裏裏ひよこ日記 ロイヤルストレートフラッシュな秘密の花園
朝早くに出社しないといけない日にひよこはプラハに戻っていった。
ガレージに降りてきて見送りをしにきてくれたのに、くどくどとアレを忘れるなコレを持っていけ、着いたら連絡しろ、規則正しい生活をするように勉強も大事だがちゃんと寝るんだぞ、等などぴよぴよからわかったわかった大丈夫だからフレッドママ!と言われるような事を並べまくっていた。
オトナのちゃんとした女性だということは重々承知しているし、実際MKHDでは家族登録だってしている。
世の中の男性陣はこういう場合どうしているのだろう?アルベルトなんてもっとひどくてプラハについて行く。オレからみても上機嫌で旅支度をしていた。
ひよこは自分の課題を必死にやっていて自室に籠もっていろいろ調べ物やレポートを仕上げているためアルベルトがプラハにくっついてくるなんて知りもしない。
自分の責任感と生真面目さがいまは呪わしい。今は運悪くというか山場で大型の取引が始ろうとしていて抜けられないし休めないのだった。
ぴよぴよがプラハに着いたのは深夜近い時間で連絡が入ってきたのは帰りの車の中だった。
ハンズフリーで話す。
アロー?
今ついたよ。
そうか無事ついたか良かった。
あれ?今外?
帰りで運転中。ハンズフリーだから気にすんな。
アルが一緒についてきた。
みたいだな
うん、もしご飯食べるならおにぎり冷凍してるからね?
わかった。
明日また電話するね?ハンズフリーでも運転危ないから切るね。
わかった。明日な。
じゃあね。おやすみ
ああ、おやすみ
…おにぎり。聞いたら思い出したが昼も夜も食べてない!!
自宅に戻り、真っ先にシャワーに入り頭をガシガシ拭きながら冷凍庫を開けるとぴよぴよが作っておいてくれたスープやおにぎりなどがぎっしり詰まっていた。
どれ食う?
冷凍保存してくれたポタージュと焼きおにぎりを何個か出してレンチンしている間に洗濯機に洗濯物を突っ込んで洗濯を始める。
飯があるってほんとありがたい。
ニュースを見ながらだだっ広く感じるリビングでビールとポタージュと焼きおにぎりを食べた。
ある日の夕方。仕事の山場を越えたのでMKHDの研究棟にあるラボⅢを訪れた。
ここはオレも関わっている植物の研究棟だ。
研究棟の外にある植物育成ブース。
様々な花や植物が植わっている。
先輩!お久しぶりです!
すまない、なかなか来れなくて。
いやいやあれだけいそがしかったら難しいのはわかりますから気にしなくていいです。
それよりアレ咲きましたよ?
お、マジ?
失敗しませんでした。
良かったな。
はい!
あ!そうだ!コレ見てください。いい出来ですよね。なかなかうまくいかなくてやっと満足できる感じになりました!
これいいな。
でしょう?
スペンドアライフタイムって言うんですよ。
スペンドアライフタイム。
はい。いい出来です。名前も素晴らしい。
ここのラボの研究員達は皆穏やかだ。どこぞのラボの奴らとは大違い。
花言葉がですね
ああ
生涯を共に歩む。です。
なんか良くないですか?
ああ、そうだいまの先輩にピッタリですね!
…
聞きましたー。おめでとうございます。
あ、ああ。
いや、別に至急の措置みたいなものだから
休職するための措置というか
あーあ変わらないなあそういうところ。
ごまかすんだよなあ先輩は。
ごまかすも何も事実だし?
じゃああれですか?契約結婚みたいな?
また僕らの時代の踏襲しちゃうつもりです?
いや、そういうわけでは。
お家柄のための時代は終わりましたよ。僕も先輩も!今やっと好きな花に囲まれて育てて研究して僕は心底幸せです。誰からも文句もケチもつけられませんからね!家の恥とけなされもしませんしね!!
そうだな。
これ、彼女に見せてあげられたらいいですね。
そうだな。
写真とってもいいか?
もちろんです!
あの、コレじゃないんですけどまだ他にもあるんです。見てもらえます?
あれですよ、アレ。
スゴイな。
でしょう。もうここに寝泊まりして管理しましたからね!
おまえらしいや。
先輩もたまにはどうです?
いいな。それ。
空いてる日あります?
ちょっと待って。
手帳を取り出す。
この日なら顔出せる。
天体観測できますよ?いいスポットがあるんです。
乗った!!
仕事ばかりが全てじゃない。ぴよぴよはそれをしにいっている。オレも息抜きしないといつか詰むかもしれない。
ぴよぴよにその写真を送った。
わ!かわいいいいいい
送ってから数秒後に返信がきた。
ラボⅢに咲いてる。後輩が頑張って咲かせた。
寝泊まりして管理したらしい。
えええーいいなあ、ナマで見たい。
コレはだなホワイトティみたいな香りがするんだ。
えええーうらやましー!!!
いいなーいいなー
ま、いつかな。
あえて花の名前と言葉は教えなかった。
それからまた2ヶ月してからMKHDに顔を出したぴよぴよをラボⅢに連れて行ってやった。
研究員になりたくてなれなかった由緒ある家柄の三男坊だった後輩とぴよぴよを引き合わせた。
はじめまして!ひよこです。
あなたが!先輩からお話は常々。
なんか…苦情とか愚痴とかですか?
不審げに尋ねるひよこに後輩は笑いを隠さなかった。
あははっ!
おい
あ、いや失礼。
そう!アレですよね?
そう。まだ咲いてる?
もちろん。もうすぐ時期は終わるからまた来年のお楽しみです。
僕は遠慮しますんで先輩案内してください。
じゃっ!ごゆっくりー。
…
あ、これかわいい、あ、アレ素敵!
いろいろな花や緑が咲き乱れる秘密の花園を模した後輩がせっせと手入れをした
植物達にひよこは目を輝かせていた。
ガーデニアの森を抜けるとそこにそれがワッと咲いていた。
わあ…
いいだろ。
うん。
うわあ
これあの写真の?
そう。
それな、名前、スペンドアライフタイムていうんだ。
わあ。すごく素敵な名前。
花言葉がな。
聞いてるのか聞いてないのかわからない勢い花の香りを嗅ぎに行ってしまわれた。
あのな。
花言葉。
花の香りに夢中で聞いてないかもしれない
生涯を共に歩く。ていうんだ
返事がない。多分聞いてない。ぽい
ま、いっか。
しばらくひよこはそこでスペンドアライフタイムを満喫していた
オレはベンチでぼーっとガーデニアを見ていた。
ガーデニアの花言葉てなんだったけなあ。
ああ!思い出した。とても幸せ。だった。
それにしても良くこんなにたくさん植えて育てて手入れ大変だろ。
ジャスミン、ガーデニア、薔薇にハーブにオーキッド。ほんと秘密の花園だな。予算もっと組んでやりたいな。
…フレッド?どしたの?花酔いでもした?
気がつくとひよこが隣に座ってた。
あ?ああ。ぼーっとしてた。
ここ、ほんと素敵。こんな場所あるなんて知らなかった。
アイツが自分で勝手に作ったんだよ。
もちろん予算は出してるが、まさかここまでとは思ってないだろうけどな?
ここ、帰る前にもう一度来たい。後輩くんに頼んでもらえるかな?
気にいったんだ?
当たり前よー!素敵過ぎる。
夜のここはもっとすごいぞ?
えっ?なんで?
月光花とオーキッドが咲く。
それに睡蓮。
ウソ。いいな。
みたい?
もちろん!
ちょっと聞いてくる。
後輩に聞いてみると夜23時に来てくれと言われた。
おまえ今日、夜用事なかったよな?
うん。
夜23時に来てくれって。
楽しみ!!
ウキウキしてひよこは夜の外出の支度を始めた。
夏とはいえ、夜は冷えるので上着とショールと温かい飲み物とオヤツを準備している。
23時にラボⅢに再び訪れる。
後輩は鍵を渡して自分は研究棟にいるという。
おまえ来ないの?
野暮な事言わないでもらえます?
スマン。
先輩たまには頑張ってみてくださいよ。
…はは
夜の秘密の花園はむせかえる程の花の香りと常夜灯のぼんやりした灯りでまさしく秘密の花園が秘密の花園として成立していた。
すごいな。
素敵過ぎるんですけど!!
足元気をつけろよ?
うん。
ランタンを照らしてお気に入りの場所をうろつく。
写真撮りたい。けど我慢するっ!
いいのか?
秘密の花園は秘密の花園として撮っちゃダメでしょ。非公開だからいいのよ。
たしかに
月光花は深夜に咲く。ポンポンと睡蓮の花が咲く音がする。微風が吹いてきてジャスミンとガーデニアが強く香る。
もー、泣きそうだわ。素敵過ぎて!
ないとけ。価値あるしな。
フレッドも感動で全米が泣いたくらいに泣いて構わないのよ?
なんだそれ。
強いガーデニアの香りの向こうからあの薔薇の香りがした。
あ。お昼の薔薇ちゃんだ。呼んでるのかな?
あ、おい。気をつけろ
はあい。
やっぱり君たちだね。
この薔薇ちゃん。
スペンドアライフタイムていうんでしょ?
ああ。
しゃがみ込んで花をじいーと見つめるひよこ。
花言葉は、生涯を共に歩く。だったっけ?
なんだ聞いてたのか。
今ここでわたしにちゃーんとまっすぐ目をみて言ってくれてもいいのよ?
言うかバカ。
けーっち!
フハハ。
そんな事したらおまえ一生のネタにするから言わねえよ。
バレたか。
…できたぞこれ。
ん?
この間見て回ってちゃーんとしたやつ頼んだだろ?
ほら、これ。
待って、ちょっと待って!全世界線のわたしが泣くやつ。
だからオレの勝ちな。
たまにロイヤルストレートフラッシュ出してくるのホントやめて?
ならいらないんだな?
いりますいります!ありがとうございます!
ちょっと待て。カッコつかない。
一回くらいガチでかっこつけさせろ。
だまります!はい!!
たまには頑張ってスペンドアライフタイム。
オレだってカッコつけたいときだってある。
例えば今この瞬間とか。