記憶の欠片の物語8
※書き下ろし
夕方修繕を頼んでいたあいつの破れたジャケットを受け取りにテーラーに行った。
「こちらでございます。サイズ確認いたしますので
試着室へどうぞ」
あんなにビリビリだったジャケットが綺麗にされていて肘のところにも肘当てまでつけてくれていた。
ボタンも全部取り替えられていて裏地も新しいものになっていてヨレっとしていたジャケットが見違えた。それにシャツ3枚も仕立てられていた。
(内緒で頼んでいたスーツやタキシードとかはまだだけど。)
「すごい…ジャケットが新品みたいになってる」
あいつは目が点になってた。
「それは嬉しいお言葉。ありがとうございます」
店主も嬉しそうだ。
あんだけめちゃくちゃになったジャケットここまで仕上げてくるなんてさすがとしかいいようがない。
「あ、お勘定…」
「弁償だからいらない。こちらが払う気にするな」
「すべて仕上がりましたらご自宅にお持ちいたします」「よろしく頼む」
「なあ…買い物はいつもそんなかんじなのか?」
「何が?」
「あんな買い物の仕方はお前の普通なのか?」
「必要があれば」
「やっぱり金持ちは違うな」
「俺の金じゃない。家の金だろ。俺個人は別に金持ちじゃない。でもこれから金持ちになる方法なら知ってる」
「お前なんか…あれだな。冷めてんだな。
淡々としてるっていうか。変わってんな」
「そうか?今日金持ちだとしても明日はわからない。逆も然り。そんな時代だぞ?お前今日どうすんだよこれから、借りるっていった本リビングに置いたまま来てるぞ。下宿に帰るならこのまま送るけど本持って帰るなら家に寄らないと」
「あ、借りたいからよらせてもらえるかな?」
「夕飯どうすんだよ?金あるのかよ?」
「あー、いやない。仕送りは月末で…本かっちゃって
後こないだパブいったし。あんまり手持ちないかな」
なんかこいつ面白い。仕送り全部本や学問に突っ込むタイプだな。管理できないタイプか。しかたねえな。
「なに?なんで笑ってんの?」
「家寄るなら飯くってけ。それから下宿に送るから」
「いいの?」
「ああ」
「ありがたい!食事はいつも悩むんだ。本か食事か。
どっちも大事だけど片方をいつも諦めないといけないし」
お前いつもどんな暮らししてんだ?そっちのほうが興味湧く
自宅につくとトマスが迎えてくれたがあいつがまたいたから笑いを堪えられなかったみたいで口の端が引きつってた。
「おかえりなさいませ。夕食はご一緒で?
ゲストルームの準備もすぐできますが。」
俺もおかしかった。自宅に人なんか連れてきたこと今の今まで1度もないくせに知らないやつを連れ帰ってきてそれから3日一緒にいるんだから。