裏ひよこ日記。流れに乗る?
ボスの応接室でミラ専務(部長から役員になってた)とアカデミーの教授とラボ兼ボスの副官なエルンスト先生からやたらとフレッドと登録しろとせっつかれているが、いったいどうなっているんだろう。
フレッドは表情は変わらないポーカーフェイスだ。このひとは基本的にパブリックな場所では表情を出すということをしない人だ。
しかしわたしがチラっと横を向いた時、一瞬だけ表情が変わった。
とりあえずこの場を切り抜けよう。そう言う目をした。
なのでわたしは少しだけ考えさせてください。明日には結論を出します。と答えた。
アルベルトはどうすんの?あのひと蚊帳の外にできないよ?
応接室を出て深呼吸した。
大丈夫か?とフレッドが声をかけてきた。
うん。大丈夫。
あ、わたし呼ばれてるからもう一個の用事すませてくるね。最上階にある会議室。
秘密の場所と言われているそこは普段は立入禁止区域になっているので警備員さんからボディチェックをされて1回限りのパスコードで入室を許可される。
なに言われるのかどんな話しをされるのか全然予想がつかない。
部屋に入ると10人くらいの人がいた。
…圧がすげえ
そこにかけなさい。椅子がひゅっと突然現れた。
沈黙がムリ…はよ帰りたい…
それで…キミは…さんで間違いないね。
はい。
まず先に特別査定枠に決まったことについての話しをしよう。
特別査定枠…
そんなカチコチにならなくても大丈夫だから。キミの最近の行動を読ませてもらったよ。
はい
ふむ…勉強は好きかね?
嫌いでは無いとおもいます。
ここ…MKHDではなくウリエルの学術アカデミーやラジエルのところに移籍したいなどの希望はあるかね?
…あの、正直にいいますと
正直結構、大いにはなしたまえ
ウリエルさんの学術アカデミーもラジエルさんもよくわかりません。入ったことがないので。
そうだな。
ここで働くのは好きかね?
はい。
でもキミはこのまま働き続けたらそのうち自分が潰れてしまうとおもったんじゃないのかね?
一人の人がわたしをまっすぐ見つめて問いかけた。あれ?わたしこの人みたことあるような?
あの、はい。そう思いました。ですがこの場所が嫌いとかではありません。
だろうねえ。宝の持ち腐れになるって閃いたからだろう?
…なんで知っているのだろう。
宝の持ち腐れ。確かにな。そうじゃろう。
何も磨かなければタダの石ころじゃて。
原石は磨いてこそ宝石となる。はじめからそうではないしのう。
それで今勉強していると。
はい
あの…わたしは今休職しているのでMKHDには貢献していません。なのでやはり退職したほうが良いかと考えたのですが、なぜ特別査定枠なのでしょう?他にもっと貢献している方はたくさんいます。
再び理解を深めるために自らを勉強するという環境に置くということがすでに貢献しているということになる。
キミが勉強する姿をみせることにより、すでに影響は出ておる。たった一滴の雫がどれだけ波及効果を生み出しているのかをキミはまだ知らない。
…ちょっと言ってる意味がわからない。
何もしていません。
他には覚醒を促したであろう?
いえ、なにも。
自分のガイドにわたしがあなたのガイドになるといったのであろう?お互いが導き手だと言うたのう
私たちは運命共同体であり、次元も時空も知ったことかわたしには関係ないといい、わたしが幸せにする。とガイドに宣言したのう。過去に連れ戻し、感情の整理をさせ、新しい人生を歩くために再生の息吹を吹き込んだではないか。
何その魔法使いみたいな人
どなたの話をしているのでしょう?わたしではないとおもいます。
キミだよ。
…全然わからない
キミは確かに再生をさせた。そして融合するために片方の魂を消すことなくお互いが相談した上で必要な部分だけを自分に取り入れるという前例のないことをした。
あの…罰せられるのでしょうか?
いや、実に面白いと思ったのだ。創造を巧みに操り実用化したということが評価されている。
さっきのまっすぐわたしを見つめていた人が立ち上がる。
お前さんには新たにサポートが入る。
それだけ磨かなければならない何かがあると言うことじゃ。研鑽するように。
はい…
なんのことか最後までさっぱりわからなかった。理解力が乏しいのだろうか、わたしは…
わからないまま評議会の話は終わった。
扉を開けるとフレッドが心配そうに駆け寄ってきた。
何の話だったんだ?
どっかの凄腕な魔法使いみたいな人の話かな?
何だそれは。
わたしにもぜんっぜんわかんなかった!
はあ…無駄につかれた。お茶して帰ろう?
あまーいモノ食べたい
奇遇だな。オレもそうだ。
どこいこっかー。
会社で話した事をアルベルトにどう言えばいいのか頭を抱えていたらフレッドがそれはオレが話すからお前は普段のままでいろっていってくれた。
夕ご飯は朝に作ったチキンスープと蒸した野菜と焼いた白身魚のアイオリソースにした。
白ワインを飲んだ。
少しはアルコールに慣れてきた。毎日ちょっとずつ練習していたのだ。
ひよこちゃん、そんなに飲んで大丈夫なの?
おウチだからへーき!外ではしてないから安心して?
アルベルト。会社でな。ひよこを一人にしてはいけないと言われた。
突然フレッドがアルベルトに話しだした。
一人暮らし続けさせたいなら滞在日数増やすか訪問回数増やせ。もしくはオレをプラハに赴任させるとよ。
…え、僕赴任したいんだけど。ひよこちゃん一人暮らししたい?
まあ、うん。滅多にない機会だし。
なら、10日にいっぺん1週間ずつくらいで交代てのはどうだ?
そうだねえ…
家どうするの?
借りるかホテル住まいかお前んちを引っ越してもう一部屋あるようにするか。
めちゃくちゃ無駄使いじゃん。
やってみてベストなやつが決まるだろうよ。
それとな
マズイ本題きた。
家族登録をしろと書類をわたされている。まあ出すか出さないかは自由意志だが
ああ、どうしよう。また傷つけちゃうんじゃないかとハラハラしてしまう
いいんじゃない?それがひよこちゃんを守れる手段の1つになるなら。
…え
いいんだな?
かまわないよ。何があっても僕の気持ちは変わらない。
ひよこちゃんはさ、
はい
僕の心配ばっかりしたらダメだよ。
もっと自分の事を考えないと。
意外だった。もっとゴネるかと思ってた。
ひよこちゃんは僕のひかりなんだからそれを守るためなら何でもするよ。
うん。ありがとう。
でも滞在期間は1週間じゃなくて2週間くらい長逗留させてもらうけどね。
仕事どうすんだよ。
社長なんてずっと会社にいちゃいけないよ。外で新しく人脈と販路開拓してくるくらいが社員にとって気楽でいいでしょ。
さあ、ひよこちゃんの新しい引っ越し先いいところみつけなきゃね。
3部屋は確保しろよ。
わかってるよ。
ファミリー向けの賃貸いいのなかったら買えばいいでしょ。
…買うんですか?
いい投資物件になるかもしれないじゃないか。
はあ、スゴイっすね
何も変わらないし、何か変わるわけじゃない。
ムリに合わせて変えようとしなくていい。変わるときには変わる。それでいいんだから不必要に考えたり悩んだりしたらダメだぞ?
ふたりから散々念押しされた。
次の日フレッドは書類にわたしと彼のサインをして総務に持っていった。
総務は湧いたらしい。登録とはいわゆるパートナーだと証明するものだからだ。
そういう制度はここにはないけど、組合独自のモノがあるらしい。
わたしの休職は無給になったのでわたしは無職に限りなく近い状態になった。
なので現実的にいうとフレッドの扶養になるのはある意味助かるといえば助かるのだった。
籍はあるので入管はできる。扶養だから福利厚生は変わらない。復職する時に扶養を外れたらいい。
あーでも次会社行くときどういう顔したらいいかわからない。
気恥ずかしい。
会社にいるはずのフレッドから、電話がかかってきた。わたしは家の片付けをしていた。
どしたの?
出した。
そうなのね。
ぴよぴよいまから外でれるか?用事ある?
とくにないよ?
ちょっと急ぎで買うモノがあるからでてきてくれたら助かる。
いいけど。
待ち合わせ場所はなんでここ?というところだった。抜け出してきたらしく1時間したら戻らないといけないらしい。
こんな大事なモノを今選ばないとダメなの?
仕方ないだろ。貸金庫開けるまでに時間かかるし、オレは自宅に戻る時間がいまはない。
次はじっくり探すから。
とりあえず急ぎでいるんだ。
ボスが刻印と祝福しないといけないらしくて。
はっ?
オレもさっき言われてビビった。
そんなの書類に書いてなかったし。
ねー、それ、あの人思いつきでいってない?
知らねえよ。いるっていうんだから。
これは?
なんか違う
じゃあこれは?
うーん…
とりあえずにしても気に入ったやつじゃないとイヤだ。
それは同意。買うなら納得したい。
私たちはキラキラしいそれらを眺めながらぶつくさ言っている。
もー!1時間で選べとかバカじゃないの?
苦笑いしていた店員さんが奥からたくさんのペアリングを出してきてくれた。
ものすっごいどシンプルなヤツが一番品がよさげだった。
アレは?
いいかも。
すいませんそれはめてみていいですか?
あづかる!じゃあな!また後で!ナルハヤで帰る!!
路面に横付けした車に乗り込んでフレッドは慌ててまた会社に戻った。
何なんだくそう。
ムカついたので取り残された宝飾店で
かわいいチャームブレスレットを見つけて
わざと家族カードを切ってやった。
記念によかろう。フレッドばーかばーか、べーっ!!
幸運を運んでくるという鳩のチャームのゴールドのボールチェーンブレスレットはとーっても可愛かった。
わたしは明日プラハに戻る。