裏ひよこ日記。夜22時00分の呼び鈴
季節の変わり目なので体調のアップダウンが激しい。わたしのからだは気温や環境の変化に敏感だ。
その日は朝から毎月恒例の女の子の日になり、眠いし、足は冷えるし頭痛だし、下腹がまつり太鼓を叩いてて、からだが重くてだるい。そんな日に限ってレッスンは1日座学で頭に霧がかかったかのように全然頭に何も入って来ない。朝の10時なのに頭が朦朧としてしまう。
ヨハン先生はわたしを見て、一瞬目を彼方にやり、今日はダメね。とかいいながら何処かにメールをうち始めた。
わたし大丈夫ですから。
なーにーがーよー。全然大丈夫そうじゃないようにしか見えないわよ?
いやあの、大丈夫なんで。そのあの…
あたしはレディ相手に仕事してるんだからそのくらいわかるわよ。レディースデーはゆっくりするのがレディのマナーよ。頑張りますなんていらないの。ゆっくりからだを休めなさい。からだに逆らっちゃダメ。いいわね?
はい。
ま、良くなったらその分巻き返してあげるからご心配無用よ?
ぐ…
会社だとそんな事言ってらんないくらい頑張るしかなかったけど。
先生優しいですね
はい?常識でしょ?あたしはレディ相手に仕事してんの。わかる?
おお…
そんなやり取りをして教科書を片付け始めた頃にドアがコンコンとノックされた。
入って。
ヨハン先生が声をかけると白衣の女性がワゴンをガラガラと引きながら入ってきた。
このコ?
そうなの。ちょっと見てもらえる?
白衣の女性はワゴンいっぱいにドライハーブを積んでいてと他にも大きな荷物も持ってきていた。
あら、どうしたの?
シルバーヘアのふくよかなその人の良さそうな女性はわたしをみてニッコリしてくれた。
あたしは自分の仕事してくるからちょっと抜けるわね。問診するんでしょ?ちょうどいいわね。
ヨハン先生はタ部屋を後にした。
シルバーヘアの白衣の女性は自己紹介してくれた。マチルダよ。医師でもあるし、ハーバリストなの。ちゃんとした国家資格あるから怪しまないでねと、身分証を見せてくれた。
全然疑ってませんから!
あら。ありがとう。
それで?どうしたの?少し顔色が良くないわね?
あの、毎月の…
ああ!うん。それは大事を取らないとね。
いろいろ問診させてもらうけど構わないかしら?
はい。お願いします。
いろいろいろいろ問診と触診されて
先生が選んでくれたハーブを先生は持参した簡易コンロで煮出し始めた。辺り一帯がハーブの香りでいっぱいになる。
はあ…いい香り。
でしょう?わたし魔女に憧れていたのよ。
あ、なんかわかります。
だからハーバリストになったの。
すごーい!素敵!!
さ、ちょっと苦いけど少しは楽になるわ。飲んでみて。にがすぎたら蜂蜜入れてもいいわよ。
ありがとうございます。
…なんかほんとここのレッスンて絶妙にツボなのよね。行き届いてる。
ふうふう息を吹きかけながら熱いハーブティーをゆっくり飲む。
わたしが飲むのを見ながらマチルダ先生は大きめな綿の小袋にいろんなハーブを詰めていくつもいくつも小袋に詰めていた。
ひよこさん。これ、1週間分のハーバルバスだから手間だけど煮出してその液をバスタブにいれて湯船に浸かってね。それからこっちはハーブティー。今回のレディースデー専用のハーブティーだから。次のはまた問診してからブレンドさせてね。
い、至れり尽くせり。
す、すごい。
あら、ヨハンの生徒ならこのくらい当然のケアだわ。
そ、そうなのですか?
頭のてっぺんから爪の先まで磨きをかけるってほんと楽しいわよね。それも自分ためだけに用意された専用のモノがあるってワクワクしない?
たしかに。好きですそういうの。
ヨハンのところにくる子はそういうの大好きよね。
なにか不調があればすぐに連絡して。
医師として診察するから。
ありがとうございます!
ゆっくり養生しなさい。それがあなたのお薬ね。
ハーブティーを飲みおわるくらいになってヨハン先生がレッスン室に戻ってきた。
あら、いい香り。ハーブの香りがたまらないわね。
ヨハン。あなたも後から診察よ?
あら。いいじゃない。マチルダの診察なんてわたしツイてるわ。
ひよこ、あんた今日は帰りなさい。家にいなさいよ!うろつくの禁止!今週は1人なんでしょ?
なぜそれを…
あたしのこと舐めてもらっちゃ困るわ。
家に食べるモノはあるの?
まあ、あるにはあるかと。
…とにかく家でゆっくりしてなさい。
具合良くないなら連絡してきなさい。
いいわね?
はい。あのすみません。
あんたのせいじゃないんだから。からだは親切なの。休まないといけない時は休まないといけない。これはレディーの鉄則です。
はい。
じゃあ、あの失礼します。
はい。またね。
レッスン室を出る時にヨハン先生がニヤッてきたけどなんか見間違えたのか。
部屋に辿り着く。ハーブティーが効いてるのかどうかはわからないけどマックスで眠たい。
そのままベッドにダイブした
のどが渇いて目が覚めた。
なんか暗い。外が暗い。何時なの?
ウソー?20時00分
わたしあれからどんだけ寝てたのよ…
ヤバっ。メイク落とししてないや。
そういえば今日は朝はフルーツと水しか取ってない。
なんか、なんか作らないと。
その前に洗濯とお風呂沸かさなきゃ。
…お腹痛い。お薬切れたかな。
飲むならなんか食べなきゃ。
…冷蔵庫、ああ、そうだ。今日買い物に行くつもりで…あるにはあるけど作る気がしない
オートミールのおかゆとかにする?
そんな気分じゃないけど。
え、ウーバー?
いや。そんな気分でもない。
今からスーパー行く?
いや、そんな気分にもならない。
…ダルい。
洗濯とお風呂が済むまでもう少し我慢しよう。
とりあえず!お茶とデーツで!!
夜22:00
わたしはキッチンのテーブルに突っ伏していた。
お風呂沸かさなきゃから2時間経った。
なんか今月ひどくない?先月軽かったから倍返しされてんの?いたーい!痛いんじゃボケーっ!
ピンポーン。
こんな時間にベルが鳴る。
わたしウーバーなんて頼んだ覚えない。
なに?だれ?もしかしてヨハン先生が様子見に来てくれた?
もう一度ピンポーンと鳴る。
…ドアミラー覗く
え、なんで!
ガチャっとドアを開けるとそこにスーツの人がいた。
は?なんで?
ヨハン先生から連絡きたんだよ。
お前の調子が悪いから来いって。
…来いって言われてすぐ来れる距離じゃないよね?パリからプラハよ?
午前中に連絡来たならこれない距離じゃない。
て。飯食ったのか?
いや、まだ。
薬は?病院は?
いや、その。大した事じゃないし…
2日早いが来るつもりだったから。
なんかスイマセン…
フレデリック大先生はバサッーとジャケットを放り投げてエプロンをつけ始めた
は?
飯!オレも腹へったし!
はあ。
風呂。入ったのか?
いやまだ…
あ、これ煮出さないと。
なに?
あ、ハーバルバス
見せて。
うん。
マチルダ先生の手がきのブレンド一覧をフレデリック大先生は読み始めた。
あー、なーる。ならお前冷たい物のむなよ?冷やすな?いいな?
はい。
で、煮出すんだな。りょーかい
全部できたら呼んでやるから。
や、でもフレッド来たばっかりじゃん
いーの!
ヨハン先生とフレッドてそんな連絡取り合ってるの?
まあ、お前の出資者だからオレ。
なーる。
出資者だけど、ヨメの面倒みないオットがどこにいるんだよ?
わあお。
お前なんなら食べれたりするの?いま。
チョコレート
…それは明日にしとけ。
なら油っこいもの以外なら。
まあいい選択だな。
あうー
ダルいなら横になってろ。さっきからそう言ってる。ったく言う事きかねえんだから。
はあい。
明日買い物にいくから。
うん。
わたしもいく
行けそうならな。連れていってやる。
このひと朝10時過ぎに連絡きてどうやって会社抜けて、どうやってチケット取って荷物とかいろんな事どーやってきたんだろう。
フツー来るものなの?来ないだろー
いやーわかんねえ。わからないことが多すぎる。
聞きたいことが山程ありすぎる
でも心のどっかでものすごい安心したわたしがいた。
あのう。ありがとう。
はるばるこんなとこまで来てくれて
別に。大した事じゃないし。
大した事じゃないて大したことあるわ。
ヒコーキぞ?そんな、サクッと移動できる距離じゃないっつーの。
背中を向けたままキッチンでなにかと忙しくしてる人は多分確実に照れてる。と思われる。