにして、塗り上がったら水刷毛してガーゼで押へ、水氣をとります、其上で耳朶と頬とへクラブ頬紅を薄くつけて仕上をしますと、美しい自然の向きが添へられて、何となく氣品の高いお化粧が出来るので御座います。
♧二分間早化粧の仕方
前よりも更に簡単な二分間早化粧法といふのも御座います、この方法は忙しい生活をなさる方などには、最も適當な簡易化粧法で、最初に脱脂綿一寸角位にクラブ乳液を含ませ、それで頸と顔をよく拭ひ脂垢をとります。そして更に長さ一尺五寸位のガーゼでよく拭ひ水分を取りましたら、クラブ白粉錠をポットで顔から襟へかけて刷き付けますと、手綺麗に上申なお化粧が出来上がります。一日の活動に汚れ切った醜い顔で御歸なさるよりも、ホンの二分間の時に割いて、この早化粧法を御實行になったならばいつもさっぱりとした心持であるばかりでなく身嗜みの上からも亦精神の上からも是非實行を願います。
♧お化粧崩れの直し方
汗や脂肪が浮いて參りましたら、クラブ紙白粉でソット押へて浮いた脂肪をとり化粧を整へること、若し鼻の上にムラが出来ましたらクラブ乳液を脱脂綿に含ませたので拭ひ取り、白粉の殘った際をクラブ化粧水をつけた脱脂綿で擦するやうにしてぼかして置き、クラブ水白粉をつけますか、又はクラブ美身クリームを指先で少し塗り、粉白粉をその上から刷きますと美しくなります、その時氣をつけねばなりませぬのは、白粉の繼ぎ目が重ならぬやうに、手際よくなさらねばなりませぬ。外出あそばす時には小さくて美しい本型のクラブ紙白粉か、調方で優美なクラブ粉白粉錠を帯の間にはさみ御持ちになればいつでもお化粧が綺麗に保たれます、夏は汗押へのクラブ天瓜粉か、クラブタルカンを打て置けば御安心で御座います。
♧皮膚の手當
♦脂性の皮膚の手當
皮膚に脂肪の多過ぎるのは、皮脂腺の分泌異常から來るものでありまして斯ういふお方は運動を適度にして、脂肪性の食餌を避けるやうにして每日朝夕カテイ石鹸又はクラブ石鹸でお洗ひになりクラブ化粧水かクラブ乳液を脱脂綿にたっぷり含ませたので顔を拭ひ、クラブタルカンを薄く襟から顔に刷き、よく手で押へて置いてから御化粧遊ばすのがよろしう御座います。
♦乾燥性の皮膚の手當
乾いた皮膚のお方は貧血の爲や、その循環の不完全の爲めに起るものですから全身の榮養をよくすると共に、お顔に温和なマッサージを與えて血行をよくさせ、且つ適當の榮養劑を與へねばなりませぬ、それにはクラブ洗粉を木綿の小さな袋に入れ、熱いお湯の中に浸して置き、それが微温湯になりました時に袋を絞り上げ、そのお湯で静かにお洗ひになり、クラブ美身クリームをよく擦り込みガーゼが柔らかい紙で拭ひ去ってからお化粧なさるがよろしう御座います。
♦夏日焦雀斑の治し方
日焦けは太陽の光線中の紫外線の作用によりまして皮膚下の色素に變化が生ずるために起ります、雀斑は皮膚に於ける色素が不規則に集まるために出來るので御座います、恁ういふ皮膚の變化を治しますにはクラブワイスが最も有効で御座います。それは皮膚を漂白する力があるからで、また毛孔の中の脂肪をとり、殺菌力を有して居るからです、又皮膚の色の黑いお方などにも最も適した白色美顔用の化粧料で御座います。これをご使用になります時は、カテイ石鹸又はクラブ石鹸でよくお顔をお洗ひになってから更にクラブ洗粉でお洗ひになりまして、此のクラブワイスを脱脂綿又はガーゼに浸して顔面に塗り(眉や生際につかぬよう)手の掌でよく擦り込み、それが乾いてから平常のお化粧を遊ばすので御座います。
尚外出の際クラブ美身クリームをお顔に塗けて御出でになれば決して日焦けの憂がありません。
♧毛髪の手入れ
手入の不行届や粗惡な油の使用の爲め毛髪が薄くなったり切れたり致します。毛髪も皮膚の一部で御座いますから、これを保護するには生理的療養の必要なことは申すまでもないことで御座いますが外部からも榮養を與へねばなりませぬ、それには一ヶ月に二度か少くとも二ヶ月に三度はカテイ石鹸又はクラブ石鹸かクラブ洗粉で御洗髪になりまして生乾きの時クラブキニーネ香水を頭へ振りかけ、乾かして植物性の純油クラブ香油を指で頭の地へすり込んでお髪上げをなさいますと、大層髪の發育を援けることになります。常に二日目或は三日目位にクラブ香油かクラブ美髪用ポマードをお塗りになって居れば、切れ毛や脱け毛を防ぎ毛の艶を增す素直な軟かなふさふさとした黑髮となって參ります。
♧手を美しくするには
手の美しいのは、その人の嗜みが見えて誠に床しいもので御座います。手は絶えず働かせられるものですから、汚れもし損みもし易う御座いますから、一層氣を附けなければなりませぬ。いつも手をカテイ石鹸又はクラブ石鹸若しくはクラブ洗粉でお洗ひになり、濕氣をよく拭き取ってから、クラブ化粧水をおつけになることをお忘れにならなければ何時も瑞々しい柔か味を保つことが出來ます。お寒い頃にはクラブ美身クリームかクラブ美身ゼリーをお擦り込みになって置けば、凍傷や皹、胼胝を豫防いたします。お暑い時節に汗が多くてお惱みになるお方は、汗押へのクラブ天瓜粉かクラブタルカンをすり込んでお置きになるのが一番で御座います。
♧美爪術マニキュアー
手と共に爪の手入れも又上品な嗜みの一つで御座います。爪を美しくするには先づ左から申しますと、のびた爪ならば適宜に鋏み、ヤスリで好みの形にすり、微温湯にクラブシャンプー液一ニ滴を落としたる中に浸け置き(右の爪を今の様になす間)爪ブラシにてよく洗ひ爪の柔かなうちにクラブお爪クリームを爪溝に塗て皮膚をやはらげメスにて爪廓の汚ない皮膚をはがしパンスにて其れを切り去りうすき過酸化水素水にて爪縁を綺麗になし爪廓を仕上げ半月形を鮮やかに表はし、仕上げのヤスリをかけ爪色の惡いお方に爪紅をさし、其れからクラブお爪磨粉をつけてポリシアにて軽く摩擦すればよい色艶が出ますから其上にクラブお爪化粧液をつけますと一層の光をそへます、最後にクラブお爪艶出液の少量を用いて爪及周圍の皮膚を柔かに摩擦すれば櫻貝の様なやさしい美しいお爪が出來上がります。
♠ちょっと愚痴を吐きます…
小冊子の画像に関することなので、ここで吐きたいと思います。
画像無断転載
それは6月初旬のことでした。
インスタを見ていると、ある画像に目が止まりました。あるユーザーが、私がnoteに掲載した『クラブ堂級化粧品カタログ』の画像を無断転載していると見受けられました。その画像と私の記事の画像を比較しても、印刷時の汚れやインクの濃さも全く同じで、酷似していたのです。しかも、その画像はトリミングされており、クレジット部分はカットされていました。
引用元も書かれておらず、文章の内容も私の記事から抜粋と思われる節がありました。
ということで、著作権侵害でインスタに通報した後、そのユーザーの投稿のコメント欄に、無断転載に関する内容及び、noteのURLを貼り付けました。
結果、投稿は削除されました。
そもそも引用元を記載すればいいのに、それすら怠るとはモラルが低い上に、他人を軽んじています。このような人は数多くいますし、ネット上における画像の無断転載は、いたちごっこだと分かっています。だからといって、画像を載せなければいいという発言は短絡的ですし、私はそう考えません。
小冊子の画像を載せる理由
小冊子を入手するたびに、内容を記事化するなんて不要なことですが、私なりの考えがあるので続けています。
結論から述べると、理由は二点の自己満足からです。
一つは、敬愛する中山太陽堂の活動について、小冊子を通して知ってもらえたら嬉しいということから。
二つ目は、小冊子を読みたい気持ちを抱いていたからです。大正ロマンや昭和モダンをテーマにした企画展などでは、化粧品会社の小冊子が展示されていることがあります。しかし、展示で読めるのはほんの一部分のみで、詳細な情報を入手するのは不可能です。さらに、小冊子を入手するのは化粧品を収集するより難しく、どこかで気軽に読むことも叶いません。なので、私と同じく化粧品収集をしている方の資料として、この記事が役立ったらいいなとの気持ちからです。
クラブ化粧品の小冊子に関する記事はこちらです。