ひよこ日記。どうせ何枚も上手
プリン・ア・ラ・モードを食べて我が家に帰るべく駐車スペースに急ぐ。鍵をポケットでチャリチャリ言わせながらフレッドはなにかの鼻歌を歌っている。
最近のフレッドは前よりも飄々としてて身軽で明るい。
それなんの歌?
ん?
あー、T-REX
ふうん
オレ、プログレ好きだからさー。ギターとアンプ買おうかと思ってさ。カタログ請求しては眺めてる
え?弾けるの?
は?誰に言ってるんだ?オレだぞ?(笑)
さーせんした。
てか、弾けるの?
前にちょこっとテオのやつ弾かせてもらったんだけど、面白くてさ。アイツらと遊びに行くたび触らせてもらってるんだ。
あー、テオとかリョウとかギター好きだもんね。
ああ、こないだのフェスでガンガン弾いてるのみて、やっぱいいなと。
まあ、オレはバイオリンとピアノはひけるからギターもサクッとイケるんじゃないかと。
ほおお。
アルもピアノ弾けるよ?
しってる。時々弾いてるよな。下から聞こえるし。うまいよな。オレとはジャンル違うけど
あいつはジャズでオレは古典。
楽しみが増えていいね
まあな。なんでも楽しまなきゃ。だろ?
うん
家に帰るとアルがリビングでコーヒー飲みながら本を読んでた。
ただいまあ
おかえり。ご飯できてるよ。
ありがとう!手を洗ってくるね
洗面所で手を洗ってるとアルがやってきた
う、ちょこっとだけこわい。無言の圧
ひよこちゃん
うん
お話あるんでしょ?
うん
ご飯食べてからにしようか。
うん。そうしてもらえる?
もちろんいいよ
その日の晩ごはんはアルの係でトマトのファルシーとクスクスのサラダで安定の美味しさだった。
食後のお茶を飲みながらソワソワしてきた
ああ、どうしよう。チラっとフレッドを見ると
さっさと済ませてこいという目をされた。
うわあん、こわいよう。別に悪いことしたわけじゃないのになんでこんなに萎縮しないといけないんだろう
アル、えっとその
うん
今日人事異動の発表があって
うん
その…広報のチーフに。
すごいじゃない
それで…その…
どうしたの?
もう一つ人材育成部の主任で…
…掛け持ちなの?
はい
…
あの…ごめんね
どうして謝るの?
その、いまでもそうなのにもしかしたらさ、に時間がなかなか思うように取れなくなるかもしれなくて。。だからえっと残業とか出張とか今以上にあるかもしれないし。
…ごめんなさい
…
アルベルトは無言だった。
もう!だから言いたくなかったのよう!
ひよこちゃんは嬉しくないの?
ん?
だってごめんなさいばっかりだから
それはだってアルベルトに申し訳なくて
ひよこちゃん。
は、はいい!!
あー、オレ部屋戻るわ。あとは二人で話せ。
ちょ、ちょっとー!!
心で叫ぶ
ひよこちゃん。下で話そうか。
う、、はい
売られに行く子牛の気分でアルベルトについて下の階のアルベルトの部屋に行く。
どうしようめっちゃ機嫌悪くない?嫌だあ助けてえ
部屋に入るやいなやアルベルトはぎゅうっとしてきた。
ひよこちゃん。僕にごめんなさいはなしだよ?
でも…
でももいらないよ
ごめんね、僕に遠慮してるんだね。僕が狭量だからひよこちゃんを追い詰めてるのかな?
そんなんじゃなくて
今でもすごく良くしてくれてるのに、更に迷惑かけちゃうかもしれなくて。それが申し訳なくて
ひよこちゃん。
うん
お仕事好きだもんね。
…うん
いっぱいがんばって昇進したんだもんね
…うん
それで僕が気を悪くするんじゃないかって心配したんだよね?
うん
それは僕の問題であって、ひよこちゃんにはなんにも問題ないんだよ。
おまえ可愛げ使えよ?泣き落としでもしとけ。とフレッド大先生の言葉を思い出すが、そんな簡単に泣けるかばかやろう。肝心なときに泣けないワタシのばかあ!
さ、お祝いしなきゃね!!アルベルトが急に話を切り替えた。
シャンパンを開けよう。
フルートグラスとワインクーラーからシャンパンを取り出してきた。
急だったから改めて二人でお祝いをどこかにしにいこうね。
いいの?
あたりまえでしょう?
おめでとう。ますます輝いて。
ありがとう。
いいのかそれで?と拭えない気持ちのまま
シャンパンを一気に飲んだ。
あ、
おかわり!アルベルトおかわり!
喉がカラカラなのだった。
そんな一気に飲んだら酔うよ?
飲まなきゃやってらんねえ。
大丈夫だから!おかわり!
そして三杯ほど一気に飲んだツケが回ってきたのか頭がふわふわしてきてプツッと何かがきれた。
あのね!
どうしたの?
私!
うん
仕事も好きだし勉強もしたいし!昇進したいし!おウチも大事だし!
アルベルトも大事なの!みんな大事でー!!
あ、ああ、うん
全部ほしいの!悪い?!
いや…全然いいとおもうよ?
ぜーんぶ、ぜーんぶもっときたいの!!!
う、うん。そうだね。
なんでだめなの?なんでいっこしかだめなの?
うわーん!!
アタマの回線がきれたワタシはわんわん泣き出した。だめだ止まらない
ちょっとひよこちゃん落ち着いて??
うわーん!なんで一個しかだめなのよう
わたしはぜーんぶほしいのにー!うわーん!!
うん、わかってるよ?
わかってない!アルベルトはおウチにいてほしいんでしょっ!?
…いや、その
わたしはわたしにできることぜーんぶしたいの
なんでだめなのよう
ひよこちゃん。聞いて
アルベルトはわたしとずーっと一緒にいたいからおウチからだしたくないんでしょっ!
えっと…
わたしはおウチだいすきだしふたりともだいすきだしお仕事もすきなの。どうしてわたしががまんしないといけないのよう!
いっぱいがんばったのよ。いっぱいいっぱい
いっぱいいっぱいがんばったんだから
…
アルが私のことキライになっちゃう
それは絶対にないから
キライになっちゃう!どうしたらいいの?
お仕事やめたらいい?そしたらアルベルト幸せにしてあげられる?わたしだめなコでごめんなさい
え、は?ちょっと待ってひよこちゃん
……寝る
え。
次に気がついたらアルベルトの部屋のベッドに寝かされていた。おでこに冷たいタオルがのってた。時計を見ると一時間くらい経ってた
詰んだ…終わった。。完全にやってしまった
わたしこの先どうしたらいいの?
この家いられないじゃん。
荷造りしてどっか引っ越さなきゃ
ベッドからそろーっと起きてベッドから降りる
ひよこちゃん。どこいくの?
アルベルトがソファーに座ってなんか飲んでる
もう完璧詰んだ。
とんだご迷惑を…
キミはほんとに可愛らしい。
僕はどうしたってキミを手放せない。
ウソ?本気?
ひよこちゃん。聞いて。こっちこれる?
…はい
怒ってないから。むしろ反省するのは僕のほうだ。ごめんね、ひよこちゃん。
アルベルトは悪くないよ
でも、やっぱり僕がよくなかったよ。
好きにいきていいんだよ。したいように生きていいんだよ。僕はひよこちゃんがとても大切で手放したくない人だからつい束縛しちゃうんだ。僕がヤキモチ焼きだからひよこちゃんに遠慮させてるのはわかってたんだ。
たくさん謝らないといけないのは僕の方なんだ。こんな僕だけど、それでも一緒にいてくれるだろうか?
!!
わたしの旦那さんはアルベルトだよ?
ありがとう。ほんとにキミは素敵な人だ。
仕切り直ししよう。今日はたくさん話をしよう
うん。
ひよこちゃんの本音を聞けてよかった。
キライにならないでね?
あるわけないでしょう?
わたしのことキライにならないでね?
そんな日は来ないよ
おいで。僕の大事な人。
素直におめでとうっていえなくてごめんね。
シャワー浴びてきていい?それで今日はアルベルトと一緒に寝てもいい?
もちろんだよ、当たり前でしょう。毎日そうしたいけど。
たくさんわがままいってごめんなさい
僕らには大切な事だよ。
可愛げがマイナスに振りかぶり、可愛くもなんともない大泣きであんな大失態がかわいいと言うアルベルトのアタマの中が謎過ぎるんだけど
案の定フレッドは次の日その話を私から聞きお腹を抱えて目尻になみだをためて笑い死にしそうになった。ので蹴ってやった。
ぶはははは!おまえマジで最低で最高だな!!
女子としてほんと恥ずかしいんだけど、終わってない?わたし自分が男子だったら引くわ。アレみて。
アルベルトが変人でよかったな
アルは変人じゃないけどわたしよりオトナでよかった。て思った。きっとアンタにそれしたらお互い激突してたと思うの
だろうなあ。自信あるわ。大喧嘩してんだろうな。器物破損も辞さないふーふ喧嘩してるだろうな。
でしょう?
ああ、わたし全然かわいくなかった。むしろ最高にブサイクだった。
アハハハハ!!いやもう現場見たかったわ。
見なくていい
それで?
ん?
お祝いしなきゃだろ?
何がいいんだ?
自分もじゃない
ああそうだな。なんかめっちゃうまいもん食いに行こうぜ。遠くにな。
旅行?
ああ。たまんねえな。最高だ。
おまえがバカすぎて最高だ。このまますくすく育ってくれ。
バカにしてるよね?
いーや、全然!!むしろよくやった
単に酔い潰れただけじゃん
あー、ハラいてえ。
アルは幸せもんだわ。まったく