第1章 序章 入院前日
平成31年1月28日 月曜日
とうとう、明日から狭心症で入院、手術を受ける前日になりました。
朝から、若干、不安が頭の中をよぎり始めていた。
天気も曇り空で、どんより鉛色をしており、午後から雨が降るようだ。
今の私の状態を反映しているように思われた。
私は、1カ月位前に、それ以前には、全く経験のない、胸の息苦しさと、頭痛に数回襲われた。
まるで、運動不足の時に、長距離を走った時のような、心臓の鼓動と、肩こりからくる、激しい頭痛に、似た症状に見舞われた。
何かの病気ではないかと、疑い始め、普段、糖尿病で通院している病院へ行き、心電図検査を受けた。
しかし、心電図には、異常はなく、先生に大丈夫と言われた。
異常が無いということが信じられず、その事をいつも行く、薬剤師の先生に話をした。
薬剤師の先生は、それは、心臓の負荷検査をしてみないと、わからないから、どこか、検査の出来る病院へ行かなくては駄目だと言われた。
初めて聞く検査名なので、詳しく聞いてみると、正式検査名は、トレッドミル検査と言い、体や心臓に、走った時のような負荷をかけて、その後に、心電図をとり、診断する方法だそうです。
今通っている病院では、検査できないので、別の病院へ行く必要があるとも言われた。
私は、その事を妹に相談した。
妹は以前、その検査を受けたことがあり、病院を知っていたのだ。
すぐに連絡先を聞き、予約を入れ、検査を受けに行った。
当初は、その症状が現れた時には、日ごろ運動不足だから、仕方がないと思っていたが、それが繰り返し起こるようになっていたので、心配になった。
戸惑いを感じながらも、病院の自動ドアを潜り抜けた。
地下鉄の駅からさほど遠くない所に、てらもと医院は在り、循環器内科と、糖尿病等の病院である。
てらもと医院は、結構年季の入った、建物の1階にあったが、人気がある病院らしく、多くの患者が待合コーナーで待っていた。
私は、受付を済まし、他の患者さんと同じように、順番を待ちました。
見ると、病院では、あまり見かけない、畳をひいた和室の様なスペースがあり、周囲を70~80cm位の柵で囲ってあった。
おそらく、小さな子供用に設けてある、スペースであろうと思った。
ここの院長は、子供たちがケガをしない為に、安全に遊べる空間を設けている、思いやりがある人のように思えた。
暫くすると、そんなに、広い待合コーナーではないのに、院長自らマイクを使って、大きな声で、診察の患者さんを呼び出した。
まさか、院長自ら患者さんを呼び出すとは。
普通は、どこの病院でも、看護婦さんが、患者さんを診察室へ案内するのにと、苦笑いを浮かべた。
ここの先生は、何でも自分でやらないと、気が済まない人であるとも感じた。
そうしている内に、私の名前が呼ばれた。
それは、看護婦さんからで、診察・トレッドミル検査の、事前検査を受ける為であった。
まず始めに、血液を採取され、血圧を測り、身長・体重を聞かれ、心電図をとった。
担当の、看護婦さんは、受付にいる若い人ではなく、ベテランの看護婦さんでした。
ベテランさんに、各種の検査をしてもらい、また、待合コーナーで待つように言われた。
次は、いよいよ、生まれて始めてのトレッドミル(負荷検査)である。
待合コーナーで待っていると、検査室から、機械音がしていた。
名前が呼ばれ、ついに、検査を受ける時がやってきのです。
検査室に案内されると、そこには、ルームランナーの様な機械が、準備されていた。
ゴーっと、音を立てていたのは、この機械の足を乗せる部分を、坂道に、似た状態に、機械の前部を上にあげていた音である。
院長先生が現れ、いよいよ検査の開始である。
私は、普通に歩いて、体に負荷を掛ければよいと思っていたが、とんでもなかった。
先生は、機械の速度をどんどん上げるように指示し、ベテラン看護婦さんが、実行した。
私は、普段、割とゆっくり歩くので、早歩きどころか、ランニングする位のスピードで走るように、声を掛けられた。
ついていけなくなりそうになると、ベテランさんが、私のお尻を手で支えて、さらに頑張るよう声を掛けてきた。
一体、何分この苦しさが続くのか、わからなく、限界だと思い始めていました。
そして、ついに、限界が来た。
先生に、もうダメですと言ったが、先生は、まだまだしっかり走って、と言って、許してはくれなかった。
看護婦さんもまだ、3分しか経っていませんと言って、走るのを止めさせてくれず、さらに頑張る様に、鞭を打たれた。
私は、胸が張り裂けそうになり、動悸も激しく、ゼイゼイ苦しく、呼吸もしずらくなっていた。
私は、この状態から、少しでも早く抜け出す為に、膝や腰が悪く、あまり歩けないことを、ベテランさんに言った。
その後、先生からのお許しが出て、やっと、この苦しみから解放され、心電図をとる場所に移動した。
息苦しく、動悸も激しいまま、心電図検査を受けてから、待合コーナーで呼吸が整うまで、待っていたら、10分後位に、先生得意の、スピーカー呼び出しをされた。
しかし、名前を間違わられ、最初は、誰だか判らなかった。
診察室へ入ると、先程はゆっくり見ることができなかった、院長先生の顔を間近で見られた。
先生は、白髪で、70歳代くらいで、小柄で、温和な感じながら、頑固の人の様で、まるで、岩山や洞窟にある石仏に似た人の様でした。 先生は、せっかちらしく「心電図、異常が出た」と一言、言った。
何の前触れもなく、言われたから、茫然とした。
とにかく、何か、体に異常があることは、判った。次に先生は、すぐに検査をしないといけないから、明日、名古屋ハートセンター(循環器内科の専門病院)へ行くように言われた。
私は、よく判らないまま、先生に返事をした。
先生は、私に、明日の予定を聞いてきた。
以前から、腰痛と変形性膝関節症で通っている、整形外科に行く予定がある旨を話した。
すると先生は一喝、「整形外科なんかに、行かなくても死にはしないから、キャンセルしなさい」と言われ、私は「はい」と返事をした。
そして、先生は、名古屋ハートセンターに、予約を入れてくれた。
翌日、精密検査を受ける為に、病院へ行き、検査を受けた。
その結果が、明日からの入院である。
今後、何があるか判らないが、運命に従うしかないと、思っている。
この後は、第1章 狭心症手術闘病記 につづく。