裏裏ひよこ日記。仕事とは名ばかり

ひよこがヨハン先生から借りているアパートメントは程よいサイズ感のコンパクトなアパートメントだった。

部屋の模様替えはひよこへの課題でもあるらしく自分のお気に入りの空間を作りなさい。とのことなのでヨハン先生のこの家は必要最低限の家具は備え付けだが、後は全部自分で買うとか自宅から持ってくるとかしなければならなかった。

ひよこは最初に間取り図を送られてきた際にどうしていいかわからずに俺達２人に聞いてきた。

一人暮らしをしたことがないひよこのはじめての一人暮らし。何を揃えたらいいのかそれさえもわからないそんなはじめて尽くしの冒険の旅のはじまり。

ああでもないこうでもないと何回も模様替えしたらしい。家具は動かしていいし、壁紙も剥がせるやつなら貼って構わない。といわれており
ひよこはひとりで自分好みの空間を作った。

家は温かみがあるインテリアで食器類はポーランド製のぽってりした素朴な感じの物を使っていた。

着ていたスーツのジャケットをハンガーラックに掛け、今はシャツとトラウザーで小さな丸いキッチン兼リビングのテーブルでお茶を飲みながら話をしている。

この香りは？

わたしがつくったよ。

ルームスプレーは自分でアロマを調合したらしい。

この家に合いそうな感じをイメージして作ってみたの。どうかな？

いいとおもう。部屋に合ってると思う。

よかった！

小さなジャムの空き瓶に入れられたいくつものキャンドルも自分で作ったらしい。

作るの楽しくて作り過ぎちゃった！

余ったのがあれば貰うけど？

よかったらどうぞ。

それから花を活けてる花瓶も飲み終わったガラスの牛乳瓶やジュースの空き瓶だったりでそれがなんだか部屋の雰囲気に合っていていい感じだった。

全体的にほんわかとして居心地の良い家だった。

食事は極力自炊するようにとヨハン先生からもいわれているそうなので、３食全部自分で作っているそうだ。

ちゃんと暮らしてるんだなと安心した。

そういうと

でもね、ひとりでご飯食べるでしょ。美味しくできると嬉しいんだけど少しさみしい気分にもならないわけではないんだ。

とお茶を飲みながらひよこは喋る。

だからね、今日はフレッドと一緒にご飯食べれて嬉しかった！

…そうか。それはなにより。

でも明日は外に食べに行くのもいいな。

そうだな。

どこか行きたいところとかあるならそこでもいいけど？

うん、そうねえ…。

なんかこの家くつろぎすぎて帰れなくなりそうだ。

アルも似たような事いってたよ。

あいつはじめから帰るつもりなんてないんじゃないのか？

それはないよ。

なんでだよ。

帰すから。

何だそれ。

わたしがここに来た理由よ。

…そうだな。

大好きよ。もちろん。でも少し離れたほうがいいときだってあるでしょ？

オトナだな。

オトナです。

意外や意外。


どれだけ大切だったのか少し離れてみたら
思い知らされることたくさんあるじゃない。

まっすぐオレの目を見て言った。


…そうだな。

わたし恵まれてたんだ。て思い知らされたの

そう？

ここに来れたのもそうじゃない？２人が会いに来てくれるのも２人がわたしを大事に思っていてくれるから。

うん

そんでね

洗濯機が洗濯終了のお知らせのピーピー音を鳴らしはじめた。

お風呂入れば？

先にいいのか？

ぜーんぜん。どうぞ？

ならそうさせてもらう。

バスルームに行くとパリで使ってたひよこの化粧品と同じものが置いてあって
それを見たら何故かほっとする自分がいた。

これ、使っていいの？

ご自由にどうぞ！！

タオルはこれね。

タオルを手に取ると微かにラベンダーの香りがした。

シャワールームにはイギリスの自分の家のローズマリーとラベンダーとはちみつの石鹸。

シャンプー類は前に自分が作ってひよこにあげたやつもあった。

お気に入りのものしか手元に置くなとヨハン先生からいわれているぴよぴよ。

なんだよまったく。


風呂から上がると見覚えのあるTシャツがおいてあった。

あれ、これ。

前に借りてたの忘れててそのまま持ってきてたの思い出して！！

…お前なあ。

まあ、いいや。着るやつができたし。

あ？…まてよ。なあお前まだ借りパクしたままのやつ何枚かあるよな？

…今日はいいお月さまでてるねえ

出せ。

やだ。気にいってるもん

サイズ違うだろうが。

あのゆるゆるなぶかっとした加減がかわいーんだってば！おウチで着るのにちょーどいいのっ

…

…いつか返すってば！こっちにいる間は貸しといて！

…わかったよ。

あ、あ！じゃあ！今からヨハン先生がくれたとっておきの美味しいもの食べよ？

今から？

うん。

これこれ。出してきたのはキャビアとシャンパンだった。

もらったの。
フレッドこれ好きだったよね？
借りパクのお礼にどうぞっ！！

まあ、良しとするか。

これ何と合わせたら美味しいの？
てか、フルートグラスないや。

グラスでいいだろ。
半熟卵に乗っけたり、スモークサーモンと合わせたりがふつーに美味いけどな？

スモークサーモン？あるよ？半熟卵ね。
よし、じゃあ、そうしよう。

キッチンタイマーどこいった？
どこ？出といでー。

２人並んで卵をあちこち鍋でゆらゆら動いてしいる様子を眺めている

…あのさあ。

うん。

出張なんだけど。

うん

もう終わらせたんだけど。

じゃ明日帰るの？

いや正確に言うと、こっち来て話をして終わった。

うん

じゃ明日仕事ていうのは？

あるようなないような

話がよくわかんない。どういうこと？

仕事てのはだな。

うん。
安否確認をする事。だな。

なにそれ。いまさら？毎日電話とかで安否確認してんじゃん。

まあ。

へえ。でっち上げてきたわけね？

いや。ちゃんとした仕事だ。MKHDからの依頼だからな。

…へえ

で。だな。だから仕事は終わったんだ。

でしょうね。

半熟卵の殻を水につけながら剥いてギザギザに切っていく。

わたしの安否確認できたからもう用事終わったんでしょ？

MKHDとしてはな。

まだあるの？

こっからはプライベート。個人の問題

はあ。

できたぞ。

おお！セレブの人達が食べるやつができたー

半熟卵とキャビアって美味しいのねー
卵と卵だしな。

あ、そうよね。

グラスに注いだシャンパンを飲む

これ美味いな。

よかったね。

プライベートの用事てなに？
観光？

まぁ、それもないわけじゃあない。

単に直接顔が見たかったんだよ。

…そりゃどうも…

なんか俺達こういう事になるとマジできまり悪いよな。どうにかならないのか？

ほんとよね。

…

来てくれてありがとう。ほんとに嬉しかったよ！

そりゃどうも。

少し離れたら自分がどんな気持ちだったのかよくわかるね。

だな

で、勉強楽しい？まだ続けたい？

うん。もしできるならあと3ヶ月は延長したい。

ならそう伝えるけどいいんだな？

明日早めに出るんだよね。

ああ。
早めにな。11時くらいに。

早くないよね？

まあまあ早めだろ？午前中だ。

ほお。

お前明日休みだろ？

うん。ヨハン先生が明日は休み！て言った。

ああ俺が頼んだからな

そうなの？

そうなの。

ぴよぴよ。プラハで一番歴史があるいいホテル知ってるか？

いや、ないよ。

なら明日はそっちに移動な。

え。

審美眼を養えるぞ？

うん。

て、予約できたの？

ああ。

最後の1個の卵のキャビアのせを口に放り込みシャンパンで流しこんだ。

さて。歯を磨いたら寝るかな。

個人の問題についてよく話し合わないといけないしな。

借りパクについての説教でしょうか。

それもいいな。

すいませんでした。

この流れだとまたクスクス笑いが止まらない時間になるな。それはそれで幸せだったりもするんだけど。

離れたらどれだけ大切にしているかよくわかる事についてついてちゃんと聞いときたい。

それ…どっちが先に白状するの？

なら…オレから？

カーテンの隙間から見える月が今日はいつもより綺麗に見える