ひよこ日記 ヨハン先生の地獄のクローゼットチェック
ハイヒール。
歩くと足がよろめく。そして左足首がグニッとなる。スイスのマナースクールでウォーキングのレッスン中捻挫したのもわたし。階段を登り降りするレッスンの時は登るのはいいが降りる時に足首がグニッっとなり後5段を残すのみの階段からズザザーと落ちたのもわたし。
そして会社の倉庫で1人資料のお片付けの作業中に足首グニッとやらかしてものすごい騒ぎを巻き起こしたのでヒールはちょっとしたトラウマだったりする。
別にハイヒール履かなくったって仕事にならないわけじゃない。でもなんか個人的にやっぱりスーツにはヒールの靴がキマるしカッチョいいのだ。憧れの1品だが難易度が高い。
ヨハン先生は毎日レッスンが始まるまえに
わたしを壁際に立たせて頭から踵まで壁にピタッと背中をつけてまっすぐ立たせるということをはじめた。たった3分間の立つだけのレッスン。これはスイスでもやっていた。けれどあれから3年はゆうに経っていてできていたはずの立つだけなのにできなくなっていた。
まー、ひよこ!あんた努力を怠るからこんなブスになるのよ。ブスになるのに余念がないわね。とボロカス言われた。
…すいません。
歩くのは?どうなのよ?
3センチ以上のヒールの靴を履くと左足首がグニッとなります。
は?
階段も落ちたし、捻挫もしました。
…ちょっと。あんた昔、左足首捻挫とかした?
はい。でも完治してますよ?
ちょっとまってなさい。
その場でヨハン先生はどこかに電話をかけ始めた。
あらー、お久しぶり。ていうか3日前にも会ったわね。うちの生徒ちょっと見てほしいんだけど空いてる時間あるかしら?
あら!そう。助かるわ。なら今から行くわね!
さ!行くわよ!!
どこにでしょう。
スポーツトレーナーのところ!
あんたの足!!みてもらわないと。
足首グニッはスイスの学校では先生に冷ややかに見られただけだった。
こんなことすらできないの?みたいな置いてかれる授業。そこは既に仕上がりまくってるアッパークラスなお嬢様達の最終仕上げみたいなところをするところだったから、日常生活からそれが必要とされる人達のための学校だった。上流階級社会というものがある。ということを身を持って体験した交換留学だった。
ハイヒールを履くと足首がグニッとなる。ていう話1つで原因を調べようとスポーツトレーナーのところまで連れて行こうとするヨハン先生のやり方はとても合理的で親切だとわたしは感じた。
スポーツトレーナーの先生は整体やマッサージもできる人で、ヨハン先生の話を聞くと隣に併設されている整形外科クリニックでレントゲン撮ってもらって。とすぐにアポをとってくれた。
話がどんどんでかくなる。
そしてわたしは支払いどうするんだ?と密かに脅えている。
レントゲンを撮り左足首の写真を眺める医師とヨハン先生とわたし。
骨は異常はないね。だとしたら庇うような歩き方で歩き方にクセがついちゃったか。と、診断され、トレーナーのスカルスガルド先生のところに戻る。
歩き方矯正しよう。
はい。
それでこれ調整したら良くなるのね?
もちろん。
ヒールの靴は?
問題ないよ。ただし、歩き方のクセを直さないことにはまたやっちゃうよ?
あたしこのコにハイヒールウォーキングのレッスンしないといけないんだけど?
今は無理かな。
まずは歩き方のクセを取ることとテーピングでアーチを作らないと。それと歩き方の練習ね。
それからからだの歪みの調整。
それからヒールの靴の練習。
もしできるなら靴の型を取ってオーダーしたほうがいいよ。オーダーインソールでももちろん問題ない。
今日はとりあえずこれが先と、スポーツトレーナーのスカルスガルド先生はわたしのからだを調整してくれた。ウソみたいにからだが楽になったのだった。
よかった。ありがとうございます。
次回の予約をいれた。
ヨハン先生はサクサク支払いしてった。
あの?先生?支払い…その
大丈夫よ。あなたのフレッドさんに請求まわすから。
えっ?
あなたにかかる費用は全てフレッドさんに回すように話はついてるの。
…なんてこったい。
わたしはね、あんたを引き受けた以上きちんと見てあげる義務があるのよ。立つ歩く座るは基本中の基本。それがスムーズで美しくなきゃ所作なんてキマるわけないわ。だからここは譲れない大事なことなのよ。
すげー。このひと。
ウォーキングがまだ無理なら…そうね。
クローゼットチェックしなきゃね。
スタイリスト連れてあんたんち行くわよ。
…い、いつ?
いまよ。いまから!
明日は?
今から!
あんた自分をどうしたいのよ?
そりゃもちろん人が道を開けるくらいにはなりたいですよ?
わかってんならさっさとしなさい。
はい…
そしてクローゼットチェックにヨハン先生とスタイリストの先生がやってきた。
…悪くない服なのに…
ほんとうにお洋服の質はいいですね。
あの2人が買ってくれたものですから。
…でしょうね。
ヨハン先生がクローゼットの服を全部だして片っ端からベッドや床に置き始めた。
あー。そういうことなのね…
な、何がダメなのか教えてくれませんか
あんたよ。原因は!
え…
あんたこの服に負けてるのよ。
ダサいことを隠れ蓑にしてんのよ。
なるほど。とスタイリストの先生が
うなづく。
あんたの心の問題ね。
これはおいおいコーチングも入れていかないといけないわね。
あと!これは全部いらないからっっ!
わたしが自分で買ったファストファッションの洋服たちはばあんっ!て放り投げられていく。ものすごい勢いで投げ捨てられていく。
差がすごいんだけど?
なんでこれ買ったの?
え、だから友達とお買い物いったときとかに可愛かったし安いし…。
おバカ!!みんなとあんたは似合うモノが違うの!!流行りに流されちゃダメ!顔が流行りを追う顔じゃないからダメっ!!
あんたの顔の造りは上質のもの、きちんとした仕立て。しか似合わない顔つきなのよ。
そんな顔つきてあるんですか?
あるわよ?骨格とか全体的なバランスとか
雰囲気とか、そういうの総合して見た目の印象が作られるの。
これは?
…お気に入りでして。
わたしがまだ10代の頃にアルバイトしていたバック屋さんのバックでずっと欲しくってバイト代が出たから買って。で、その。また使ってます。
いいじゃない。
ほんと。いい色になって。思い出もあって。
お手入れもちゃんとしてる。
よかった…
これは?
あ、なんか可愛くて。
却下。これからのあんたには似合わない。
てか今までだって似合ってなかったわよ。
信じらんないわ。
ぽいっ!プチプラアクセサリーはどんどん投げ捨てられていった。靴もそうだった。
残ったのは流行りに流されない質のよい服、メンズライクな服、エレガントでゴージャスな服。パーティードレス。
本物の貴金属のアクセサリー。
スニーカーは一足のみ無事。ローファーやパンプスはかろうじて無事(修理に出せとのお達し)
もうゴミ袋が6袋を超えようとしている
ガランドウに近いスカスカなクローゼット。
もうクソダサい選手権には出られないわよ?
わたしいくつか組み合わせてひよこさんに提案しますね?腕が鳴りますう!
なんていうのかしらエレガントでシンプルシックとマスキュリンがとっても似合いそうで。でもでもうんとゴージャスなパーティードレスも絶対映えちゃう!ウキウキしちゃう。
あーあんた。カジュアルな服はほんとうにクソダサくなるからどうしても着たいなら家の中だけにしなさいね。
…はい…
なんかもうすごいんだけどこの人たち。
じゃあ、次は髪を切りにいくわよ。
メイクアップアーティストを事務所に待機させてるから急ぐわよ
え
いやなの?あんた今の髪型面白いくらいに似合わないのに?ダサいに拍車をかけるその髪型が好きな理由でもあるならおっしゃい。
…してません。お任せします。
髪も綺麗で肌も顔だって上々。タッパだってある。なのに
なにしてくれてんのよあんた!自分に失礼だと思わないの?てか、なんでそうなったのよ!原因つきとめるからねっ!!!
ひーん…涙