ひよこ日記。美の哲学者に会いにいく。
プラハに行ってみることにした。
フライトチケットも取ったし、ホテルも予約した。ここまでは広報の仕事でしょっちゅうしていることだからお茶の子さいさいだ。
わたしはウキウキしていた。
フレッドはこの間わたしがしたい事だったら全力でサポートするっていってた。
アルベルトもたぶんそうだろう。
レッスンを受けるかどうかはまだ完全には決めていないけれど、とにもかくにもあんなどストレートに自分の考えやマイ哲学をユーモア混ぜ折りながら説得力ありまくりな文章と、雅な宮廷衣装のコスプレをプロフィール写真に堂々と貼り付けてる人だ。たぶん変な人に違いない。
会わないわけにはいかないのだ。
私が知ってるマナーに携わる先生達は何故か一様に同じ空気感を漂わせているが、プラハのその人だけは色彩鮮やかな空気感と異端な雰囲気を漂わせていた。ヤベえやつがいる!サイコーかよ。である。
そんな話を夕食前のアペロタイムにフレッドにしながらホームページを見せて書いてるブログやレッスン内容の簡単な紹介文章をみてもらうと
はじめはうーむみたいに渋い顔してたフレッドが段々と合点がいった!みたいな表情になり。最後に笑い出した。
そうかだからぴよぴよはこのひとがいいのか。と頷いていた。
ぴよぴよて。
ぴったりじゃねえか。
あんたしかそれ言わないよ?
ぴよぴよとかマシュマロちゃんとかさ。
ならなんなら嬉しいんだ?例えばだな
新しい名前をつけないといけなくなったらひよこ的にはなにが希望なんだ?
お腹が空いてるのところにシードルをのんでしまったのでなんだかふわっとしてる。かなりお酒に強いフレッドも今日は軽くキテるっぽい。様に見えなくもない
えー。
シードルを一口のんで考える。
そりゃもちろんアレ。
アレとは?
アレです。わたしが一番好きなアレ
…ああ、あれね。
そう。
ああいう名前が似合う女の子になりたかったなーてのは今でもたまに思うんだ。
そうか。
うん。だって可愛くない?リラ。て
でもさ、付けるならばていうか呼ばれるならやっぱりリラ・マイ・リラって呼ばれてみたいわよねえ。本音というか願望がポロリと出てしまった。
ふうん。
どういうシチュエーションで?
と何故か質問される
えーひみつー。
ケチかよ(笑)
ご想像にお任せしますよーだ。
ここでちょうどアルベルトが帰ってきた。
わたしはアルベルトのとこまで走っていって
幼稚園児のようにねえねえきいてー!攻撃を繰り出したのだった。
案の定アルベルトはひよこちゃんがやってみたいことなら行っておいで。と言ってくれたが
フレッドはウソツクナっつーの!てゲラゲラ笑ってた。
プラハに行く日の朝、アルベルトが車で空港まで送ってくれた。
僕も頑張るから。ひよこちゃんにおいていかれないように。
どうして私がアルベルトを捨てる前提で話をするのだろう。こんなかっこいくて人間ができている人のこと誰か捨てる人いるんだろうか。
どうして私がアルベルトを捨てるということになってるの?なんでその前提で話をするの?
そうしてほしいの?
…
アルベルトはそれから空港につくまでの間黙って運転をした。
小さなキャリーをトランクから降ろして2人で搭乗ゲートまで歩いてく。2人とも無言で気まずい雰囲気が漂う。
ひよこちゃん。
ん?
帰ってくるよね?
あたりまえなこといわないで?
もしほんとに数ヶ月から数年とかプラハに行く事になったら
うん。
僕会いに行っても構わない?たまにどころか頻繁に。
もちろんよ!来てくれるの?
もちろんさ。
あのね。大事なことなので2回いうよ?
うん
わたしあなたが大好きよ?
うん
もう一回いうよ?
うん
わたしにはあなたが必要なの。わかる?
…わかった。
たった3日よ?お利口さんに待ってなさい。いいわね?できるよね?
できる。
大好きよ。待っててね。ぎゅっとしてあげた。
ふふふ。抱きついて顔を見上げる
まいったな。
君はいつだって僕の気持ちを軽くしてくれる。
あなただっていつだってわたしの不安を取り除いてくれるよ?
ありがとう。待ってる。いってらっしゃい。
うん。行ってきます。
てな感じでわたしはプラハに行ってきたのであった。
そして初対面のプラハのその人は予想の斜め上過ぎる位の毒舌とバカイケメンなオネエだった。
開口一番クソダサい選手権にでも行くための服を着てきたのか?と先制カウンターを受けた。
開いた口が塞がらないがいい得て妙だった。
言ってることはわかる。本音で話す小気味よさ。口から出る美意識の話はがスキでスキでたまらない感じが溢れてて
人生の中で自分の美意識と哲学をまっすぐ追求したらこうなりました!て感じなんだろう。
だからすごくこのひとに教わってみたくなった。
ヨハン先生はたいていの女の子はこういう感じで話をすると怒るか泣くかついてけないとどんどん辞めちゃうのか来なくなるのだとしれっと言っていた。
そらこの毒舌だとそうだろうな。とも思うが、その女の子達はこのひとの美の哲学を理解してなくて、てかできなくて、むしろ一般的なマナープロトコールを教えてくれるの人達と一緒くたにするほうがどうかしてる。とも思うし、なにより先生のほうが傷ついたんじゃないかなとも感じた。
自分の美意識と哲学を否定されたみたいで悲しくならなかったんですか?て聞いたらハァ?あんたなにいってんの?と突っぱねられた。
いいや、これ図星だろ。とも思ったがそれはお口チャックした。
体験レッスンの時間無駄にすんじゃないわよ。て初っ端に言われたからもう図々しいくらいに図々しく、しつこいくらいに質問しまくった。
イヤイヤそうに答える割にはやっぱり一本筋が通ったようにみえるし、ふっかけてるて言うけどよくよくレッスン内容聞いたらふっかけてるどころかむしろお得にしか聞こえない。
このひとが自分で体験したり感じたり失敗したり勉強したりして得た知識や構築したメソッドはやっぱりこのひとだけにしか使いこなせないわけでどこ探してもこんな変人クラスに巡り合えないだろう。そういう意味ではかなり良心的すぎる価格だと感じたのだった。
で、レッスンどうする?て聞かれたから
やります。て答えたら
あんたバカでしょと言われた
うるせぇな完ストするって言ってんだろ黙れよ。とつい素で答えると
キョトンとされて次に笑い始めた。
なんて図々しくて厚かましいの。なかなか言うじゃない。そういうのキライじゃないわ
…いいわよ。ならわたしと仲良くなりましょう。お互い責任を持ちましょう。とレッスンしてくれることを了承してくれた。
お互い責任を取りましょうという言葉を言われたのははじめてだった。
教える責任、教わる責任。
わたしにも教わる責任が発生したのだ。
パリに帰り着いたその日の夜にヨハン先生からメールと添付ファイルが届いた。
ものすごい量の課題(プラハに行くまでにするもの)とプラハに来るまでの事前トレーニング。ねえ、ここまで親身になる人やっぱいないって。まだ始まってもないし、なんなら正式なレッスン代金振込も完了してない。
ヨハン先生にはまだ体験レッスン代金しかお支払いしていないのだ。
早々に振込手続き完了しないと。
もしかしてお金に無頓着なの?と逆に心配になってきた。
そうフレッドに言うとフレッドはニヤりとひた。ああーたぶんこのひとあれだろ。
レッスンは道楽なんだろ。だからガチでやるタイプだ。本気の趣味つかライフワークな。
本チャンの仕事でがっつり稼いでる。だから心配いらない。ぴよぴよのあっちで住む予定のアパートメントのも彼が持ってるのを提供してくれるんだろ?
て、いってたよ?
プラハから帰る日にヨハン先生の代理人という人がいろんな取り決め事項の書類を持ってホテルのロビーに尋ねてきた。
なな、なに?ヨハン先生には弁護士さんがついているの?てちょっと驚いたのだった。
あのひと何者なの?
その書類を読みながらフレッドが話してる。
ふうん。ちゃんとしてんな。
まあ、前もってアルベルトが調べたから大丈夫だろうけどよ。
え、調べたの?
そりゃ確認するよね。素性がわからないところにひよこちゃんを行かせるわけにはいかないし。
しかし事前レッスンがもうとんでもなかった。タイムスケジュールに食事プログラム、細かく細かく決められていてそりゃ普通の覚悟決まらない女の子逃げるだろて内容だった。
フレッドは印刷したこれらをみて
まるで王族の教育みてえだな。といった。
だってあのひとなんだからそのくらいやってくれなくちゃわたしもつまんない。
とわたしが答えると
フレッドとアルベルトは目が点になってた。