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ひよこ日記。パリよりもずいぶん小さなキッチンで。

夕食にヨハン先生を誘ったので食材調達にフレッドが見つけたアジア食料品店に行ってみた。

日本の3倍はしそうな価格帯のアレコレに二度見三度見してしまう。アジアのお野菜があるのは嬉しいし助かるけれど、強気な価格帯だった。そりゃそうだ。だってここはヨーロッパ。和食ブームだとしてもこちらの国の人達には日常食材ではないのだ。

フレッドも何回か日本に来たことがあり、スーパーや食料品店を見て回るのが好きなので、
えぇっ?!てなってた。まあ、そうなるよね。

お鍋したかったらすごーくお高いお鍋になっちゃうね笑

だな

じゃあさ、ここでは冷凍の枝豆と天ぷら粉だけ買おう?

それだと鍋にならないし。

だいじょーぶ!クレソンと鴨肉はスーパーにあるかな?

多分あるだろ。どうすんだ?

えっとね、赤ワインのクレソン鴨鍋にしよ。
それだと見栄えもいいし!
あとはうちにあるものでキノコのホットサラダとか、お野菜の天ぷらとかでこっちの食材で和で野菜多めな感じに仕上げよう?

ほーん

前に小説に書いてあった鴨鍋なの。
あれならヨーロッパの人にも受けはいいかも。

食べたことは?

ないよ

ないのかよ。

でもわかる。あれは間違いなく美味しいと思う。読んでて涎が出そうになったからアレは間違いない。

お前あれだな。感心するわ。

感心して。崇めてもいいのよ?

フッ

わたしたちは最低限の買い物をして家路についた。

フレッドがごはん作るんでしょ?

今回は一緒に作りながら教えてくれないか?

もちオッケーでーす!

気に入ってくれたら良いけど。

だいじょーぶだ。俺はぴよぴよのごはんが気に入ってるからヨハン先生だって気に入るに違いない。

なにそれ

二人並んで夕食の支度をする。
パリよりもずいぶん小さなキッチンで。

お皿足りるかな?
お箸だいじょーぶかな?

そんなこんなで時間は過ぎてヨハン先生がやってきた。

やーだ!インテリアがかわってるう!
いいじゃなーいっ!!

ヨハン先生はさっそく部屋を見回している。

ソファもベッドもラグも使い心地良さそうね。

留学の延長の時にフレッドとアルベルトが
買い替えてくれました。

まあ、素敵!

はい。これ、お土産。

開けてもいいですか?

もちろんよ。

ケーキの箱を開けると洋梨のタルトが入っていた。

わぁー!タルト!

私が作ったのよ。

せんせーが?

安心して。ローカロリースイーツだから。

わたしも体型管理は抜かりないの。でも美味しいものは食べたいわ。だから自分で作れるものは作るの。

センセすごーっ!

そりゃこんな人生歩んでるんだからそれくらいするだろう。

レシピ本あるわよ?

どこですか?売ってます?買いたいです!

でしょうね。はい。

ヨハン先生のお土産の2つ目はローカロリースイーツのレシピ本だった。

お。こりゃいいな。

フレッドがパラパラとレシピ本をめくっていちいち感心している。

美味そう。

フレッドはなんやらかんやらヨハン先生に質問してる。楽しそうだ。仕事ばっかりの最近から抜け出して休暇も兼ねてこっちに来ているので表情もリラックスしてる。よかったよかった。

そして一度も食べたことがない赤ワインの鴨鍋を披露すると二人はおおーっと唸った。

ひよこすごいじゃない。
それでこのポーランドのぽってりした食器類とお料理と雰囲気がすごーくマッチしてるわ

これ、間違いないやつだな。

にんじんと玉ねぎのかき揚げとか
キノコのホットサラダとかどこにでもありそうな材料でしかも価格は抑えて見た目は華やかにしてみた成果があったようだ。

一応和っぽく抹茶塩も食卓に出してみた。

んー。ひよこ。美味しい。ほんとうに嬉しいわ。和食は食べたことあるのよ。和食レストランで。でも家庭料理も素晴らしく彩り豊かでいいわあ。

ひよここれめっちゃうまい!!
かき揚げと鴨鍋がたいそう気に入ったらしいフレッドが珍しいくらい爆食している。

ありがとー。たくさんあるからどうぞ

ごはんは最後で枝豆炊き込みごはんで小さな丸いおにぎりにして出した、
和風だしと日本酒と醤油とみりんで味付けした豆ごはん手毬サイズのコロコロおにぎりはあっと言う間に完食となった。

夕食会はご機嫌麗しい世界となった。

はー、おなかいっぱい。
美味しかった。ほんとうに豊かな食事に誘ってくれて嬉しいわ。

料理はひよこの才能の一つね。
ヨハン先生はニコニコしてる。

ちゃーんと自分を誇ってね。

ありがとう御座います。

さあ、すっかり夜も更けたことだしここから内覧したあの地区まで散歩といくか。

冷えるから上着がいるわよ?
後歩きやすい靴にしなさいね。

私達はぞろぞろ歩いて夜のプラハの街を歩く。
観光名所じゃない普通の住宅街はシーンとしてちょっとだけこわかった。

意味なく心臓がバクバクするのを気づかれたのかヨハン先生がいるのにフレッドはさっと手をつないできて自分の上着のポケットの中にわたしの手ごと突っ込んだ。

ヨハン先生は素知らぬ顔をして全く関係ない話をしている。

外気は思った以上に冷たくて秋の始まりを教えてくれていた。

日が落ちるのが早くなりましたねえ。

フレッドがヨハン先生に話題を振った

そうねえ、紅茶の美味しい季節になったわね

たしかに。


そうだわ、キノコ狩りのシーズンになるわね。

え、先生キノコ狩りとか行ったりするの?

するわよ!もちろん!秋の森は美しいわ。
森は1年を通して綺麗だけど、秋の森は格別よ?
そうだわ。スタッフも連れてみんなでキノコ狩りに行きましょう。

え!ほんとに?うわあ楽しみです。

マチルダも誘いましょう。魔女目指してるから。

そうそう、ビール祭りもしないと。

チェコのビール有名ですよね。
すかさずフレッドが答える。
安くて美味しいのよ。パブもたくさんあるわ。あちこち回ってお気に入りのお店みつけるのも
楽しいわよ。

先生、そんな食べて飲んで回ってるの?

美味しいものには目がないわ。人生楽しまなきゃ。でも同じくらい私は自分の見た目も好きよ。だから管理するわ。
私は自分ネグレクトはしない主義なの。

自分ネグレクト?

そ。健康でいること
ストレスを溜め込まないこと
ちゃんと睡眠をとること
不安にならない程度のお金をもっていること
栄養のある食事をすること
自分のための時間を確保すること
外見に気を配ること
同じくらい自分の知性も育ててあげること
好奇心を大切にしてあげること
大好きな人たちと心地よい人間関係を作り上げること
美しいものに触れて感性を大事にすること

たいしたことしてないわ。フツーよ。フツー。


…ハハハッ

フレッドが笑い出した

それを中世ヨーロッパからやってたと?

もちろんよ。

そりゃ筋金入りだ。参りました。
あの時代にそれをするってほんとうに生きづらいだろうから。

今でもだいぶそうだと思うけど?

私が答える

でもそんな先生だから、私のお師匠さんなのよ?

わかるよ。

お前の人生を歩みな。ぴよぴよ。
サポートするから。

ありがとー。






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